第55話 今そこにある危機

 平和条約も無事に締結し終わり、討伐隊も都市へと帰還して、莱江山一帯には久方ぶりの穏やかな毎日が戻ってきていた。木陰から遠くの畑で農作業に勤しむ村人たちをボーっと眺めていると、まるで少し前までの忙しなさが全て嘘だったかのようだ。う~ん、平穏って素晴らしい。


 視線を遠くへ投げ出したまま平和を噛みしめていると、ふと近くを通りかかったセツカが俺に顔を向けるのが視界の隅で見える。そのまま通り過ぎてくれよと心の中で祈ったが、無情にもセツカは俺に向かって声をかけてきた。


「あれ、シンタローなんか暇そうだね? 殴ってあげようか?」

「頼むから『暇そう』と『殴る』の間に全く繋がりが無いことに気がついてくれ。俺はこの暇で平和な状態が一番幸せなんだよ。分かったならさっさと俺の視界から消えて頂けますでしょうか?」

「何を枯れたおじいちゃんみたいな事言ってるの? こないだの討伐隊の送別会じゃあんなに盛り上がってたのに……そうだ、こういう時こそ出し惜しみしてる尻芸を披露してまたみんなで盛り上がろうよっ!」

「その『みんな』の中には俺が含まれて無いよね!? それに出し惜しみしてるわけじゃなくてマジで出したくねえんだよ!」


 ライタ含め尻好きの村人たちは大いに盛り上がるのかもしれんが、その盛り上がりの合計を余裕で上回るくらい俺が不幸になっちゃうからね。俺にとっては今のこの暇な状態がベストなんだけど、どうやらセツカにとっては平和や安寧というのは敵らしい。このバトルジャンキーが余計な事をしでかさないうちに何らかの対策を取りたいもんだが……。


「ムツメが一向に姿を見せないせいで、ま~だこの村を離れられねえんだよなぁ……ったく、何が『あと少しだけ時間をくれ』だよ。千年以上生きてる尻好きド変態魔神のくせに旧友と仲直りすら出来ないとか、小心者にも程があんだろ。これぞ老害ってやつだわ」

「なるほど、今の言葉をそっくりそのままムツメに伝えたら中々見応えのある戦いが見れそうだね……! こりゃ今から待ち切れないよっ!」

「おい、俺の命を危機に晒して楽しむのはやめろ」


 くっ、ずっとこんな調子じゃ気が休まる時がねえぞ……! マリーをデコイとしてあてがうのにも限界があるし……そうだ、せっかく結界外にいるんだし、この近隣に手強い魔物がいないかハトちゃんに聞いてセツカを討伐に送り出すとかいいかもしれんな。こいつと共倒れになるくらいの奴がいれば最高だ。


 こうしちゃいられねぇ、早速聞きに行こうと木陰を離れて村の方へと向かう。そのままハトちゃんの家目指して村の中を進んでいくと、道端に何やらちょっとした人だかりが出来ている事に気づいた。そこにはハトちゃんと村人数名に加えて、見覚えのある顔の甲冑姿の人も二人いる。あの人たちは確か――


「あれっ、チャックさんとサムさんですよね? 都市に戻ったはずなのに、どうしてまた村に? 何か忘れ物ですか?」

「ああ、これはシンノスケ殿。おや、今日は変わった格好をしていますね?」

「あっ、ええ~っとその、き、今日はちょっとたまたま……」


 しまったな、帰ったはずの隊員二人がいるのに驚いて思わず声をかけてしまったが、もう村人の服装はやめてシャツとスラックス姿に戻ってるんだった。でもまぁ特に不審がったりはしてないみたいだし、このまま自然な感じで会話を続けるか。


「ええと……そうだ、スコットさんや他の隊員の方はいないんですか?」

「ええ、今日は我々二人だけです。急いで知らせる事がありましたので……ちょうど、ハトちゃん殿たちにお話していたところなのですが……」

「急いで知らせる事、ですか?」


 ちらりとハトちゃんたちに目を向けてみる、が……暗い表情をしている辺り、どうも良い知らせでは無さそうだ。なんだろう、平和条約の細部の見直しとかだろうか。


「あれからライタ殿と無事に和平を結べた事を王都に報告し、我々も肩の荷が下りたつもりだったのですが、都市に戻って少しした頃に王都から使者がやって来まして……」

「『増派する事が決定したから、戦闘態勢は解かずにそのまま前線で待機しているように』との命令を下されたのです」

「えっ……ぞ、増派? 和平を結ぶ事が認められなかったんですか?」

「それが……その使者に『そのまま滞りなく和平を結んだ風を装って敵を油断させておけ』とも言われて、スコット隊長は『約定を破った上に騙し討ちなど、王家の今後に必ずや禍根を残す事になる』と激怒してしまいまして……」

