ウェルファの策
「どうして、あんたは魔族の味方なんだ?」
マイリを奪還し、ウェルファは男を縛り上げた。
「どちらの味方ということはない。ただ戦うのは無益だ。せっかく蘇った命を無駄にするなんて」
男の問いに、ウェルファは答え背を向けた。マイリは黙ったまま、ウェルファの隣にいる。
マイリが隠されていた場所は、ガルシンの家の傍の小屋の中だった。ウェルファは男を小屋に残し、扉を閉める。念のために鍵をかけて、小屋から離れた。
戦いの前、あれほど賑わいを見せていた人々の影は消え、森には静けさが戻っていた。
「マイリ。今は人間も魔族も戦いに夢中だ。だから、安全な場所に君を移動させる」
「それは嫌だわ」
「言うことを聞いてくれ。君が再び人質に取られたら、身動きがとれなくなる」
ウェルファにはっきり言われ、マイリは悔しそうな顔をしたが、頷く。
「私の家、行ったことがなかっただろう。そこで私を待っていてくれ」
ウェルファは土の精霊に頼み、シランの彼の家に飛ぶ。そうして、マイリを残し、彼は再びアドランに戻った。
☆
「面白いことになっているな」
ルダはガルシンとの戦いの最中にかかわらず、余裕の笑みを浮かべた。ガルシンは彼から少し離れると、ルダが見ている方向へ目を向けた。
「精霊?」
石に戻っているはずの精霊が再び現れ、しかも対決の様相を見せていた。
「人間同士がいがみ合い。面白いことだ」
ガルシンはセンミンと相対する彼の姪と甥を視界に入れ、顔をしかめる。
センミンの背後には、王がいて、その諍いの意味が理解できた。
ガルタンを弟子にとって三年、彼は出来のよい弟子に満足を覚え、師弟愛すら感じていた。アドランで氷漬けにしたもの、殺す目的ではなかった。
だが、友でもあった王が魔族に殺され、彼は憎しみで全てを捨てた。生き返った王、生き返った兵たち、民……。
すべては元に戻った。
けれども彼は憎しみを忘れられなかった。
「あれは、裏切り者だ。お前達は消滅すべき存在なのだ」
「それは儂の台詞だ。戦いにも飽きてきた。ようは王を再び殺せばいいことだ」
「させるか!」
再び殺させるわけにはいかないと、ガルシンはその前に立ちふさがる。
「飽きたと申したであろう」
ルダは杖を構えると、炎の魔法を使った。
ガルシンは水の魔法で壁を作るが、簡単に破られ、その体が炎に包まれる。
だが、炎はすぐに消滅した。
「何?」
「後味が悪いからな」
炎を消滅させたのは土の精霊タナリの黒い炎。
アドランに戻ったウェルファは、ガルシンの体が燃えるのを見た。
「味方」ではないし、マイリの拉致を指示した者だ。けれども、反射的にタナリに命じていた。
「タナリ。杖を奪い、石に封じろ!」
ガルシンの魔族への憎しみは異常に思えた。彼の意志がこの戦いに大きく影響しているようにウェルファは思えてならなかった。だから、その動きをタナリに封じさせる。
杖がなければ、ガルシンは魔法を使えない。
それであれば、土の牢を抜けることは不可能だ、そう判断してウェルファは命じた。
「少し穴を開けてくれ。死んでしまうからな」
殺す目的はない。
そうして彼の動きを奪い、ガルシンは魔族の長に向き合う。
「ルダだったかな。戦いは無意味だ。魔族を引かせてろ。私が人間の動きを止める」
「笑止な。なぜ、戦いをやめなければならない。貴様が人間の動きを止められるものか」
「お兄様!」
飛び込んできたのはルディアだ。
その後ろにはいるのはランデンで苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
「その人は信用できるわ。魔族に危害をもたらす人じゃない!」
「お前の言うことなど信用できない。ランデン」
ルダは忌々しそうにそう言った。ランデンがルディアを押さえたが、ルディアは言い募る。
「お兄様。折角蘇った魔族の命が再び失われる。こんなに悲しいこと、今戦いをやめれば救われる命もあるのに。お兄様!」
「ランデン。黙らせろ」
「お兄様!」
ランデンはルディアを引き寄せ、手刀を浴びせ気絶させようとした。
「タナリ。さっきと同じだ。ルダを封じろ!」
話しても埒があかなければ、黙らせるのみ。
ウェルファはそう命じて、土の精霊はすぐに動いた。杖を奪い、ガルシンにしたように土の牢屋を築いていく。
「ルダ様!」
ランダンはルディアを放し、救出に向かうがすでに遅し。
土の牢は完成した。
火や水の魔法では打ち破るのが難しい土の牢屋だ。
「この!」
「ランデン!やめるんだ。戦いは無益だ。犠牲をこれ以上出してどうするんだ。私が人間の動きを止める。だから、お前は魔族を引かせるんだ」
「そんなこと!」
「ランデン!お願い。リリーズも他の皆もまた殺されてしまう!」
ルディアはランデンに懇願し、彼は周囲を見回す。
アドランの村で死んだはずの者たちが蘇り、人間と攻防を繰り返していた。傷つき、倒れていく。折角生き返ったのに、また繰り返しだった。
「わかった。人間よ。私はもう一度信じてみる。人間を止めてくれ。私は魔族を引かせる」
ルダの命がないまま、むしろ命に逆らう行為だ。だが、アドランの村で弔ったいくつもの躯の冷たさを思い出す。死んだ同胞が蘇っているのに、再び死に追いやることなどできなかった。
「ランデン!」
ルディアはランデンに抱きつき、彼はぎこちなく彼女を抱き返した。
「戦いをとめる。絶対に」
ウェルファはそう宣言し、人間側の長である、王に目を向ける。
センミンが王を守り、アイル達と敵対している光景が視界に入った。
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