気の重い再会
「これが神の使いの、銀の精霊から渡された銀の盾と石です」
銀の精霊から説明されたことを話し、アイルは証拠とばかり、手に持っていた盾と石を見せた。
「ちょっと貸して」
一瞬だけ躊躇したが、自分が相手を信じなければ、相手も自分を信じない。
アイルはガルタンに盾と石を渡した。
「すごく軽い。石は、綺麗だけど、魔力は感じないね」
淡々と感想を述べる彼に、彼女は少し落胆する。
――やはり信じてもらえないか。
「いいよ。僕は君に協力する。君の話が本当であると信じたい。僕を救ってくれたリリーズ、この村で殺された魔族、アドランの街で殺された人々、彼らが生き返るならそんな、すばらしいことはないから」
「ありがとう」
「お礼は必要ないよ。さて、出かけようか」
「どこに?」
「木の精霊の石のところ。僕、木の精霊の石をアドランの街近くに埋めてきちゃったんだ。もう使うつもりはなかったから」
彼はそう自嘲し、アイルはただ聞いているだけ。
人には聞かれたくないこともあるだろう。
そう思い、理由はあえて尋ねなかった。
「また戻るのも滑稽だけど。街の外だから、大丈夫なはず」
ガルタンはアイルの返事を期待していないのか、一人でぶつぶつと呟く。
「その後、どうしようか。姉さんにも謝らないといけないな。あいつには会いたくないけど」
――木の精霊の石を入手すれば、次の石を探す必要がある。今のうちに順番を考える事も大事だ。
「とりあえず、土の精霊だね。次は」
土の精霊はウェルファが所持している。そうなると、センミンが一緒にいる可能性がある。
用は金の精霊でも同じことだが、ガルタンはあえてそう言った。
それが、アイルの困ったような表情を見たからなのか、自身がただセンミンに会いたくないから言っているのか、彼女にはわからなかった。
魔法でアドランの街へ移動し、ガルタンが木の精霊の石を掘り出す。
「リリー。ちょっと付き合ってもらうことになるよ」
石に囁くと、すぐに人化した。
「かしこまりました」
木の精霊リリーは頭を軽く下げる。
「土の精霊の場所はわかる?」
「反応がありません。おそらく石の姿になっているようです」
「……金の精霊は?」
アイルは、ガルタンの問いに顔が引きつるのを感じた。
思ったより、センミンに会うことに抵抗感を持っているようで、そんな自身を叱咤する。
「こちらも反応ありません。石の姿のようです」
「君、地図を持っていたよね。それで探せる?」
「はい」
見つからないことに安堵している自分が嫌になるが、背負っていた袋から地図を取り出して開いた。
「土の精霊の石」
アイルが囁くと、まず彼女が行ったこともない場所の地図が浮かび上がる。そして矢印。
「ブラン?!」
「知っているのか?」
彼は顔を強張らせていた。
「師匠……いや、ガルシンのところになんで。君、金の精霊の石の場所も探してもらえる?」
青ざめた顔で言われ、アイルは頷くと「金の精霊の石」と口にする。
現れたのは同じ地図。場所も土の精霊の石と同じである。
「ガルシンは何を考えて……」
「ガルタン。どうしたんだ? ガルシンって?」
「ガルシンは俺の師匠だった人だ。叔父でもある。でも、アドランの王の犬だ。村で魔族を殺すことに同意した、嫌な」
アイルはガルタンの言葉をただ聞くのみ。
アドランの村で魔族も蹂躙された。だが、街ではさらに人々が殺されていた。
どちらが正しいなどと、彼女は判断できない。
「王子さんは、完全に魔族を敵とみなしている。ガルシンも一緒だ。姉さんはわからない。僕と同じ考えだと信じたい……。あの、もう一人の土の精霊の契約主は、何を考えているんだろう」
ガルタンは一人で考えに没頭し始めた。
それはいいが、アイルは嫌な気配を感じるようになっていた。
好意ではなく、敵意を持っている者がこちらに向かっている気配だ。
人間ではないだろう。
魔族に支配された街に好き好んで人が近づくはずがない。
「ガルタン。とりあえず、どこかに移動したほうがいい」
「ワタシもアイルに賛成です。移動しましょう」
「そうだね。魔族はもう殺したくない」
彼の言葉にリリーが少しだけ悲しそうな顔をした。
「言い方が悪かったね。リリー、ごめん。考えてもしょうがない。協力してもらうことには変わらないからね。ブランに向かってもらえる?」
「かしこまりました」
木の精霊は緑色の光になると、二人を包み、そのまま溶けるように消えた。
☆
「ナル、それにガルタン。なんでお前らが!」
ブランに到着し、二人の視界が回復するのに少し時間が必要だった。
最初に飛び込んできた声に、アイルは胸がえぐられたような気持ちになった。
目が闇になれ、そこにセンミンの姿を捉える。
「これは王子さん。二番目に会いたくない人に最初に会うとは、ついてない」
「どういう言い草だ。この裏切り者が!」
動揺するアイルよりもガルタンは先に口火を切った。
「裏切り者か。まあ、いいよ。その呼び方で」
ガルタンは諦めたように呟き、センミンは少し戦意を削がれる。
「どういう用事でこっちにきた。俺達と戦う気か? ナルも一緒ということは、ナルも寝返ったのか?」
「寝返る! そんなことない。私は!」
「アイル。待って。この人に説明するのはまだ早い」
「どういう意味だ?」
闇の中、静けさを打ち破って言い合いが続く。
「センミン様! ガルタン? どうしてここに?」
「ガルタン! ナルも!」
さすがに屋敷まで争う声は響き、ガルシン、シア、ウェルファが出てきた。
「何か、用事があるのだろう。俺達は仲間だ。争う前にゆっくり話したほうがいい」
年長者であるガルシンではなく、ウェルファが場を収めるように声を発する。
「そうだな。ガルタン。お前に思うところもあるだろう。だが、今はおとなしくしてくれるか。お前が顔を見せた理由が知りたい。センミン様もそうしていただけますか?」
それに呼応するようにガルシンが落ち着いて二人に問う。
二人は渋々だが頷き、屋敷で話し合うことになった。
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