第10話「発動!魔鞘ダレクセイド」
アーケンが大通りに出てすぐ、
頭から血を流した男が、もう一人の男に肩を貸されていた。もどかしい足取りで、必死に逃げている。周囲は、そんな彼等を気遣う余裕もない。
「クッ、この
絶叫がアーケンを駆り立てる。
呼吸も乱さず、再び
否、落ちてきた。
大地に激突した男の向こうに、蹴り足を大きく天へと伸ばしたリーアムの姿があった。
男は身を起こしつつ、くっきりと
「クソッ、なんて馬鹿力だ……小娘ぇ! 俺を誰だと思っていやがるっ! 俺は勇者……
すぐにその背へと、迷わずアーケンは剣を突き立てた。
だが、何の
「ほう、鉄甲の勇者……さしずめ、身体を
「あ、あががが……
「勇者の貴様に言われる筋合いはない。わかったら、死ね……いや、もう遅いか。お前の勇気は、もう死んでいる」
勇者の
異能の力を宿し、特殊な能力を発現させる刻印……その明滅が、徐々に弱くなってゆく。完全に光が消えたところで、アーケンは勇者の死を確認した。
鉄甲の勇者、死亡確認……また一人、異世界より転生してきた勇者が
だが、戦いは続く。
リーアムは
「全部で三人……残りは二人か! リーアム、今行く! ……ムッ?」
返り血を浴びつつ、アーケンが叫ぶ。
だが、鉄甲の勇者を貫通した剣が、抜けない。
死の間際に、
そして、ゆっくり脚を下ろすリーアムの左右で、勇者達が舌なめずり。
「よぉ、兄弟! どっちからヤる?」
「女! 女! 女ぁ!」
「同感だぜ兄弟ぃ! 女からヤる……
「おうよ! その前に……男を
血走る眼光で、勇者達の片割れが近付いてくる。
リーアムの前に残った勇者は、巨大な斧を肩に担いだ大男だ。
そして、アーケンの前には
アーケンは抜けない剣を握ったまま、鉄甲の勇者を
だが、小男は「ヒャハア!」と
そして、見るもおぞましい光景と悪臭にアーケンは顔を片手で覆う。
「……そうか、これが貴様の刻印の能力か」
「そうさ、俺の勇銘はぁ!
「酷い臭いだな、しかしお似合いだ。貴様のような
「ンだとぉ! 死にさらせぇ!」
みるみる鉄甲の勇者が、その
同時に、ふわりと周囲の空気が渦を巻く。
襲い来る腐消の勇者との間で、切っ先同士が
そして、
「終わったなあ? 剣も……
「の、ようだな」
アーケンの剣は、中程からボロリと折れて先が消えていた。
どうやら、鉄甲の勇者に触れていた部分、埋まっていた場所が腐食したらしい。ちらりと背後を振り返れば、折れた剣の先は遠い。
そして、半分以下になってしまった剣はいかにも頼りなかった。
だが、ポーカーフェイスを崩すことなくアーケンは身構える。
そして、愉快そうにダレクセイドが声をあげた。
「あらぁん? ダーリン、もしかして……あたくしの出番じゃないかしら? ふふふ、そうよね……きっとそう。あン、
「黙っていろ。……そのようだな」
「リーアムの方は、あれは心配なさそうよ? あの
「信頼している。それだけだ」
完璧に優位に立ったと確信しているのか、腐消の勇者はニタニタ笑いながら短剣を繰り出してくる。トドメに満たないが、触れれば流血を呼ぶ鋭い一撃。そのスピードは、常人は愚か鍛えられた騎士をも上回るだろう。
だが、既にアーケンは知っている。
超音速の斬撃を放つ、崇高なる女勇者の領域を。
「フッ、遅いな……止まって見えるぞ。さあ、どうした? 俺は、ここだ!」
「クソッ、ちょこまかと!」
「では……今度は俺の番だ」
アーケンは折れた剣を納刀する。
ダレクセイドは鼻から抜けるような声で
そして、身を低く沈めて身体を引き絞る。まるでそう、自らを弓として殺意の矢を
アーケンの異様な構えに、腐消の勇者が気圧された。
「て、手前ぇ、何の真似だ? トチ狂ったか?」
「正気さ……殺すしかないと思える程度には、十分正気だ」」
ゴクリ、と相手が
だが、剣の
この魔鞘は生きている。
それをずっと、アーケンは知っていた。
元の持ち主である父の、その愛刀だった魔剣とセットの
結ばれ
「さあ、祈れ。貴様をこの世界に転生させた、神とやらにな!」
「くっ、クソォ! 俺はもう勇者なんだ! 会社も上司もねぇ、
腐消の勇者が踊りかかってくる。
その時、アーケンは全身の筋肉をバネに、剣を抜き放った。
同時に
折れた剣が
そして……本来そこにはない、おぞましい異形の刃が現れていた。例えるなら、
「な、なっ……その、剣、は……折れ、てた……?」
「魔鞘ダレクセイド……その真の力は、多種多様な刃を瞬時に生み出すもの」
大きく振り抜いた刃は、その漆黒の刀身で天を
アーケンの頷きと同時に、ダレクセイドが産み落とした刃が粉々に
同時に、血の一滴すら流さずに腐消の勇者が真っ二つになる。
「お前の勇気は、死んでいた。この町を襲った時に、既にな」
ヒュン、と折れた剣を一振りして、鞘に収める。
満足気にダレクセイドが、色気と
それを見て、リーアムと戦う勇者が震え出す。
「なっ、なな、何だ!? お前等らも勇者なのか!? だったら何故、邪魔をする! この町には一人しか……ジャンヌしかいない
「リーアム、教えてやれ」
「そうね」
リーアムの左胸が、ベストの上からでもはっきりわかるほどに光り出す。
同時に、彼女の刻印から
すかさず、最後の勇者が手を突き出す。
「くっ、吹き飛べっ! ……あ、ありゃ?
「もう、あんたの力は封じたわ。そして、記憶なさいな。あたしは、あたし達は……
「ブ、ブレイ、ブレイカーズ……はっ! あの、
「
瞬時にリーアムが距離を詰めた。
反応できずに固まる勇者に肉薄し、その足を踏み抜く。
同時に、インパクト。
逃げる脚を殺されたまま、顔面に拳をめり込ませて勇者は倒れ込んだ。
トドメとばかりに逆の拳を振り上げる、リーアムのしなやかな二の腕へとアーケンは触れる。そして、やんわり相棒を制しつつ……懐から例の
「おい、貴様……この刻印を知っているか?」
「……へ? おっ、おお、教えたら助けてくれるのかっ!」
「楽に、殺してやる。痛みは一瞬だ。だが、正直に答えないのなら」
「わっ、わかった! み、みみっ、見せろ! あ、いや、見せてくれ」
アーケンの紙切れを受け取り、開いて……その勇者は戦慄に凍りついた。
「こっ、ここ! この刻印はあ!」
「知っているのか? 場所は、右肩の後ろだ。知っているな? 貴様っ、見覚えがあるな!」
リーアムを手でどかす、その行動が荒っぽくなってしまった。
だが、
アーケンは、その場で
だが、静かに声が耳を打った。
「待って下さい、アーケン。殺す必要はないでしょう……それに、情報を引き出すなら私達が、ガレーメン自警団が。……これ以上の流血は無用です」
振り向けばそこには、ジャンヌの姿があった。
彼女は町の民を守ってくれたことを、丁寧に感謝の言葉で伝えてくれる。アーケンはその
結局、アーケンは
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