アドラン王
「ルディア様!」
ランデンは人間に襲われかかっているルディアを救い、氷の矢を放つ。けれども、ルディアが杖を持っている腕を引いたため、氷の矢が人間に当たることはなかった。
「ルディア様!」
「ごめんなさい。ランデン」
声を荒げるがランデンにルディアは泣きそうな顔で謝る。舌打ちをしたが、ランデンはルディアをかばいながらも殺さない戦いを続けた。
☆
「なんだよ。いったい。なんで!」
ガルタンは争いを始めた魔族と人間両方に、戸惑いを覚えたが、死者が出ないように魔法を使う。
「なんて馬鹿なんだよ!人間も、魔族も!」
その隣で小さな炎を脅しのために放っているのは、シアで、苛立ち気味に叫ぶ。
「こんなはずでは、この戦いに意味はない」
魔法を使うことはできない。けれどもウェルファは魔族によって傷つけられなそうな人間を救ったり、その逆に魔族を助けたりと、己でできることをしていく。
そんな三人の奮闘は人間側、ガルシンにとって邪魔にしかならなかった。事前に準備していた通りに動く。
己に追随する魔法使いに囁き、計画を実行に移した。
火と水の魔法使いは魔族ではなく、ガルタンをいっせいに攻撃する。
「な、んで」
魔族から攻撃を受けるのは理解できた。だが、意味がわからず、ガルタンは叔父に視線を向けた。だが、視線が返ってくることはなかった。
「また、裏切るのか。ガルシン!」
信用していなかったはずだったのに、ガルタンの胸に痛みが走る。
「叔父さん!」
シアの目の前で、他の魔法使いに囲まれるガルタンを目撃し、彼女は非難の声を上げた。けれども、シアに対して同様に攻撃を加えられる。
「くそっ、叔父さん!」
ガルタンは精一杯の抵抗をするが、魔法使い三人による攻撃を防ぐことは容易ではなく、最後には氷漬けにさせられた。シアはそれを見て絶望的な思いにかられるが、すぐに自らの同じ運命をたどる。
「ウェルファだったか。無駄な抵抗はよしたほうがいい。お前の恋人は俺らの手の内だ」
「なんだと!」
二人への攻撃と同時に、ウェルファにも戦士の一人が近づき、そう言った。
「俺だってこんなことしたいわけじゃない。大体お前が精霊の契約主でなければ人質など卑怯な手を使うことはなかったんだ」
疑うことができたが、ウェルファは目の前の戦士が嘘をついていないことがわかった。
「全てはガルシンの計画か」
「そうだ」
男が答え、ウェルファは無抵抗を表すため、両手をあげる。
「戦いが終わるまで、おとなしくしてもらおう」
「マイリはどこだ?」
「安全な場所にいてもらっている」
「安全。確かだろうな?」
「確かだ。俺の敵は魔族だ。人間じゃない」
男はウェルファの手足を縛り、シア達を閉じ込めれた氷の近くに押しやる。そうして、腰から大きな剣を引き抜くと、魔族に向かって駆け出した。
三人の力は魔族の助けになっていたようで、勢力図が変わっていく。
拮抗しているように見えた戦いは魔族に不利になっていった。
☆
泉から次々と蘇った者達が上がっていく。
王の姿どころか、センミンが待ち焦がれているーーアイルの姿はなかった。
「センミン!」
ガルシンはそんな彼に呼びかける。しかし聞こえないのか、センミンは泉の側から動こうとしなかった。
かなりの人間が蘇っているのだが、王を始め王族の姿はまだない。
しびれを切らしたガルシンは、高みの見物とばかり、離れた位置にいるルダを睨む。
一人でいるのを確認し、ガルシンは杖を握ると一直線に彼を目指した。
☆
「センミン。よくやった」
アドランの王は泉から出るとすぐに、己の五番目の息子の姿を見つけ声をかけた。アドラン王の髪色は銀色、ほっそりとした顔立ちも似ており、ガルタンが人目で彼が王子だとわかったのも道理が置けるくらい、類似していた。
王に続き、センミンの兄弟、妹達、王妃が姿を現す。
彼らはセンミンに目を向けると、不愉快そうに眉を寄せ、王のように話しかけることすらない。
無視か、悪口か、センミンへの態度はそのようなものであったが、今回ばかりは違うのではないかと一瞬でも期待した彼は自嘲するしかない。
けれども、彼らが殺され味わった気持ちは、そんな彼らを肉親だと認めていたもので、センミンは複雑な心境に陥るしかなかった。
「センミン。何をぼさってしているんだ。お前も戦いに行け。そのために兵団に出入りしていたのだろう」
最後に出てきたのは、王太子で、慇懃無礼に弟に物を申す。
王太子は王にそっくりのセンミンが嫌いで、何かといえば彼に絡んできた。
「センミン。早く行かぬか。王族の一人として示しをつけろ」
王族の一人、ほかの兄弟は鎧を着ている者もいるにもかかわらず、戦いに身を投じようとする者はない。王族として示しをつけるといえば、彼らも行くべきなのだが、誰として動こうとせず、不安そうに魔族と人間の戦いを見守っている。
泉はまだ光をたたえたまま、だが、もう魔族も人間も上がってくる様子はなかった。
アイルが知らぬ間によみがえっているのかと、周りを見渡すが、彼女らしい姿はなかった。泉が現れてずっと傍に立っていたので、センミンがアイルを見逃すわけがない。
「センミン!」
苛立ち紛れに王太子に名を呼ばれ、センミンは我を忘れ一瞬彼を睨む。怯えた顔をされ溜飲をおろすが、王である父が彼に命じた。
「センミン。王子の一人として、その雄姿を民衆に見せる必要があるのだ。頼む」
命令ではなく、要請という形なのだが、彼には命令と同じようなものだった。
アイルのことが気になるが、センミンは金の剣を抜くと、駆け出した。
父や兄弟を殺され、憎しみに身を焦がした。
こうして彼らが蘇り、以前を変わらぬ冷たい態度で示され、センミンの中で憎しみという感情は薄れていく。
戦いに迷いは邪魔にしかならない。
けれども、彼は信念がないまま、戦いに身を投じるしかなかった。
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