恋って何ですか?


高校一年の冬。

肌寒い季節が私にもたらしたものは、やけに早い鼓動だった。

写真部に入って、優しい先輩達に色んなことを教わって、写真とカメラが大好きになった。

今の私は、写真に夢中な女子高校生。それだけだ。

その筈なんだ!


「あ!手鞠ちゃん!」


「っ!?」


写真部の優しい先輩である良壱(ヨイチ)先輩が、カメラを首から下げながら私を呼んでいる。

クシャクシャの髪とメガネのせいでオタクに見られがちだけど、良壱先輩はとても爽やかで穏やかで、メガネ外して前髪上げたらアンタ誰っ?てくらいカッコイイ人なのだ。

それに比べて私は、なんの変てつもない女の子。

写真が好きな、ただの女子高校生。私が好きなのは、写真とカメラ。


「っ!?」


「なんで!?逃げた!?」


昨日まで普通に挨拶できてたのに!先輩の顔を見るのも大変なくらい、恥ずかしさを感じる!!良壱先輩、なんて名前をよく呼べてたよ自分!?

なんで?なんで!?

どうして、こんなに顔が熱いんだろう!?

病気なのか!!

良壱先輩には、半径5メートル以上近づける気がしない。


「っなんで、追いかけてくるんですかぁあ!?」


「逃げられたら、追いたくなるじゃん!?」


「今はそっとしておいて下さい!!」


「ヤだよ!俺、手鞠ちゃんに逃げられるようなことしてないもん!!」


「誠に勝手ながら、私の一身上の都合なんですっ!」


「改まってどうしたの!?」


何で!?

逃げ切りたいのに、追われてるのがすごく嬉しい。

身体中が熱い。

私、どうしちゃったんだろう!?


「やっぱり先輩のせいです!!」


「えぇっ!?」


追いかけてこないでよっ!

自分でも、よく分かんないんだから!!


「先輩のせいで、動悸がするんですぅううっ!!私、死んじゃう!?」


「…………手鞠ちゃん、俺に捕まってくれたら、原因教えてあげるよ!」


「だから、先輩のせいだって言ってるじゃないですか!!近づかないで下さいっ」


「可愛いけど、可愛くないっ!?」


「可愛くないって言った!?先輩のばかぁあああ!!」


「やっぱすんごい可愛い」


先輩との鬼ごっこは、暫く続いたのだった。



後日談


「手鞠ちゃん、手鞠ちゃん。…いい加減彼氏見つけて全力で逃げるのやめてよ。」


「だって!先輩見たらドキドキがバクバクでウキウキで、た、た、耐えられないっ」


「…(なんでこんなに可愛くバカなんだろうか?)」


「よ、良壱先輩?」


「手鞠ちゃん…もっとドキドキしてみようか?」


「へっ?や、ヤですよ!」


「大丈夫、俺もおんなじくらいドキドキするからっ」


「それで、何が大丈夫なんですかっ!?」


レモンの味はしなかった。






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