銀の精霊
魔法使いガルシン
「すみません」
ガルタンに謝り続けているのは木の精霊リリーだった。
ランデンは、精霊達が次々と王宮へ飛んでいくのを見て、彼も瞬間移動の魔法を使うと消えてしまった。
――リリーズに悪いと思うなら、この戦いには関与するな。
ランデンは憎しみがこもった目でそう言い、魔方陣に消えていった。
たった一人、残された人間であるガルタンに、そこにいた魔族全員の殺意が集中する。彼はこれ以上の戦闘をさけるために、瞬間移動で街の外に出た。
行く当てもなく、彼はただ歩いた。
街からかろうじて逃げてきた人々は、怯えを含んだ視線でガルタンを見る。その視線が嫌で、彼は足早に進んだ。
彼の精霊であるリリーは謝りながらついてくる。
「契約は解除できないの?」
「はい」
一人になりたいとガルタンがそう問うと、彼女が首を横に振った。
「それであれば石の姿に戻ってくれる?」
「畏まりました」
リリーは頷くと、石の姿に戻る。
「リリー。僕は自分が許せない。だから君の力を二度と使うつもりはないんだ。ごめん。君は悪くないのに」
ガルタンは緑色の石にそう語りかけ、石を土の中に埋めた。
「僕が死んだら、きっと契約は解除されるんだろう? そうしたら、君は自由だ。それまではここでじっとしておいて」
彼はこんもりと少し盛り上がった地面を撫でる。そうして立ち上がると、杖を握り、再び歩き始めた。
☆
「放せ! 俺はアドランに戻る!」
「センミン様!」
センミンが魔法によって移動させられた場所は森に囲まれた古い屋敷の傍だった。
瞬間移動の魔法を使ったのは、ガルタンとシアの叔父で、魔法使いのガルシン。彼自身も傷ついていたのだが、センミンを逃がすために、残った魔力をすべて使い切ったようだった。
魔方陣から出ると、そこには見たこともない森の光景。そして、杖をつき、辛うじて立っている状態の中年の男性ガルシン、それからチェリルの姿があった。
彼はすぐさまチェリルに王宮で戻るように告げたが、それを止めたのがガルシンだ。
「あんたは誰だ? 魔法使いのようだが、邪魔をするな!」
「私はガルシンです。王を始め王族の方を助けることができずお詫びのしようがありません。王はあなたに願いを託しました。あなたは最後の希望です。今戻ればあなたも殺されるでしょう。戦力を整え、再び魔族に挑むのです」
「っな」
「叔父さん!」
センミンは言い返そうとしたのだが、シアの声によって遮られた。ウェルファと共に移動してきた彼女は驚きの表情の浮かべ、叔父であるガルシンを見ていた。
「シア。そうか、お前も戦いに参加していたな」
ガルシンは少しぎこちなく答えたが、それだけでセンミンに再び目を向ける。
「センミン様。ここはぐっと堪え、次に備えましょう。人間にはまだ魔法を使う者がおります。その者達や、名を馳せる戦士を集めれば勝機はこちらにあります」
ガルシンは感情的なセンミンとは対照的で、冷静であった。だが、魔族へ報復する意思は固く、最後の希望である彼を静かに諭す。
シアとウェルファはこの件に関しては口をはさまないつもりだった。それは二人の立場もある。またセンミンとは異なり、二人は魔族に対して恨み辛みの気持ちがない。なので、ただガルシンの言葉をただ聞いて状況を見守っていた。
「ガルシンとか言ったな。あんたはガルタンの師匠とか聞いている。そんなあんたを信頼してもいいのか?」
「センミン!」
彼の言葉に抗議したのはシアだ。まるで弟を裏切り者のように語る彼に反発を覚えたからだ
「ガルタンをご存知なのですか。あれは私の弟子でしたが、私が処分いたしました」
「しょ、ぶん?やはり叔父さんがガルタンに氷に閉じ込めたんだね!」
シアは話をする二人に割り込むように駆けつけ、ガルシンににじり寄った。
「シア。お前達二人は魔族に優しすぎる。魔族はいまや敵だ。人間を滅ぼそうとしているのだぞ!」
「それは、でも!」
「シア。あんたはまだ魔族の味方なのか? そんな奴は俺の仲間じゃない」
「センミン!」
まるで、シア自身が彼の親兄弟を殺したかのように、憎悪を含んだ視線を向けられ、シアの全身に寒気が走る。同時にセンミンが普通の状態ではないことにも気が付いた。
「ガルシン。いいだろう。俺はあんたを信用する。アドランを奪回し、魔族を滅亡させる。そのために魔法使いと戦士を集めてくれ」
「畏まりました。その前に、センミン様はお身体を休ませてください。そのような状態では、次の戦いに支障をきたします」
「わかった」
「それではこちらへ」
センミンはただ復讐に燃えていた。周りが見えないくらい。言葉を口にしないウェルファ、唖然とするシア。二人に構うことなく。
彼はガルシンに案内されるまま、家の中に入っていく。
残された二人は妙な不安を覚え、顔を見合わせた。
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