新たな「仲間」


「……おかしいな」

「そうですわね」

「うおっつ」


 すぐ横で声がして、センミンは慌てて大事な部分をズボンの中にしまう。


「な、なんでついて来るんだよ!」

「ワタクシはあなたの精霊ですわ。ついて来て当然ですわ」


 いつもの通りにこりと微笑まれ、センミンは諦めの溜息をつく。


「……あの話は本当だと思うか?」


 気持ちを切り替えセンミンは背後に小さく見える「ナル」をかぶり見る。

 視線を戻すと、少し難しい顔をしたチェリルがいた。


「半分は嘘のようですわね」

「わかるのか?」

「わかりません。精霊といえども人間の心を覗くことはできないですもの」


 チェリルの言葉にセンミンは少し安堵する。

 「ナル」の本当の事情を知りたい気持ちがあったが、チェリルがもし心を覗くことができるなら、センミンが困るからだ。

 契約したばかりの頃チェリルに不埒な思いを抱いていたこと、それなどが知られていたら死んでも死にきれないと、息を吐く。


「……心は読めません。でもセンミン。あなたの考えていることは丸わかりですわよ。本当に下品なことばかり」


 覚めた目で見られ、センミンはすぐ地面に穴を掘りたくなる。


「まあ。正直なことはいいことですわ」


 取り持つようにチェリルに言われ、センミンは恥ずかしい思いを抱えながらも顔を上げた。


「とりあえず、なんだな。目的は一緒だ。しかも地図を持っている。一緒に行動することを否定する材料はないか」


 自分に言い聞かせる意味でそう口にして、センミンは「ナル」の待つ場所へ戻った。




 ――水の精霊の最初の契約主と共に旅をしていて、魔王と戦った。その結果、水の精霊が奪われ、自分だけが生き残り、仇を討つために残り精霊の石を探している。


 「ナル」がセンミン達に聞かせた話はそれだけだった。

 地図は魔王から奪ったと伝えた。


 自分は「ナル」だ。

 魔王を倒すために存在する。


 あの戦いから目を覚まし、生きている自分に驚き、生かしてくれた人を思った。

 ――殺さないで。

 そう願い、彼を戦わせた。

 あの火の精霊相手にそんな甘えは通じなかった。

 攻撃をうまくできない水の精霊セフィーナは力をうまく出せなかったに違いない。


「だから私は過去を捨てた。もうアイルはいない」


 ――私は、そう……俺は「ナル」だ。


 あの優しい人の名前を貰った。

 世界を救うため、あの人の復讐をするため、俺は旅をする。



「ナル」


 野暮用があると森の奥に入っていったセンミンは思ったより早く戻ってきた。

 「ナル」の話を半分信じているような、信じていないような表情していたセンミン。

 しかし戻ってきたセンミンの表情はすっきりしていた。


「ま、目的は一緒だからな」


 そう言って笑い、彼は「ナル」に手を差し出す。


「精霊の石をすべて集め、魔王を倒そうぜ」


 巻き込んではいけない。本当であれば精霊の石を貰って一人で戦いたかった。だが、契約をすでに結んでいる以上、巻き込むしかない。

 複雑な心境であったが選択肢はなく、「ナル」はセンミンの手を掴む。


「よろしくお願いします」

「お、おお!」


 自分から手を差し出したのに、なぜか慌てて「ナル」の手を離し、センミンは明後日の方向を見る。


「……どうししましたか?」


 気に障ることでもしたかと、「ナル」はセンミンの顔を覗き込む。

 なぜか異様に顔を赤いセンミンがそこにいて、彼女は首を傾げる。


「気分が悪いんですか? なんなら、休みますか? 土の精霊の石はまだ動いていないですし。チェリルさん。この場所はすぐ近くなんですよね?」


 懐から羊皮紙を取り出し、「ナル」はセンミンの隣の金色の美女に尋ねる。


「ええ。そうですわ」


 「ナル」にそう答えながら、チェリルは契約主の動揺する姿を横目で見て、その理由に思い至った。


「あなたはそういう趣味もあるのですか?全く変態ですわね」

「はあ?! どういう意味だ?」

「チェリルさん、センミンさん」


 なぜか始まってしまった痴話げんかに、「ナル」はいつ終わるのだろうと溜息をついた。

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