第3話 Prolog3

「こんなこと思い付いてもやる奴がどこにいる。クソ、痛てぇじゃねぇか」

 リクは膝をついて右肩を押さえている体勢から動けずにいる。

 ゆっきーはそんなリクを笑顔を崩さずに見下ろしている。

「いや〜、先輩こそ反応速度凄いですね。直撃したと思ったのに」

「チッ、肩に直撃してるっての」

 憎たらしそうに見上げるリク。

『いきなり、リクがダウン。こんなこと誰が予想しただろうか。リクはたった一発で散るのか?』

「そんな理由ないだろ」

 リクは独り言を吐いて立ち上がる。

(右腕が上がらない。チッ、勝てる気がしねぇ)

 リクはそれでも目に光を宿し、ゆっきーを睨む。

 数秒の沈黙。

 先に動いたのはリクだった。距離を詰めると右足で中段蹴りをする。ゆっきーは左膝を高く上げ、これを防ぐ。

 リクは間髪いれず左足で腹を蹴る。ゆっきーは両手で止める。そして右に振り投げる。リクは抵抗する間もなく投げられたが、大した勢いも距離もなく腰から落ちた。

 リクは痛くもなかったため、すぐに起き上がったがゆっきーは端まで離れていく。

「おい、どこまで行くんだ」

 リクはおちょくってんのか、と言わんばかりに怒りを見せる。

 ゆっきーは十分距離を取ったと思うと振り返りリクに向かって走り出した。リクも先程の二の舞いにならないように一テンポ遅れて走り出した。

 数歩後ゆっきーは大きく跳んだ。左足を前に出し飛び蹴りの構えを取る。リクは持ち前の反応速度で急ブレーキをかけて同じように跳ぶ。こうすることで威力不十分の蹴りになり、また後に跳んだので高さの利も得られる。

 しかしそんなリクの考えはゆっきーからしてみれば予想通りでしかなかった。

 リクの強みが反応速度であるならゆっきーの強みは空中戦である。

 ゆっきーは普段は目隠し用のカーテンを取り付ける吊り棒を掴んだ。カーテンは闘いの邪魔なので外されている。

 人一人ぶら下がれるくらいの強度を持つ吊り棒を懸垂する要領で体を引き上げ、勢いつけて両足で驚愕に顔を染めるリクを蹴り飛ばした。

 リクは予想を遥かに超えるゆっきーの動きに反応できず胸を蹴られ、体勢を崩し背中を強打した。

 ゆっきーは駄目押しとばかりにリクを跨ぐように落ち、顔に向かって拳を振り下ろした。

「待てッ」

 リクの焦燥した声に顔から数センチのところで拳が止まった。

『ここでリクが観念した。番狂わせをまたもや起こしたゆっきーの勝利』

 おおお、と店内に歓声が響く。ゆっきーはその声に応えるように拳を高く掲げた。

『こんな一方的な闘いになると誰が予想しただろうか。圧倒、この一言に尽きるでしょう』

「オーナー五月蝿い」

 ゆっきーが実況者を一喝する。決して怒っている理由ではない。過大に言われるのが好きではないだけだ。

「もう少しいい勝負にしなさいよ」

 星から小言を言われた。

「ついつい本気出しちゃった」

 ゆっきーは星の下に歩みを進め、ハイタッチをした。

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