第十三話:作戦会議?
翌日。
「ふぁ~」
欠伸をしながらキソラは寮からの通学路を歩いていた。
いくら生徒会と風紀が相手で苦戦したからと、まさか朝日を見るまで長引くとは思わなかった。
(くそ、無茶苦茶眠い……)
あの後、何とか回復した魔力を利用して、結界と戦闘の痕跡を消し、部屋に転移したら、また魔力切れでそのままベッドに倒れたのだ。
アークが定時に起こしたものの、現在その起こした本人は爆睡中である。
今週が終わるまで後三日。
気合いを入れ直すために
「よし!」
「朝から元気ね……」
気合いを入れ直せば、覇気の無い声が背後から聞こえてくる。
「アリシア」
「あんな時間に引き上げといて、何でそんなに元気なのよ……」
声の主、アリシアが言っているのは、昨晩からの戦闘の件だろう。
「今ちょうど切り替えたところだよ」
「ああ、なるほど……」
アリシアが珍しく納得している。
大丈夫? と心配しながらも、途中で合流した友人たちとともに四人で昇降口へと向かう。
「おはよっ!」
「……」
が、昇降口にいた人物に、キソラはがっくりと肩を落とし、アリシアが目を見開く。
そして、無言で見返せば、ニコニコと笑みを浮かべる人物――生徒会書記、フィール・ノルディークに、キソラは何とも言えない視線を向ける。
「朝っぱらから、何なんですか?」
とりあえず、聞いてみれば、寂しそうな顔をするフィールに、キソラは昨夜の事を思い出し、理解した。
『二ーAのキソラ・エターナルだよな?』
風紀副委員長ことアオイがそう言ったのを、近くにいたこの男が聞いていないはずがない。
一方で、隣におり、理由を知るアリシアは苦笑し、友人たちはどんな関係!? と目を輝かせている。昇降口に来た生徒たちも、何事、と興味深そうにキソラたちを見る。
(これだから……!)
こういうタイプは嫌いなんだ、と不機嫌オーラを放つキソラ。
「ん? 予想通り、美少女だったな、って」
キソラの不機嫌オーラが増す。
普通なら、褒められて喜ぶところだが、目立ちたくないキソラとしては、全く嬉しくない。
「もしかして、ずっといたんですか?」
「うん? ただ顔が見たかっただけだから、運が良ければ会えるかな、程度だったんだけど……今日の俺は運が良かったみたいだ」
だから、教室にも行かず、昇降口で待っていたのか、と呆れた目を向けるキソラだが、フィールに応えた様子はない。
(運が良いだか何だか知らんが、シルフィードを喚ばないだけでも、ありがたく思え!)
今すぐシルフィードを喚びたくなったキソラだが、何とか耐える。魔力面での問題もあるが、喚んだら喚んだで、別の意味で騒ぎになりそうだ。
「そーですか。私にとっては、どうでもいいことです。失礼します」
「そんな冷たくしないでよー」
教室に向かおうとするキソラに、付いてくるフィール。
距離を空けては詰められ、空けては詰められ……を繰り返し、ふと思ったキソラはフィールに告げる。
「冥土の土産に良いこと教えてあげます」
「え、何?」
「先輩方に気をつけて」
それだけ言うと、キソラは先程より分かりやすく距離を空ける。
こんな遠くでも分かるぐらい、自身以上の不機嫌オーラ。
思い当たるのが何名かいるので、フィールにはあえて名前を言わず、先輩方、を強調して教えておく。
これはキソラからの優しさだ。
一方で、『気をつけて』の意味が分からず、首を傾げるフィールの横から、アリシアと友人たちが駆け寄ってくる。
「いいの? 放置しておいて」
「いいのよ。回収役がちょうど来ていたし」
そう言いながら、横目で背後の状況を確認すれば、キソラの言った“先輩方”がフィールに満面の笑みを見せていた。
そして、キソラたちが教室に入ろうとすると同時に悲鳴が響き渡った。
☆★☆
何とか三時間目の魔法の授業を乗り切ったキソラはぐったりしていた。
三時間目が来た際、魔力の回復はしていたものの、完全とは言えず、偶然か否か、B組との合同授業だったため、事情を知るアリシアがキソラとペアを組み、何とか乗り切ることが出来た。
正直に言えば、この日の魔法の授業は三時間目のみだったため、キソラとしては、三時間目さえ乗り切れば後は心配せずにいられた。
キソラのいる普通科は、魔法よりも一般教養での授業量が多い。
(こういう時、普通科だと嬉しいわね)
そう思いながら、昼休みを過ごしたキソラは午後の授業に備えるのだった。
そして、何事もなくその日を終えると、珍しく夜にはバトルもなく、寝不足になることも無かった。
そうして過ごすこと数日経ったある日。
「この前の戦いで思ったんだけどさ」
「何よ」
ふと思い出したキソラにアリシアが首を傾げる。
この前の戦いというのは、生徒会役員と風紀委員との戦闘のことだ。
あの後、『ゲーム』関連でのバトルはなく、今までの寝不足が嘘のように、キソラはアークたちと会う前の様に過ごしていた。
今は久々の合同授業であり、キソラはアリシアとペアを組んでいた。
「私たちって、みんな魔法使えるけど、戦闘形態がバラバラなのよねー」