「決定に異議を唱えるために単身で王都へ戻られたんです。そして我々はそれらの事を村に伝えるよう隊長に指示された、というわけです」

「な、なんという……」


 あまりに予想外の出来事に言葉を失う。平和条約の内容の見直しどころか、和平が無効な上にもっと多くの兵が派遣されてくるだなんて……これまでの努力が水の泡なんてもんじゃない、より面倒で厄介な事態じゃないか。


「その、スコットさんの直訴が通る可能性はあるんでしょうか?」

「私も地方都市の住人ですから、中央の事情にはあまり詳しくないのですが……可能性はかなり低いかと。どうも使者の言からすると、中央の兵を中心にして一万名ほどの討伐軍を編制するつもりのようです」

「いっ、一万!? そんなに!?」

「これだけの人数を動員するという事は上級貴族の多くが賛同しているはずです。スコット隊長が抗議しても、おそらくは退けられるかと……」


 チャックさんとサムさんはそう言うと、悔しさと無念さが入り混じったような表情を浮かべた。この世界の人口やGDP等は分からないが、文明水準から考えて、一万も動員するというのはかなり本腰を入れていると考えて良いだろう。確かにスコットさん一人が反対したところで決定が覆る可能性は相当低そうだ。


「莱江山の村に恭順する意志があるという事はちゃんと中央にも報告して了解を得ていたのに、ようやく和平を結べた今頃になって大軍を寄越すなんて全く意味が分かりませんよ」

「討伐隊の一同もスコット隊長と同じ気持ちです。こんな状況になってしまっては信じて貰えないかもしれませんが……」

「い、いえ、こうして知らせにきて下さったわけだし、討伐隊の皆さんの事は今でも信頼していますよ。そうだよなハトちゃん?」

「ええ、勿論ですとも」


 俺の言葉に応えてハトちゃんと村人たちがうんうんと頷き、その様子を見たチャックさんとサムさんはホッと安堵しているようだった。中央からの命令を俺たちにリークするというのは立場上よろしくないはずだし、村の事を気遣ってくれているのは間違いない。


「そう言っていただけると助かります……無益な争いを避けるため、我々も出来る限りの手を尽くそうと思います」

「ライタ殿と戦う事がどれだけ無謀かというのは我々が一番骨身にしみてますからね。これから一旦都市に戻りますが、状況に変化があり次第また連絡しますので」

「わ、分かりました。お二方も道中お気をつけて……」


 立ち去るチャックさんたちをその場から見送ったが、あまりに急な展開で現実感が薄いせいか、俺はしばし呆然と立ち尽くしていた。一万かぁ、桶狭間の戦いの時の今川義元軍よりは少ないよなぁ……まぁこっちも信長の軍勢より遥かに少ないけど、ライタ一人で兵士十万人相当にはなるだろうから問題無いか、ははは……。


 ボケーっとそんな事を考えていると、背中からハトちゃんの「ま、マキノさん、一体どうしましょう?」と不安げな声が聞こえ、ハッと我に返った。そうだ、現実逃避なんかしてる場合じゃない、一万の兵隊がライタによって消し炭に変えられる前に何か手を打たねば……!


「ハトちゃん、たぶんライタは山の方にいるだろうから呼んできてくれるか? 俺はセツカたちを集めてくるわ。ハトちゃんの家で莱江山安全保障会議の緊急会合を開くぞ!」

「は、はい、分かりました!」


 返事と共にハトちゃんは山の方へ駆け出し、俺もセツカたちを呼び集めるために田畑の方へと戻っていった。





「え~、急ではありますが、これより『莱江山と近隣地域社会の今後の平和及び発展を考える会』の緊急会合を始めたいと思います」


 ハトちゃんの家の居間に集合した面々に向け、開会の言葉を宣言する。流石のセツカたちも苦労して結んだ和平が白紙に戻った上に兵が一万も派遣されてくるというのには動揺しているのか、そわそわとして落ち着かない雰囲気だ。こういう時こそ俺が冷静にリーダーシップを発揮しないとな……!


