神の考え
「そんな都合のいい話あるのかよ!」
ガルタンは反対したが、結局アイルは彼に説明したことをそのまま皆に伝える。
第一声を発したのはセンミンだ。
もちろん、あの二つ石を使った場合、命を失うことは伏せてある。
「まあ、落ち着け。ありえるだろう。バルーが最初に神の声を聞いて精霊の石を探し始めたんだろう。その妹のナルが神の使いにあってもおかしくない」
ウェルファは彼の右隣に座っており、諌める役目に回っていた。左隣に座るのはガルシン、その向かいにはシア、アイル、ガルタンの順で腰掛けていた。
「だが、」
殺された者がすべて生き返るなら、戦う意味はない。
戦意を突如削がれた形になり、センミンは戸惑いの中にあるようだった。アイルは王族が殺されたことをガルタンから聞いており、彼の戸惑いも理解できる。だが、このまま戦いをせず、平和に解決することを願う。それが、神が目指すもので、アイルが目的をするものだから。
「ナル……いいえ、アイル。銀の盾を拝見してもよろしいかしら?」
突如、金の精霊が人化してアイルに声をかけた。しかもわざわざアイルと言い直した。
「アイルか。もうナルと名乗らないんだな」
そう言ったセンミンの声は冷たく、アイルはなぜか悲しくなる。
「あら。センミン。女の子をいじめるのはどうかと思いますわよ」
「ああ、そうだ。ナル、いやアイルをいじめるのはやめろよ。男らしくない。王子のくせに」
「なんだと! いじめるなんて。そんなわけないだろ!」
二人の発言は場違いなのだが、センミンは単純に怒りを覚えたようだ。
アイルは突然始まった諍いに、戸惑う。
ほかの者が呆れたような顔をしている。
場を和ませるために、チェリルはわざとナルの名を言いなおしたようだ。
「じゃあ、素直にアイルって呼びなよ。王子さん。可愛い名じゃないか」
「王子、王子ってうるさいな。前みたいにセンミンと呼び捨てのほうがましだ」
「あ。それってさあ。もしかして王子って身分が嫌だったの? だから家出したの?」
「そんなわけないだろ! 俺は子供じゃない!」
センミンとシアの会話はますます熱が篭り、本題からそれていく。が、それに耐えられず、とうとう口を挟んだのは年長のガルシンだ。
「チェリル殿。先ほどこの……アイルに銀の盾を貸すように言っていたのだが、どういう意味かな」
「まあ、覚えていたのですわね。アイル。銀の盾を貸してくれるかしら。確かめたいことがあるの」
ガルシンに問われ、チェリルは彼女に笑顔を向ける。いつの間にか、センミン達も争いをやめていた。
「どうぞ」
意味はわからないが、アイルは素直に彼女に盾を渡す。
チェリルは皆の視線が集中する中、盾を撫でながら口を開いた。
「これは本物の銀の盾ですわ。弟の力が篭ってますから」
「お、弟?!」
「え?」
「精霊にも姉弟がいるのかい?」
「ええ。弟は神に直接仕えていますの。ワタクシも以前はそうでしたけど」
チェリルはそれぞれ驚く面々に微笑み、アイルに盾を返した。
「ですので、センミン。アイルの言葉は事実ですわ。神が、考えを変えたのでしょう」
彼女はきっぱりとそう言うと、用事は済んだとばかり、また石の姿に戻る。
残された面々はしばらく黙っていたが、沈黙を最初に破ったのはシアだ。
「センミン。これでわかっただろう?あたしは、すぐにでも火と水の精霊のところに行って、石の姿に封じて、失われた泉で、皆を生き返らせることが一番だと思う!」
「姉さん!」
姉の発言に喜びの声をあげたのはガルタンだ。
アイルもシアが同じ考えであることに安堵する。
「俺は反対だ。生き返ったらいいのか?あんな風に殺され、躯を晒されて。俺は許せない!」
しかしセンミンはすぐにそう言ってシアを睨んだ。
「王子さん。あんな風に殺されて、躯を晒されて? それは、アドランの村で殺された魔族も一緒さ! 王族だけが特別じゃない!」
彼の反論にガルタンは立ち上がり、センミンに言葉を投げつける。黙っていられるわけがなく、彼も腰をあげ、二人ににらみ合う形になった。
「二人とも、落ち着け。座れ」
ウェルファは少し疲れた様子で立ち上がり、仲裁をかける。だが、二人は今にでも喧嘩をしそうな雰囲気だ。
「センミン様。私もシアの考えに賛成です。無益な争いはやめましょう。王を始め、犠牲になった人々が生き返る。すばらしいことではありませんか」
「ガルシン!」
センミンは自分に賛同してくれているはずのガルシンにそう言われ、噛み付くように彼の名を呼ぶ。
「センミン様。落ち着いてください。今は最善策を選ぶべきです」
「最善策。俺は納得いかない!」
味方を失った形、そうではないのだが、彼は席を立ち、そのまま背を向ける。
「センミン!」
アイルが立ち上がり、彼を追おうとしたが、先に動いたのはガルシンだった。
センミンが苛立ちぎみに廊下を駆け抜け、それを追うガルシン。
アイルは行き場がなくなり、とりあえず再び椅子に座る。
「ナル……じゃなかった。アイル。ほっときな。叔父さんが説得するさ。戦いなんてしないほうがいいんだよ。本当は」
シアはアイルを慰めるようにその肩を撫でる。
「……僕はちょっといやな予感がするんだけど。ガルシンは信用おけない。あの王子はもっとだ」
「ガルタン。あんた、どうしたんだい?氷漬けにされたのがよっぽど頭にきてるんだね。あれは、あんたを救うために仕方なくやったみたいじゃないか。あのままじゃ、あんたもアドランの兵士に殺されるところだったんだろう?」
「僕は、それでもよかった! 姉さん。ガルシンは魔族を殺す手伝いをしたんだ! 僕はそれが許せない!」
「……確かにそうだけど」
「私もあのガルシンという人をそこまで買いかぶるのはよくないと思っている。なにか考えているみたいだ」
「ウェルファ。あんたまで。まったく。考えすぎだよ。だって叔父さんだって無益な戦いだって言っていたじゃないか!」
二人が消えた場所を睨むガルタン、そして考え込むウェルファにシアが呆れたように溜息をついた。
アイルもガルシンに関しては二人と同意見で、何か嫌な予感がして手の中の二つの石を強く握り締めた。
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