第6話 復帰3

 皆藤雪司かいとうゆきじは学校終わりに二子玉川駅に来ていた。時計を見ると待ち合わせの十七時になっていた。

 駅は学校終わりの学生と仕事終わりの社会人が行き交い列ができており、その流れに流されるまま駅構内から追い出されデパートの前でようやく立ち止まることができた。

 ここどこ?と考えていると後ろから声をかけられた。

「ゆき!もうどこまで行くの?」

 振り返ると怒った顔をした夏川星なつかわほしが大股で歩いていた。

「星、もう来てたのか」

「あんた以外は五分前には着いてたわよ」

 ペシっと雪司の頭を叩く星。精一杯背伸びをしてやっと届く星を見て自然と頬が緩む。

「いちいち笑わないで。それに何その眼鏡。伊達眼鏡なんて掛けても似合わないし、何その前髪。ふざけてんの?」

 星からの怒涛の文句に爽やかに対応する。眼鏡を外すとシャツの首元に掛け、伸ばせば鼻の頭まである前髪をピンで留める。

「これでいいか?よし行こうぜ」

「何遅刻した分際で仕切ってんの?あんたは礁人の手土産買ってくんのよ」

「は?何でそんな面倒くさいことを」

「は?決まってんでしょ。遅刻したんだから」

「いやいやいやいや。時間ちょうどに来たから、on time」

「生意気に英語使ってんじゃないわよ」

 星の拳が鳩尾を抉る。雪司は体をくの字に曲げ、苦しそうに咳き込む。

「そこのお二人さん。目立ってますよ」

 雪司と星のもとに女子一人と男子一人が近付いて来た。

 雪司は顔だけ上げて二人を確認する。

「なら助けてくれよ」

 そこには槙野咲心まきのえこ波多野登はたののぼるが立っていた。

「会う度に言い争いして飽きないの?」

「飽きる飽きないの話じゃないんだよ。それとそうと俺遅刻してないよな?」

 咲心と登は顔を見合わせて大きく頷くと親指を立てた。

「アウト」

 多数の宣告により遅刻が確定した。

「なあ、こっちは授業途中で抜けて来たんだぜ。俺に情状酌量の余地はねぇのかよ」

 雪司は肩を落として嘆くが、なしと一蹴された。

「はいはい、わかりましたよ。で、何買ってくればいいの?」

 間よく目の前にはデパートがある。三人は無言でデパートを指し、行ってこいと目で命令していた。

 雪司について来てくれる優しい心の持ち主は誰一人としていないため、重い足取りで食品のある地下階に行く。

 くるくる一周回ったが何が良いかなどわからないのでチョコレート二十個入のお洒落な箱を買った。大学生には痛い出費である。これ一つで飲み会一回分の値段くらいある。

 そんなことを考えながら行きよりも重い足取りで三人のもとに戻る。

「よし、これでお土産もあるし、行こっか」

 雪司に対してありがとうもお疲れもなしに三人は目的地に歩き出した。

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