三等星「魔法使い」
ここは、魔王城の地下牢です。ここには、生きた人間の捕虜が、多く捉えられています。
「ねえ」
娘が、ある一人の魔法使いに声をかけました。
「そこにいて、どういう気持ちなの?」
「煽りかキサマ……いや、純粋に本心から聞いてるんだろうけども……」
魔王使いはまだ少女と形容できる姿でした。
可愛らしかったであろう容姿は、深く刻まれた傷や、そこから垂れる血で、台無しになっていました。
「あー……どういう気持ちかと言われると……うん、最悪な気持ちだな」
「どれくらい?」
「……お前なぁ」
魔法使いは、牢屋にとらえられています。手足は自由ですが、外への自由はありません。
「まさに、死刑を待つ囚人のような気持ちだよ」
「あなたは死んだことがあるの?」
「死んだことは無い。が、わかるだろ? 言葉は万能じゃなくても、お前の心証機関は万能さ。人間は万能だ」
「ふーん」
「ああ、あと、それにある憎悪と恐怖を少なくとも20倍は増やしてくれ」
「わかった」
娘は、チョコのスティックを齧りながら、そう答えました。
「あー……そのスティックを一本くれないか。教えてあげた礼として」
「ダメ。そういう規則がある」
「お前って意外とマニュアル人間だな!」
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「なあ、いいかげん去ってくれないか。私は恐らくだが死の恐怖におびえる自由くらいはあると思うんだが」
魔法使いは娘の方を見つつ言いました。
「じゃあ、最後に」
娘も、魔法使いをじっと見て言いました。
「あなたは私が憎い?」
「……うん、とっても」
「じゃあ、なんで話してるの?」
「……お前は保護者から煽らないことの大切さを教えてもらえ、もしくはそれが多くのマナーというマナーに反してることを、だ」
魔法使いは、半分笑いながら、そういいました。
「……話し相手がいないから。暇だから。とでも言っておこうか」
「あなたの仲間と話せばいいじゃん」
「今言った事をもう一度繰り返してやろうか?」
魔法使いの眼は、笑っていません。
「仲間は……もう全員死んだ。いや、生死がわからないやつもいるが、恐らく。私の中では、もう死んだ。そう思う事にした」
「あなたの仲間は、勇者と、僧侶と、もう一人魔法使いがいたんだっけ」
「そうだ。勇者と僧侶は旅の途中に出会って、もう一人の魔法使いは幼いころからの親友だった」
魔法使いは、顔を伏せて語り始めました。
「全員いい奴だった。勇者はわがままだったが、それと同時に正義感が強かった。強すぎたぐらいで、馬鹿な奴だった」
「僧侶は……ムードメーカーだな。悪いところもあるが、それ以上にいいところが目立つ奴だった。優しかった……のかな」
「親友の魔法使いは、それこそ善人をそのまま形に出したやつだった。たまに不気味に感じたが、人間だという事がわかって、ほっとしたのはある」
「……まず、親友の魔法使いが狙われて、燃えて死んだ。私たちは三人で善戦して、やがて僧侶が首を斬られて死んだ。勇者は、爪が腹に刺さった。命はあった」
「私はその場にへたり込んで……そこからは、どちらかというと景色より、感情が見えていた。だから、言い表せられない」
「あなたと勇者は生き残ったの?」
娘は聞きました。
「私とあいつは賢かったからな」
魔法使いは、深くため息をつきました。
「……勇者の名前はアルノスというんだが、知ってるか?」
「知ってる」
娘は問われて答えました。
「そいつはどうなった」
「死んだ」
「そうか……好きだったんだけどなあ、あいつ」
「それをどうして私に」
「本人がいないと言えるものなのさ」
「仲間には」
「言ってない」
魔法使いはそう言った切り、黙ってしまいました。
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「ねえ」
娘は問いました。
「なんだ」
「どのくらい、私が憎いの?」
魔法使いの指先から、鋭い光が放たれました。
その光は、娘の頬を切って、血を出させました。
「このくらい」
「そっか」
魔法使いは、この魔法が原因で、3日後に死にました。
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