第4話 復帰1

猪狩礁人いかりしょうと、本日を以て刑期満了で出所となった」

 昼休憩中の麻雀に興じていた礁人に刑務官が話しかけた。

「あぁ、もうそんなに経ったのか。でもこの一局だけ待ってくれ」

「それは許可できない。今すぐ立ちなさい」

「おいおい、あがれそうだからもう少し待てって」

 そう言いながら礁人はリーチをする。同じ卓を囲む三人が何、と笑顔が消える。

「規則で出所を告げた者は早急に出ていってもらう。これ以上ごねるなら連行するぞ」

 刑務官が脅しに近い宣言を聞き流して牌をきっていく。

 後ろに控えていた刑務官が我慢を切らして連行しようとしたその瞬間に礁人は机を叩いた。

「ロン、メンタンピン三色、満貫だ」

 点数を貰うことはせず、席を立った。

「シャバに戻ったらこの続きをしようぜ」

 礁人はそれだけ言い残して掴みかかろうとする刑務官に笑顔を見せて従う。

 雑居房に一度寄り、荷物をまとめる。

「貴様もようやく釈放か。お前が入ってきたときには模範囚になるとはこれっぽっちも思わなかったんだがな」

「待っている奴らがいるんでね、さっさと出ないといけないんですよ」

「結構頻繁に手紙が来ていたしな。今日は迎えに来ているのか?」

「そうだと思いますよ。四年も会ってないんですから」

 手にバックを一つ持ち、刑務官に頭を下げた。

「今までお世話になりました」

 予想外の行動に目を丸める刑務官。

「そうかそうか。ここに戻って来るようなことはするなよ」

 礁人は返事を返すことはせず、雑居房から出た。

 少年刑務所の入口まで来た。礁人はもう一度刑務官に頭を下げ、門を一歩通り抜けて振り返った。

「さっきのこと約束しかねます」

 そんな意味深な言葉を残して、少年刑務所を後にした。

「お勤めご苦労様です」

 出るとすぐそこに白のスカーフを頭や首や腕に巻いた集団が礁人を待っていた。

「あはは。こんなに多くの野郎共がいるとは思わなかったぜ」

 礁人の目の前には五十人近くの人がいた。

「手紙読んでくれてましたか?」

 その内の一人、副総長樋口隆正ひぐちたかまさが話しかけた。

「もちろん。そのせいで模範囚にならなきゃなくなって大変だったんだぞ」

「それは骨が折れそうですね。でも予定通りに戻ってこれて良かったです」

「当たり前だ。この先も予定が詰まっているからな。お前たちにもしっかり働いてもらうからな」

「押忍」

 全員声の揃った返事だった。

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