「は?」
キソラの言うみんな、というのは、アークたちの事である。
訳が分からん、と言いたそうなアリシアに、キソラは気付いてないのか続ける。
「大体、私は後方支援型で、アリシアも攻撃魔法が使えたとしても、中~近距離型じゃん。空中戦をあの二人に任せたとして、アリシアが中衛に回れば、前衛となるのがいないし、それじゃ、相手によっては苦戦すると思うんだよね」
「……貴女、そこまで考えていたの?」
アリシアが驚いたように、キソラを見るが、的に向かって魔法を放っていたキソラは、うん? と返す。
「いやいや、今のはアリシアが中衛になる前提での話だから。そのまま前衛でいるって言うのなら、私はいくらでもサポートするだけだし」
アリシアが前衛のままなら、キソラは後方支援と援護として、サポートするだけだが、もし中衛になるなら、キソラは場合によって、前衛も後衛もするつもりだ。
「でも、戦えないんでしょ?」
「あのね、前にも言ったと思うけど、私は
キソラはそう言う。
いくら後衛でも、自身の身を守る
vs生徒会役員・風紀委員の時も剣は使っていたが、キソラの持つ“身を守る術”を使い切ったわけではない。
(
何だかんだ言いながら、全ては満月の夜次第だ。今まで会わなかった強敵が相手の時ならまだしも、そうでもないときに
第一、キソラ自身がなろうとすれば、なれなくはないが、キソラとしては、その方法をやりたくはない。
「それでも、アリシアたちが危なくなったら、全力でサポートするし助けるよ」
アリシアと立ち位置を変えながら、キソラはそう告げる。
「あ、当たり前よ。私だって、貴女に危険が迫れば、助けるわ」
照れながらそう言うアリシアに、驚いた表情をするキソラ。
「ちょっ、何なの、その反応は!」
「いや、友人のためにそこまで言う人を見たこと無かったから、驚いただけだよ」
アリシアにそう返せば、ふん、と的に向かって魔法を放つ。
(そういえば、この子……)
アリシアはキソラに関する噂を思い出す。
そのほとんどが彼の妹ということや彼女の能力というものへの興味であり、キソラ本人を見ていないものだった。もちろん、そんな噂がある中で、まともに友達が出来たわけがない。
だから、キソラにとって、学院で今一緒にいる二人だけが――アリシアと幼馴染を入れた四人だけが、キソラの友人であり、仲間なのだ。
「次、貴女の番よ」
アリシアはキソラと入れ替わる。
「気を使わせたならごめん。でも、ありがとう」
そう言いながら、キソラは的に魔法を放つために、的の前に立つ。
(狙いを定め、風を読み、集中して――)
「――放つ」
放たれた魔法は的の真ん中に当たる。
「……真ん、中」
驚いたのか、アリシアは呆然としていた。
「アリシア、次の用意――」
次の用意を促そうとすれば、授業の終わりを示すチャイムが鳴り響く。
その後、担当教師に礼をし、各自教室に戻り始める。
「キソラ、戻らないの?」
「今行く」
友人に尋ねられ、キソラは教室に向かって歩き出した。
☆★☆
その日の夜。
「はあああ!」
そう声を上げながら、剣を降り下げるのは今回の対戦相手。
久々にアリシアとギルバートはおらず、戦闘しているのはキソラとアーク、その対戦者である四人のみだ。
「うわー……」
明らかな真正面からの攻撃に、キソラは思わず呆れてしまった。
「お前らみたいなのがいるから、こんな事しないといけないんだ!」
何度も切りかかってくる度に、キソラたちも何度も避ける。
こんな事、というのは『ゲーム』のことだろう。
だが、今彼が言った『お前らみたいな』というのは、どういう意味なのだろうか。参加者という意味なのか、バトルをする者という意味なのか。
二人にはそれぐらいの答えしか出てこず、少なくとも、彼の考えは彼以外には分からないだろう。だから、彼がどういう思いでそう告げたのか、キソラたちには分からない。
「正義感溢れてて、熱血バカ。単純な上に最初に突っ込んでくるイメージだったんだけど、そのまんまだな」
「それで、そのパートナーは冷静沈着でクールなイメージだったけど……物事を冷静に判断してるみたいから、バカのストッパーの役割もしているみたいね」
「何をごちゃごちゃ言ってる!」
「そうやって反論するから、君はバカにされるんです。聞いたとしても、受け流すぐらいの心の余裕を見せろと毎回言ってるでしょ」
アークとキソラの言葉に、対戦相手の二人がそう返す。
「ね?」
言った通りでしょ、と言うキソラだが、ここまで自分たちの読みが当たるとは思わなかった。
「早く終わらせるか?」
「だね。熱血バカは私が引き受けようか」
「いや、そいつは俺がどうにかする。お前は冷静クールをどうにかしろ」
アークの言い分に、思わず笑うキソラ。だが、気を抜くのはそれまでにして、真面目に向き合う。
「じゃあ、とっとと終わらせるか」
そう言うと、二人は駆け出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます