第二十二話:騎士団
「まあ、何と言いますか、満月の出る日に、ランダムで半年に一度だけ、午前中は金髪碧眼、午後は銀髪碧眼に変化するんだけど、学院に初等部からいる面々は理解してくれてるんだけど、中等部以降の外部生の大半が知らない人が多くて、よく勘違いされるんだよ」
「は、はぁ……」
「手短に説明したいのは分かるけど、早口な上に切らないから何言ってるか分からないわよ」
朝に来いと言われたので来たテレスと、彼女が分からないと困るということで、付き添いで来たアリシアがそうツッコむ。
キソラの言い方が悪いのもあるが、何故一番時間の無い朝に呼んだのかは、本人でも分からない。
「おはよー。あ、キソラ、戻って良かったじゃない」
「そうね」
教室に入ってきた友人二人が目聡くキソラの変化に気づいたため、それにキソラも頷く。キソラとしても、やはり慣れたこの髪の方が、落ち着くのだ。
パートナーであるアークも、今朝には戻った髪色を見て、安心したような表情を浮かべていたのをキソラは思い出す。
「何か嬉しそうというか、楽しそうね。いつもなら、『本当、昨日みたいな日は疲れるわよ』みたいなこと言うのに」
「あの後、何かあったの?」
「ん? 昨日は――いや、何でもない」
友人二人の言葉に、運悪く口を滑らせそうになるも、言い切る前に話すのをやめる。事情を知るアリシアはニヤニヤと笑みをキソラに向けていたのだが、それに気づいたキソラは、睨みつける。
アリシアはキソラがアークの存在を知られることを避けているのを知っている。そして、アリシア自身もギルバートのことを知られるのは嫌なので、まるで傍観者みたいに観察するかのように面々へと逸らす。
キソラとしては、昨日のことを思いだそうとすれば、精神的ダメージが何倍にもなって返ってきそうだったので、すぐさま蓋をして、そっと溜め息を吐いた。
「そう。それより朗報よ」
あっさりと話を逸らされ、あれ? と思う反面、二人が笑みを浮かべていたので、一緒にいたテレスたちも首を傾げる。
「何?」
「何と、騎士団がこの学校に講習に来るらしいの」
「騎士団? 本隊と分隊どっち? それとも神殿騎士団?」
キソラたちが住む国には騎士団というものが存在している。
騎士団とは言いながらも、いくつか種類があるが、主な騎士団は近衛、王城、神殿の三つである。そのうち、各騎士団長を筆頭に、副団長や各班長と副班長、団員と最後に見習いで構成されている。
キソラが言った騎士団の本隊とは、主に王城の警備を行う王城騎士団と王族の護衛を行う近衛騎士団所属の騎士のことであり、分隊とは主に城下町や各街町村の警備を行っている騎士たちのことである。神殿騎士団はその名の通り、神殿の警備と御子の護衛が主な仕事である。
だが、数少ない空間魔導師|(キソラたちのことである)が国にいるということもあり、近衛・王城騎士団と神殿騎士団がそれぞれを取り込もうと動いている。
キソラ曰く、兄であるノークの卒業が迫ったときほど勧誘が怖いものは無かったとのことだが、そもそも近衛・王城騎士団と神殿騎士団では付いている者が違う。
近衛・王城騎士団側は言わずもがな王族であり、神殿騎士団側は大司教を筆頭とする者たちである。
今のところ、国にいる空間魔導師はキソラと兄であるノークだけなのだが、ノークはすでに王城騎士団の所属のため、神殿騎士団としては、何としてもキソラを取り入れて、均衡を取ろうとしているのだろう。
それでも、最終的な決定権はキソラ本人にあるため、いくら外堀を埋めたところで、結局はキソラの決定に従うしかない。もし可能なら、騎士団以外では魔導師団へ、という手もあるが、こればかりはどうなるかは分からない。
閑話休題。
「んー、私も
「何隊の人が来るかまで分かる?」
「確か……四隊だったかな?」
思い出そうとするような仕草で友人は言う。
「じゃあ、兄さんは三隊所属だから来ないわね。それに、四隊って飛竜部隊じゃない。何で選ばれたのかな?」
騎士団の中にも得意分野というものがある。
キソラが言った第四隊は飛竜部隊であり、フリーゼ・フィールという女性が竜に乗り、飛行方法を教えたため、広がったとされている(実際は竜とは別物の飛行方法を教えたのだが、何故か竜となっている)。
ノークがいる三隊は魔法も使う特殊隊で、
「魔法を使うくせに、体力が有るとは……」
「魔導師が体力無さ過ぎなんだよ」
という会話が魔導師団と交わされる程である。実際、騎士団の中で、魔導師団と仲が良いのは三隊の面々であり、三隊に異動し、魔導師団の悪口や陰口を言えば、すぐに叩かれるのも、それだけ仲が良い証拠(?)である。
そもそもノークが第三隊所属になったのは、エターナル兄妹を見守る一人である王弟がここの方がいいんじゃないのか、と各騎士団長に言ったためである。もちろん、神殿騎士団側には反論されたが、王弟としても国に関わる大事でなければ困りはしないので、別に神殿騎士団に所属してもらっても良かったのだが、最終的に決めたのはノークである。
閑話休題。
「さあ? でも、
細かいところまでは分からないらしいが、近いところでそういうところだろう。
その後、チャイムが鳴り、友人二人は席に着き、アリシアとテレスは自分の教室へと戻っていった。
☆★☆
「あれ? フィオールさん?」
慣れていないであろう学院内で右往左往していた騎士を見つけたが、よく見れば知り合いだった。
「あ、キソラさん」
良かった、と安堵の息を吐く騎士、フィオールに苦笑いしつつ、ところで、とキソラは尋ねる。
「何故こんなところに?」
「あの、君への伝言があったのと……迷った、といいますか……」
キソラの尤もな疑問に、フィオールは照れながらそう答える。迷ったという事実が恥ずかしいらしい。
「まあ、普通科は他の科と比べて広いですからね。迷っても仕方ないんですよ」
普通科内でも、未だに迷う者はいる。なので、フィオールがこのぐらいで迷っても恥ではない。逆に、ずっと通っているはずの生徒や教師が迷う方が問題なのだ(なお、キソラはほとんど迷ったことはなく、迷子の回収係として動いていた方が多い)。
「それで、伝言だけど、『そろそろ時期だから、準備をしておくように』と。そう君に伝えるように言われたので。きちんと伝えましたからね?」
フィオールの伝言に、もうそんな時期か、と思うキソラ。
「分かってます。伝言、わざわざありがとうございます。お手数お掛けしますが、返事として伝えてもらえないでしょうか?」
「何かな?」
「今度――近いうちに会いに行くから、と」
それを聞き、フィオールは必ず伝えます、と言って、去ろうとしたのだが――
「フィオールさん、そっちじゃありません!」
逆方向に行こうとしたフィオールを制止し、軌道修正させるキソラ。
「ああ、すみません」
と、今度こそ正しい道を進んでいくフィオールに、キソラは思う。
「あの人、方向音痴の気があるのかな……?」
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