再び精霊達
「ロンエン!」
火の魔法を操るルダは火の魔法で最大の効果を持つ言葉を唱える。
「サラジュラ!」
それを防御して、氷の壁を築くのはガルシンだ。
けれども、ルダの魔法の威力が強く、氷の壁は砕け散る。
「今度こそ死ぬがいい」
ルダは杖の先を氷の矛に変え、ガルシンを突き刺そうと試みた。
だが、それをガルシンが必死に避ける。
「アドランの王は生き返ってしまったか。それでも儂が憎いか?」
「お前が生きている限り、王は何度でも危険にさらされる。ここでお前には死んでもらう」
「それは儂とて同じ。我ら残された魔族を生かすため、人間を滅ぼす。そのためにまずアドランの王を殺さねばならない。裏切り者を」
「裏切り者?どの口がそんな戯言を。王は裏切りなどしていない。しかけたのは魔族だ」
アドランの民は一年前まで魔族に友好であり、王もそうであった。村を襲われた魔族がアドランの民を襲い、王は決断せずにいられなかった。
きっかけはクワンの民による魔族の子の殺害。これは獣を狩ろうとして誤って起きた不幸の事故。しかし子の復讐のため魔族がクワンの民を襲い、それの復讐だと今度はクワンの民が魔族の村を襲った。その結果、魔族がクワン民とアドランの民の区別もなく、アドランの民を襲い、戦いは広がった。誤って起きた事が、収集がつかないレベルまで大きくなったのが今回の戦いだ。
「今さら話など無駄に過ぎぬ。我らは相容れぬ者なのだ」
「異存はない。マジュラ!」
ガルシンは間髪いれず、氷の槍を作り出す。
「無駄だ。ホンエン!」
けれども、ルダは最大魔法でそのすべてを焼き尽くした。
☆
泉からナルとアイルが出ると、泉が光に変わり空に吸い込まれるように消える。残ったのは光り輝く大きな石で、アイルは近づいた。
「奇跡の星?」
「そうだ。神は人間を許さず、精霊たちは元の世界に戻れない。だから」
ナルは七色に輝く石を軽々と持つと、それを地面に落とした。
「ナル!」
「アイル。まだ精霊の力が必要だ。ほら、見ろ」
砕け散った破片が部分的に集まり始め、それは五つの石の姿をとる。そして精霊たちが姿を現した。
「金の精霊、木の精霊に、土の精霊……」
アイルに名を呼ばれ、金の精霊チェリルは魅惑的に、木の精霊リリーは遠慮がちに微笑む。土の精霊ナタリはあいからず仏頂面のままだ。精霊は三人のみ。火と水の精霊の石がそのまま石の姿のままであることに、彼女は首をかしげる。
「水と火の精霊は、君が持っている石によって封印されている」
ナルに言われ、アイルは懐を探る。するといつの間にか二人を石に閉じ込める時に使った石があり、取り出した。
二つの石はそれぞれの精霊の石に呼応するように輝く。
「アイル。神が人間を完全に見放した。だからこの戦いは俺達で決着とつけないといけない。神はおそらくどちらかが滅んでも構わないと考えているのだろう」
ナルがそう語るので、アイルは彼を仰ぎ見る。
――どうしてそんなこと知っているの?
彼女が口に出さない疑問。けれどもその表情を見ていると質問が明らかで、ナルは苦笑して答えた。
「アイルを待っている間、銀の精霊がいろいろ聞かせてくれた」
「銀の精霊?」
彼女に盾と石を託した精霊で、ひどく冷たい印象のある銀の精霊。それがナルに色々情報を与えたのが信じられなくて、アイルはひどく驚いた顔をする。
「嫌味もたくさんだったけど。まあ、セフィーラとはまた違った面白いやつだった」
ナルの言葉にアイルはますます疑問が湧くが、今はそんなことを考えている場合はではなかった。
「アイル。ワタクシは一足先にセンミンの元へ行きますわ。この戦いでまた誰かが死ぬことほど、馬鹿らしいことはありませんから」
金の精霊は相当焦っているのか、アイルの返事を待たず姿を消す。
「アイル。ワタシはガルタンの元へ。状況が状況ですから」
次に木の精霊がそう言って、光に姿を変えると消えた。
土の精霊はアイルをただ見つめる。彼女が頷くと、ナタリは砂煙を起こして、いなくなった。
――これで戦いは終わる?いや。まだ止められない。戦いを先導する人を止めないと。
人間の指導者はセンミンに違いないと彼の姿を探していると、小綺麗な服をまとった一団を見つける。その中で王冠を頭上にいだいた人物がセンミンに類似しており、アイルは彼がアドランの王だと確信した。
――センミンは王子だけど、本当の指導者は王だ。彼に戦闘をやめるように言ってもらえれば
「アイル?!」
突然駆け出したアイルに驚くが、ナルは彼女を追って王の元へ向かった。
☆
「精霊?!」
一つの石になり、消えたと思っていた精霊の一人が姿を現し、見張りの男は驚きの声を上げた。
「なんてことを」
木の精霊リリーは己の契約主とその姉が氷漬けになっている姿をみて、怒りを表した。一気に大木になったリリーを怯え、見張りが悲鳴をあげながら逃げる。
「木の精霊か。 タナンも!」
ウェルファは男の逃げる背中を追った後、木の精霊に続き、砂の塊が出現したことに期待を持って、その名を呼ぶ。
タナンは人型に変化すると、まず契約主であるウェルファを拘束から解放した。
「ありがとう」
「ウェルファ。ガルタンとシアの魔法を解いていただけますか?」
リリーは再び人型に戻り、ウェルファに頼む。彼が土の精霊を見ると、あいかわず無表情だが頷く。そうして黒い炎を生み出し、氷漬けの二人に放った。
前回のガルタンの氷が消えた時のことを思い出し、ウェルファは氷から自由になった二人を支えるために走った。けれども、リリーが先に行動を起こしており、氷が消え地面に投げされそうな二人の体を支えた。
「大丈夫か?」
ウェルファはリリーに抱えられた二人に近づき、無事を確認する。二人はゆっくりと瞼を持ち上げ、ウェルファと二人の精霊が目の前にいることに瞼を瞬かせた。
「どういうこと?」
「私にもわからない」
精霊が突然現れた。ウェルファがわかっているのはそれだけだった。しかし彼にはやることがあった。
「タナリ。付き合ってもらうぞ」
彼は人質になっているマイリを見つける必要があり、タナンに声をかけるとあの大きな剣を掲げて戦っている男を探す。
「ウェルファ」
状況が見えないシアは当然タナンを連れて戦場に飛び込んだ彼の名を呼ぶ。
しかし彼は振り返ることはなかった。
「ほっときなよ。姉さん。彼には彼のやることがあるんだろう。僕達は、この戦いを止めないといけない。行こう」
「ああ。そうだね」
弟に手を差し出され、シアはその手を掴むと魔族と人間の戦いを睨んだ。
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