「もうみんな聞いてると思うが、中央に和平が認められなかっただけでなく、どうやら一万人も増援が送られてくるらしい。みんなも不安だろうし、こんなに切迫した状況で冷静になれ、というのも酷な話かもしれない。風雲急を告げるというか、これはまさしく――」

「まさしく待望の展開だねっ! いやはや今のご時世に一万の軍勢と正面から殴り愛出来るなんて一生に一度あるかないかだし、私たちホント運が良いよ! 正直さっきからヨダレが止まらないもん!」

「そっち!? てかヨダレめっちゃ床に垂れてる垂れてる! きたねぇから早く布かなんかで拭けって!」


 ダメだこいつ、こんな時でも全然ブレてなかったわ。でもなんだろう、こういう危機的状況でも変わらないコイツの言動を見てるとなんか逆に頼もしく思えてくるような……ってダメだダメだ! こっちまで毒されてきてるぞ! しっかりするんだ俺!


「いやいや、いきなりセツカ姐さんが出ちゃったらサクッと片が付いちゃってつまんないっすよ。だからまずはあたいが先鋒を務めるのが妥当でしょうよ!」

「ふん、ナマクラにだけ良い格好はさせんぞ? それがしも先鋒として出る!」

「う~ん、確かにこんな好機をあっさり終わらせるのも味気ないよね……よし、先鋒は二人に任せたよ! 程よく戦場が温まったところで私が出るからねっ!」

「着々と殲滅の算段をつけるのはやめろ! そもそも出撃を許可してねえから!」


 まさかこいつらが落ち着きなくソワソワしてたのは「明日の遠足が楽しみすぎて夜に寝付けない」的なソワソワだったのか……!? 一人で「冷静にリーダーシップを発揮しないとな(キリッ)」って覚悟決めてた俺が馬鹿みたいじゃん……とんだピエロだよ……。


「まぁまぁ旦那、一万も軍勢がやってくるってのに今からそんなカッカしてたんじゃ体が持ちませんぜ? ここはちょっと冷静になりましょうよ」

「他人事みたいに言ってるけど、こんなにカッカしてんのはお前らのせいだからな? こんな調子じゃ軍勢が到着する前に心労でぶっ倒れるっつーの」

「あ、それなら大丈夫ですぜ! こんな時のために京四郎坊っちゃんと陰でこっそり練習してましたからね!」

「えっ、京四郎とこっそり練習? 一体何の話だ?」

「ふふふ、『アレ』を目にすれば我が君の心労も一発で吹き飛ぶというもの。さあ若君、今こそ練習の成果を見せる時ですぞ!」


 ハタケとクロが勢い良く京四郎の方へ向き直り、釣られて俺も京四郎に目を向ける。すると、京四郎は眠たげな眼を気持ち大きく開いて表情を引き締め、右手をすうっと胸の高さまで上げて――おもむろに口を開いた。


「ひれふせ、ぐみんども」


 あちゃ~……これ、完全に魔王色の覇気出ちゃってるやつですわ。


「――敵は王都にあり。まずはライタを先頭にして攻撃を仕掛けて敵を一か所に引き付けろ。その隙に俺が京四郎を連れて上空から王城に侵入し、首脳陣を一気に制圧する。そして魔王京四郎の誕生を宣言し、更に魔王誕生記念にマリーを公開処刑にする。作戦名は『不朽の和菓子作戦』だ。奴らに百五十年変わらない伝統の味を叩き込んでやれ! ウーラァ!!!」

「うおおおおおおおおッ!! 待ってましたぜェ! この瞬間ときをよォ!!」

「我らがその言葉をどれほど待ち望んでいた事か……! 腐った王都の人間どもよ、支配してやるぞッ! 我が君のもとにひれ伏すがいいぞッ!!」

「いや待ちなさいよ! さりげなくあたしが処刑されてるんですけど!?」


 ハイテンションのハタケとクロの合間を縫うようにしてマリーがニュッと飛び出してくる。チッ、話にこっそり紛れ込ませたらバレないと思ったんだが気がつきやがったか……。


「なんだマリーいたのか。安心しろ、この案はローマ帝国の『パンとサーカス』政策を参考にした真っ当なものだからな! まず、貴族たちには神器である羊羹を分け与えて不満を抑えるだろ。んで民衆の方にはマリーの公開処刑を見せて楽しませる事で反乱を防ごうってわけだ。ね、簡単でしょ?」

