第四話:ライバル宣言


「……まさか、同い年だとは思わなかったわ」


 叫んだキソラに視線が向くも、単に驚いただけだと理解した周囲は、再び通り過ぎていく。

 一方で、叫んだキソラを気にした様子もなく、赤毛の少女は呟く。

 昨晩は何とか顔が分かる程度だったためか、赤毛の少女は昨日の対戦相手がキソラだと気づいたらしい。


「な、何で居るの?」

「あ、貴女こそ……」


 最初は互いに戸惑っていた。

 学院内にいたのだから、学院生であることは知っていたが、同学年というのは予想外だったらしい。

 そもそも、それが発覚したのは、二人して高等部の昇降口に向かっている最中だった。


「だって私、二年Aクラスだし」

「私はBクラスよ」


 で、冒頭に繋がる訳なのだが。


「……」

「……」

「……ああ、そういうオチか」

「一人で納得しないでよ!」


 何となく理解したキソラが一人頷き、赤毛の少女はそれを指摘すると、ビシッとキソラに指を向ける。


「それと、私たちは負けたつもりはありませんから。私たちが倒すまでは、絶対に負けないでください。貴女たちを倒すのは、私たちなんですからね!」


 そして、そのまま去っていった。


「あ、名前……」

「キーソラっ!」


 呆然としていたキソラは背後から来た友人に、おはよう、と名前を呼ばれる。


「今の……アリシアさんだよね? 何かあったの?」


 赤毛の少女が去った方を見ながら、もう一人の友人が声を掛けてくる。


「アリシア、さん?」

「そ。アリシア・ガーランドさん。選択科目で一緒になることがあってね。時々話すんだ」


 キソラが名前を復唱すれば、友人は彼女について教えてくれた。


 アリシア・ガーランド。

 二年B組所属。

 赤髪ツインテールに碧眼の少女。


(そして、ギルバートという男の契約者にして、ゲームの参加者、か)


 三人で教室に向かいながら、キソラは脳内で整理していると、どうやら話の内容は変わったらしい。


「やっぱり、かっこいいよねー、フェクトリア先輩」


 ほぅ、と頬を染めて言う友人に、もう一人の友人が先輩――フェクトリアの良いところを上げていく。


「頭脳明晰、容姿端麗。おまけに地位も良いし、女性の扱いも上手いと来た」

「それ以外にもあるよ。使用人顔負けの家事スキルも持ってるから、全校生徒の憧れの的」


 それを聞いて、うん? と首を傾げてキソラも言う。


「それってさ、うちの兄さんにも言える事じゃん」

「出たよ。ブラコン発言」


 呆れたように言う友人にキソラは再度言う。

 今の発言だけで、ブラコン発言と言われても困るのだが、と思いつつ、キソラは言い返す。


「私は違うわよ。もう半年……いや、三ヶ月だったかな? それぐらい連絡取ってないから」

「いや、それはそれでどうなのよ」


 この前はいつ話したんだっけ? と思い出そうとするキソラに、思わず心配してしまう友人たち。


 ノーク・エターナル。

 キソラの兄にして、王国騎士団所属。

 学院の卒業生で、元学年首席。


「まあ、便りがないのは元気な証って言うしねぇ」

「そういう問題じゃないと思うよ。キソラ」


 だから、気にするな、と言いたげなキソラに、苦笑する友人二人であった。


   ☆★☆   


 さて、授業が終わり、帰宅時間。


「やっと終わった……」


 燃え尽きたというようなオーラを発するキソラに、何ともいえない表情になる友人二人と、様子を見に来た赤毛の少女――アリシア。


「何でアリシアさんがいるの?」

「私がいてはダメなのかしら?」


 アリシアがいることに首を傾げながら尋ねる友人に、アリシアは尋ね返す。


「いや、悪くはないんだけど……」


 そう言いながら、ふらふらと歩きながら、教室の出入り口に向かうキソラを見る三人。


「あ」


 ドアの角に頭をぶつけるが、キソラはそのまま教室を出ていった。

 顔を見合わせる三人。


「階段から落ちないわよね? あの子」


 この教室から昇降口に行くには階段を使う必要がある。

 一歩でも踏み外せば、大怪我になりかねない。

 三人は慌ててキソラを追いかけた。


   ☆★☆   


 三人に送られ、無事に寮の部屋に帰ってきたキソラは、アークのケガの様子を見ていた。


「はい、もう大丈夫だよ。少し動かしてみて」

「お、何か良い感じだ」

「痛むところがなければ、治療は終了」


 夜中に戦闘をしたとはいえ、アークがこちらに来たときより、ケガは治っていた。


「それで、部屋を抜け出した理由をまだ聞いてないんだが?」


 アークの言葉に、目を逸らすキソラ。


「それは、さ」

「それは?」


 キソラは必死に脳内をフル回転する。

 一緒に居始めて分かったことが一つある。それは、アークの勘が鋭いことだ。


(昨日も結局駆けつけてきたし、勘が鋭いから、何と言うべきか)


「言い訳は聞かないぞ」

「い、言い訳はしないよ! ……ただ、何と言えばいいか分からないだけ」


 キソラの言葉に、アークは溜め息を吐いた。


「まあ、無事だったからいいけど……」


 ぽん、とキソラの頭に手を置く。


「初めてにしては、よくやった」


 頭を撫でられ、そう告げられたキソラは大きく目を見開いた。


「……だ」

「ん?」

「……兄さん以外で、そうやって褒めてくれたのは久しぶりだ」


 アークの手が止まり、その手をキソラは下ろす。


「兄以外って……」


 アークが尋ねようとして、キソラは立ち上がる。


「夕飯、用意するから」


 そう言って。


   ☆★☆   


「…………」


 二人は何故か外にいた。

 アリシアたちも一緒に。


「リベンジマッチよ!」

「えぇ……」


 ビシッと指を指して言うアリシアに、げんなりするキソラ。


「ねぇ、私今日も寝られなかったら、三日完徹状態になるんだけど」


 完全に不機嫌そうなキソラに、ギルバートも同意する。


「だな。俺も完全回復したわけじゃないし」


 だから、解散しよう、というギルバートに、アークもじゃあ帰るか、と言う。


「……?」


 えー、というアリシアに、キソラは振り返る。


「どうした?」

「いや、誰かに見られてる気がするんだけど……」


 やっぱり気のせいだったみたいと、アークの背中を押し、部屋に戻ろうとするキソラ。

 実際、視線を感じていたのは気のせいではない。

 冒険者たちに付き合って迷宮探索したりしているためか、一部の感覚(主に何かを察知する感覚)が必要以上に鋭くなっていた。

 そして、その視線のものは――


(アリシアと同じもの)


 つまり、契約者にして、ゲームの参加者。


「まさか、学院内に二組もいるとは……捜す手間が省けた」


 そう言いながら、こちらに近づいてくる者の姿を見て、キソラとアリシアは目を見開いた。


「フェクトリア、先輩……?」


 驚いたまま、その名を呼ぶ。

 キソラたちが今朝方噂していた人物――フェクトリア・リーアストがそこにいた。


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