孤独な満月
部屋で休むように言われたが、寝られるはずがなく、センミンはベッドの上で体を起こした。
するとチェリルが人化して、その前に立つ。
「アドランには戻らないほうがいいですわ」
「わかってる」
センミンは眉を寄せ、わずらわしそうに答えた。
父親達の亡骸を見たときの怒りは収まりつつあったが、それは小康状態に過ぎず、彼らのことを思うとすぐにあの時の光景が浮かんで、怒りはすぐに燃え上がる。
第七王子で、兄達のように期待されて育てられていなかった。余計なことをすると王妃が嫌な顔をしていたので、王宮では馬鹿な振りばかりをしていた。
それを兄達が嘲笑っていたりしていたが、センミンは彼らが嫌いではなかった。父親である王もセンミンには優しくなかったが、王として尊敬はしていた。生母は早くで亡くなり、兵士として生きていくことも考え、兵団に出入りをした。仲間は兵士、家族はいない。そんな風に生きてきたつもりだったが、父親と兄達の躯を見て浮かんだ感情は、怒りと悲しみで、自身が彼らを家族だと思っていた事を思い知らされた。
戦いながらもその感情は彼に力を与え続け、今も復讐へと駆り立てる。
「センミン」
「ちょっと外の空気を吸ってくる。今日は満月だろ」
彼は満月の夜に散歩するのが好きだった。月の光は彼に優しくしてくれるようだった。
「……ウェルファ。あたしは明日出て行くよ」
居間を抜けようとしたところで、そんな声が飛び込んできた。
「弟を探しに行くのか?」
「ああ」
「タナリに気配を探らせよう。木の精霊の気配を探ればすぐに見つかるはずだ」
「ありがとう……。あんたは、どうするんだい?」
「俺は……。とりあえずマイリのところへ戻りたい。今後はそれからだ」
「そう」
二人の会話はそれだけで、それぞれ一階の与えられた部屋に戻っていく。
――二人が自分の元から去る。
そう思うと、センミンの胸が締め付けられた。
仲間として戦ってきた。
数日だけの付き合いであったが、命を預けあった仲だ。
センミンは玄関を抜け、外に出て満月の光を浴びる。
心に巣食った寂しいという気持ちをどうにかしたかった。
「一人か……」
慣れているはずだった。
兵士と馴れ合っている時も、所詮自分は彼らと違い、彼らの本当の仲間にはなれないことを知っていた。
今回も、そんなに仲間ということを重要視しているつもりはなかった。
金の精霊に命を救ってもらって、契約主になった。それから、土の精霊を求めて、「ナル」、アイルに会った。
兄を殺すために旅をしていた女の子。
真面目で、本当は優しい……。
バルーにとどめをさせない彼女を、センミンは見限った。あの時の愕然とした顔を彼はまだ覚えていた。
だが……。
――もし彼女がバルーをあの時殺していたら、父上も兄達も殺されることはなかったんだ。
彼女への慕情は怒りによって掻き乱された。
――仲間なんかじゃない。裏切り者だ。
センミンは月を見上げる。
どうしようもない孤独感がこみ上げて来るが、彼は拳を握り締め、耐えた。
☆
五つの精霊の石を探す。
アイルはまずは行き先を決めるため、地図を広げる。
金の精霊チェリルが先に浮かぶが、センミンの冷たい表情を思い出し、迷いが生じる。会いたくない気持ちで高まるが、精霊の石は二手に分かれているはずなので、他の精霊の石、土の精霊の場所を探っても同じ場所にたどりつくだろうと予想する。
――木の精霊。
ふとシアの弟を思い出す。
彼はセンミンといがみあっており、共に行動していない可能性があった。
逃げても仕方ないのだが、アイルはまず木の精霊の石を探して見ようと思った。
その名を口にしようとしたが、ふいに風が巻き起こり、何も無い空間から眩い光が放たれた。夜空に舞い上がりそうな地図を捕まえ、視線を凝らす。それは魔方陣で、すぐに人影が姿を見せる。
「ガルタン?!」
現れたのはシアの弟で、その偶然にアイルは信じられず声を上げた。まさか人がいるとは思っていなかったのか、彼は暗闇でもわかるくらいに驚きを表す。
「驚かしてごめん。なんで、あなたがここに?」
「それは、僕の言葉だよ。なんで君が?」
ガルタンとはほぼ話をしていない。顔見知りともいえない仲だ。
そのためか、彼はアイルの質問に質問で返して、憮然としている。
「俺は、」
彼は木の精霊の石の契約者だ。
ガルタンの協力は必須で、信頼を得るためにも正直に言うべきだと理性が彼女を諭す。
魔王を倒せず、落胆した仲間に置いていかれた事実。
だが、それを口にするのは戸惑われた。
黙ってしまったアイルに、ガルタンは興味がないらしく、背を向けて歩き出す。
「待って、あの頼みたいことが!」
ここで彼に会ったのも何かの縁に違いない。
彼が協力してくれるかはわからなかった。
だけど、彼の協力は必要だ。
だから、とりあえず神の伝言を伝えることにした。
自身のことは語らず、ただ神の使いからの言葉を伝える。それで彼が協力してくれるかはわからないが、現時点でそれしか思い浮かばなかった。
「何?」
アイルに対してそこまで悪印象はないのか、彼は無視することなく、足を止めると振り向いた。
「あの、俺、いえ、私は神の使いに会いました」
突拍子も無い言葉の始まりだった。
自分でも間違ったと思ったが、ガルタンは呆れる様子もなく、アイルの顔を凝視したままだ。
――聞く耳はあるみたいだ。
うまく説明できる自信はない。だがアイルは彼の協力を得るため、言葉を続けた。
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