「ふざけんじゃないわよ! そもそも王都の人間が見ず知らずのあたしの処刑見たって面白くもなんともないでしょ!?」

「おいおい、そう自分を卑下するなよ。大丈夫、お前は自分が思ってる以上にウザくて腹立つからな。お前の処刑を見た民衆はザマミロ&スカッと爽やかの笑いが止まらなくなるはずだ。だから自信を持て! お前はめちゃくちゃウザい!!」

「あんた喧嘩売ってんの!? なんであたしだけ命を投げ出さなきゃいけないのよ!」

「ああ、その辺はサラに協力してもらうつもりだから安心しろ。お前に支援魔法をかけてもらって耐久度を上げて、死にそうになったら回復魔法かけてもらうからさ。長く処刑を楽しめるぞ!」

「それ完全に拷問やんけ! しかもその道に詳しいサラ呼ぶとかガチなやつでしょ!? 絶対に断る、絶対にだ!!」


 マリーはそう言い放つや否や、ブゥーンと激しい羽音を響かせて脱兎のごとく家から飛び出していってしまった。あらら、半分冗談だったのに……それに、どこに逃げようと無駄だって事にまだ気づいてないとはな。知らなかったのか、エルカさんの眷属からは逃げられない……!


「とまぁ、おふざけはこれくらいにして、真剣に対応策を考えないとな……」


 呟きながらマリーが飛び出していった戸口の方から視線を戻すと、ライタが何やら難しそうな顔をして黙り込んでいることに気づく。こういう話題には一番食い付きそうなのに妙に静かだと思ったら、珍しく何か考え事でもしてるのかな。それとも人間側の勝手な振る舞いに機嫌を損ねちゃった、とか?


「ライタ、そんなしかめっ面しちゃってどうかしたか? 何か考えてることがあるんだったら遠慮なく発言してくれて構わないからな」


 言葉を選びつつ慎重に尋ねてみると、ライタは「ん? ああ、そだな~……」と顔を上げ、ぽりぽりと頭をかきながら口を開いた。


「ええっと、なんていうか……おれ、今回はあんまり戦いたくないな~、と思ってな……」

「えっ、戦いたくない!? ほ、本当に? 熱があるわけじゃないよな?」

「ん、ああ……討伐隊のヤツらいい奴ばっかりだったし、宴会もすっげー楽しかったからな! その、上手く言えないけど……あいつらとはこれからも仲良くしてたいな~、って思ってなー……」


 ライタは途中で詰まりつつも言葉を続け、言い終わるとまた難しい顔に戻って「う~ん……」と唸り声を上げていた。驚いたな、まさかライタが自発的に「仲良くしていたい」なんて言い出すとは……こりゃ大した変化じゃないか。


 正直なところ、現状はかなり厳しいが……こうやってライタが意思表示してくれたんだし、ここは何とか穏便に済ませる方法を考えてあげたいな。


「いやはや、自ら歩み寄って相互理解に至ろうとするその姿勢、実に素晴らしい! 先生はどちゃくそ感動しました! 一万の軍勢が押し寄せてくるのを『運が良い』だの『ヨダレが止まらない』だのと茶化してたどこぞのアホに見習わせたいくらいですよホント!」

「ちょっとシンタロー誰がどこぞのアホだって!? 自分だって『魔王誕生を宣言する!』とかノリノリで言ってたじゃんか!」

「え~、全く記憶にございません」

「あ、そういえば前にシンタローが壊れた物を叩いて直す『ろしあ式修理法』ってのがあるって言ってたよね? どうやらシンタローの頭も壊れてるみたいだから叩いて直してあげるねッ!?」

「お、おいやめろバカッ! それは今時の繊細な機械には通用しねえんだよ! あっそうだ思い出した! あれは全部秘書が勝手にやったことなんです! だから俺は悪くねぇ!!」

「ちょ、我が君!? その秘書とはもしや我らの事では!?」

「そんな殺生なっ! 旦那もすげえ喜んでたじゃないすか!」

「馬鹿野郎、こういう時に主人を守ってこそだろうか! 議員の汚職を全部かぶってムショでオツトメしてくるまでが秘書の仕事なんだよ! 分かったなら大人しく叩いて直してもらえ!」

