第24話「再会の番、因果の報い」
辛くもベオウルフへと勝利した、アーケンとリーアム。
だが、互いに身体に引き受けたダメージは
しかし、その
「リーアム、あとは俺が――」
「うっさいわね、ブン殴るわよ? 絶対に一人で行かせないから」
「……わかった。俺に
「ちょ、ちょっと!? こ、こらっ、アーケン!」
ヒョイとアーケンは、両手でリーアムを抱き上げる。
ポカポカと本当に殴ってきたが、リーアムはアーケンの首に手を回して黙った。まだ、彼女の肌の上で刻印の力が不思議な
それは通常、左腕のみに紋様を展開させる。どうやらその状態で、第一段階とでも言うべき姿なのだろう。通常はそれで、勇者の能力を一つ封じるのだ。しかし、ベオウルフは二つの能力を持っていた
だから、第二弾階……左半身をほぼ全て紋様で覆った姿をリーアムは見せた。
彼女はこの姿を嫌っているというのに。
「な、何よ……ジロジロ見ないで。は、恥ずかしい、から」
「ああ、すまん。だが、奴は妙なことを言っていたな」
「……刻印を移植した、って。だから、二つの刻印を持って、二つの能力が使えたってことかしら」
「そうらしい。その上、奴は新たな刻印を得て生き返った。……勇者の刻印とは、何だ?」
その質問に応えられる者は、一人しかいない。
だが、誰もがその人物に生きながら会うことは叶わないだろう。
唯一、勇者をこの世界に転生させた神のみが、全ての真実を知っているのだ。そして、その勇者を真実とは関係なしに倒す。勇者が悪である限り、殺し続ける。
リーアムを抱いたまま、アーケンは邸宅を奥へと進む。
だが、本館には既にサイアム達はいないようだ。
そして……勝手口の向こうに、巨大な
「こっちか」
「アーケン、降ろして」
「……立てるか?」
「痛くて痛くて正直しんどいけど、泣けてくる程じゃないわ」
中は真っ暗だ。
そして、アーケンの背を守るように背を合わせるリーアムも、闇の中へと目を
「気をつけろ、リーアム。そこに誰かいる」
「気配がないわ、本当に?」
瞬間、不意に蔵の中が明るくなった。
突然、周囲の
そして二人は目撃する……目の前に立ち尽くす勇者を。
それは、
そして、腰元のダレクセイドが叫んだ。
「ダーリン! あれは……あの剣は! あ、ああ……あなた、なのね? 愛するあたくしの
アーケンもはっきりと見た。
血に
思わず駆け寄ろうとしたアーケンの耳朶を、リーアムの声が激しく打つ。
「危ないっ、アーケン!」
同時に、ロンダルギアへと激しい落雷が落ちた。かつて蒼雷の勇者だった
そして、その魔剣を床から引っこ抜く人影があった。
それは、
「惜しいですね……今の一撃で死んでれば楽だったでしょうに」
少女のような、そして
思わずリーアムの肩を抱いて身を起こし、アーケンは叫ぶ。
「貴様っ、サイアム! 父上の、母上の
「おやおや、そうなんですか? はて……どの
「うるさい、黙れっ!」
「ふふ、僕は殺す前、必ず
二人で立ち上がって睨むが、フードの奥で顔は全く見えない。
そして、ダレクセイドの呼びかけにロンダルギアは言葉を返してこなかった。ただ、サイアムの手で抜かれて、背の鞘へと戻される。
「ダーリン、夫の声がしないわ! 呼びかけてるのに!」
「ああ、無駄ですよ? これ、すっごくイイ剣ですね。気に入ったので使ってます。今後は勇者サイアムの
「やめてっ! お願いよ、やめて……その人を、夫を返して!」
アーケンが初めて聴く、ダレクセイドの悲痛な叫びだった。
そして、リーアムも驚きの表情に目を丸くしている。
常に
そんなダレクセイドを安心させるように、アーケンがそっと手を添える。
「サイアム……ケリをつけるぞ。そして、教えてもらおうか。死人さえ生き返らせる力……勇者の刻印とは、何だ?」
「ああ、そのことですか。……神々が異世界より
歌うように喋るサイアムとは別に、殺気がアーケンとリーアムを包んでいた。
明かりの
だが、今そちらへ注意を向ければ、一瞬で二人はサイアムに斬り伏せられるだろう。
緊迫した中でアーケンは、黙ってサイアムの言葉に耳を傾けた。
「僕は思ったんですよ。ひょっとしたら……僕達勇者は、刻印の方が本体なんじゃないか、って。刻印の力を世に解き放つため、神は僕達をこの世界に転生させた。刻印という名の
「何っ!」
「そう考えれば、納得するんです。なにせ僕達……もといた世界では一度死んでるんですから」
その言葉に、ハッとリーアムが目を見開く。
そして、彼女は苦悶の表情でこめかみを押さえた。
「大丈夫か、リーアム」
「え、ええ……なんだろ、今……頭の奥がズキンと来た」
フードの奥の闇に顔を隠して、サイアムは笑っていた。
彼はどうやら、独自の
彼はまるで、一週間の
「そうそう、死んだ勇者から剥ぎ取った刻印は駄目でした。だから……さっき、蒼雷の勇者から刻印を……ええと、名前は、あれ? ふふ、聞き忘れてしまいましたね。でも……ジャンヌの願い通り、彼の刻印で蘇らせたんです!」
不意に、アーケンとリーアムの周囲で気圧が変動した。
耳の奥にキンと鳴る違和感が、二人を逆方向へと散開させる。
一秒前の自分達を、眩い
間違いない、蒼雷の勇者の刻印の力だ。
「それでは紹介しましょう……二人の勇者、ベオウルフとジャンヌがもうけた子……新たな蒼雷の勇者、ロトを!」
ゆっくりと奥の闇から、一人の少年が歩み出る。
年の頃は13か14、アーケンやリーアムより更に若い。
「見てて、ママ……パパの仇は、僕が
あっという間に蔵の中を嵐が吹き荒れる。
思わず身を固くしてしまったアーケンは、リーアムに引っ張られて逃げ惑った。
「ちょっと、アーケン! しっかりして!」
「……奴の父の仇が、俺? 俺が……親の、仇」
「当たり前でしょ! でも、勘違いしないで! あたし達よ、あたし達二人! あんただけじゃないわ。二人で殺したの! 悪の勇者を! 協力して!」
親の仇を求めて、無数の勇者を殺してきた。
その果てに、仇の勇者を前に……幼い少年の、親の仇になってしまったのだ。
だが、その
「おやおやあ? 僕と戦わないんですか? あー、じゃあ……僕はこのへんでおいとましますね。まだまだ計画は始まったばかりですから。さ、ロト君」
「うん……サイアム様がくれたこの命で、母を守って父の仇を取ります!」
「君はいい子だね。仇を取ったら
それだけ言うと、サイアムが闇の中へと消えてゆく。
アーケンははっきりと、親の仇が目の前を通り過ぎてゆく足音を聴いた。
ダレクセイドのすすり泣く声だけが、いつまでも耳の奥へ反響していた。
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