14 騒動の元はいつも御神木? その5


「季白さん! 英翔様がっ!」

 離邸に駆け込むなり叫ぶと、すぐに書庫の扉の一つが開かれた。


「どうしました!? 英翔様に何がっ!?」


「左足を傷められてしまわれて……」

 駆け寄りながら早口に告げると、季白の顔が怒りに歪む。


「英翔様は張宇と剣の稽古けいこをなさっていたはず……。何をしてるんですか、張宇はっ!」


 正直、怒り狂っている季白は怖い。

 が、張宇に無実の罪を着せるわけにはいかない。誤解を解こうと、怯えながらも口を開く。


「違うんです! 張宇さんではなく私が……」


「あなたが!? いったい何をしたのです!?」

「その、木から落ちた私を、英翔様が助けてくださろうとして……」


 説明しかけたところで、張宇に背負われた英翔が、離邸の玄関に姿を現す。


「英翔様! お怪我の具合は!?」


 明珠を放って、季白が主に駆け寄る。

「少し左足をひねっただけだ。騒ぐほどの怪我ではない」


「騒ぎますよ! 御身がどれほど大切なものか、少しは自覚してください! さあ、早くお部屋へ……っ」


 四人で英翔の部屋へ移動する。


「服が汚れている。長椅子の方へ頼む」


 寝台に下ろそうとした張宇に、英翔が指示する。

 季白が手伝い、英翔を長椅子へ座らせる。


「失礼いたします」

 床にかがんだ季白が英翔の衣の裾をめくり、顔をしかめた。


「どこが少しですか! かなりれていらっしゃるではありませんか!」


「っ!?」

 明珠の顔から血の気が引く。


 季白の手がふれて痛かったのか、英翔が秀麗な面輪おもわをしかめる。が、唇を噛んで声を洩らさない。


「申し訳ありませんっ! 私――」


「喉が渇いた」

 謝ろうとした明珠の声を、英翔が遮る。


「喉が渇いた。明珠、茶を入れてきてくれ」

「あの、でも……っ」


「明珠。いいからお茶を頼む。俺も英翔様も、剣の稽古をして、喉が渇いているんだ」

 張宇が肩を叩いて促す。

 明珠は後ろ髪を引かれながらも、部屋を後にした。

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