「う~ん、なんかもう面倒だから全員まとめて叩いて直してあげるね? よし、それじゃ全員歯ァ食いしばれッッ!!!!!」

『ひいいいいいいいいイイイイ――――――――――――ッ!!!』


 いきなり内部分裂の危機に瀕しつつも、俺たちはハトちゃんの家で「あーでもないこーでもない」と事態解決のための議論を深めていった。





 いつもの木陰に腰を下ろし、原っぱで土の城を造って楽しそうに遊んでいる京四郎、ハタケ、クロ、ライタたちを眺めていても気分は晴れず、ついつい「はぁ……」と溜め息が漏れた。ずっと家の中にこもっていても良いアイデアは出ないだろうということで、今日は屋外に出て気分転換しているのだ。


 あれから何日にもわたって議論を続けたものの、「これだ!」という結論も出ないまま、ただいたずらに日数が経過していくばかりだった。その間に都市の方から新たな連絡が全く来ていないというのも一層の不安を駆り立てる。もしかしてもう軍勢が迫ってきてるんじゃ……とパラノイア気味な想像まで頭をよぎる始末だ。そりゃ溜め息も止まらなくなるってもんだ。


「なんかシンタローさっきから溜め息ばっかりだね? せっかくの気分転換なんだからもっと楽しそうにしたらいいのに」

「いやだって一万もの軍団が莱江山目指して進軍してくるんだぞ? お前らと違って俺は常識人だからな、そりゃ気分も沈むわ」

「あ、そうだ一万と言えばさ、大軍相手ならやっぱキョーシローに軍隊の通り道を破壊してもらったり、兵糧を焼き払ったり埋めたりするのが一番良いんじゃないの? 身動き取れなくなって撤退してくれると思うんだけど」

「まぁ、俺も普通の兵士相手ならそれが最善だと思うが……相手には王都の精鋭も含まれてるっぽいだろ? ならそれなりの土魔法の使い手がいる可能性があるからな、破壊工作が通用するかどうか分からん。兵糧も始末したいとこだが、そっちも精鋭が守ってる可能性があるし、相手の強さとか軍団編制が分からんと万全とは言えんな」


 出来れば早く相手の構成やらを知りたいところだが、都市からの使いもまだ来ないし、スコットさんの直訴がどうなったのかも分からない状況だ。いかんせん情報が無さすぎる。こっちから情報を探りに出向いて行ってもいいかもしれないが、すれ違いになっちゃう可能性もあるし……。


「ああ、エルカさんが俺に影分身の術も授けてくれてたらなぁ……こうなると、俺がエルカさんの眷属だと名乗り出ていって争いを調停する事も考えといた方が良いかもしれんな……」

「あれ、でもエルンストに居た時には神の眷属だ~って騒がれるの嫌がってなかった?」

「そりゃ今でも騒がれたりすんのは嫌だし、王侯貴族の相手とかもしないといけないと思うと気が引けるけどさ、一万の軍勢とぶつかるよりはずっとマシだろ」


 王家の守護神の愛娘であるエルカさん、というコネを使って戦乱が回避出来るのなら安いものだろう。エルカさん自身はコネが嫌いっぽいけど、まぁ流石に今回は許してくれるよな、たぶん……至極真面目な理由だし……。


 でも名乗り出るとなると、いきなり出向いて行って「オッス、オラ神の眷属!」とか言っても不審者扱いされちゃうかもしれんな。ジャンヌ・ダルクも正式な預言者と認められる前は色々素性を調べられたらしいし……サラとかヴェルヌイユさんにも手伝ってもらって、教会経由で連絡取ったりした方が良いんだろうか……。


 と、そんな事を考えていると、向こうの原っぱで遊んでいる京四郎たちが何やら騒がしい事に気づく。じゃれ合っている、というよりは騒然としている感じだ。一体どうしたんだろう?


「おーいお前らー! そんなに騒いでどうかしたかーっ!?」


 原っぱに向かって大声を張り上げて尋ねると、京四郎たちは俺の方へ振り向き、ある方向を指し示しながらぴょんぴょんとジャンプをしてみせたりと、やはり落ち着きがない様子だ。何だろうと思いながら俺もその方向へ目を向けてみる。するとその先には、見覚えのある上品な着物を身に着けて、大きな布袋のようなものを担いで歩いてくる小さな人影――ムツメの姿があった。

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