第48話 私を莱江山に連れてって

 部隊が到着したとの知らせを受けてオフュルスさんの村へ向かうと、村の様子は前回に訪れた時とはだいぶ様変わりしていた。村の外側には物資が積まれているらしい荷車がまとめて並べられ、派遣されてきた兵隊らしき人が忙しそうにあちこち動き回っており、辺りに漂う空気も微妙にピリピリとしているような感じだ。


 そんな緊張感の中をかき分けるようにして、知らせに来てくれたオフュルスさんを先頭に村の道を進んで行く。俺の後ろには莱江山の村から一緒に来た二人の村人も続いている。ちなみに、今の俺の服装はハトちゃんに用意してもらった村の服だ。ちょっとゴワゴワしてるけど、こればっかりは我慢するしかないな。


 いくらか進むと甲冑姿の男性がとある家の前に立っており、オフュルスさんはその男性に「使者の方をお連れしました」と声をかけた。男性は「少しお待ちを」と家の中へ入っていき、家の中でいくらかやり取りをする気配がした後、再び姿を見せた。


「御使者、こちらへどうぞ」


 男性の言葉に「分かりました」と答え、促されるまま家の中へと入っていく。事前に連絡を取ってもらっていたおかげか、割とすんなりと部隊の責任者に会わせてもらえるようだ。


 家の中には数名の人間が詰めており、入口にいた男性と同じく甲冑姿の人もいれば、それよりもいくらか軽装の人もいた。部屋の一角には机が置かれ、周りの人間の立ち並び方から察するに、どうやらそこに腰かけている人物が指揮官らしい。


 座っているのは若い男性で、金色の短髪に青い瞳をしており、一見すると活発そうな好青年といった印象だ。その青年は顔を上げると、俺たちの方を見据えながら「おおっ」と言葉を漏らした。


「使者殿、よくぞ来てくれた! さぁさぁ、そんなところで立っていないで、どうぞこちらへ」


 青年が手振りで長椅子に腰かけるよう勧めてくれ、俺たちはそれに従って長椅子に腰を下ろした。ハキハキとした喋り方からは好意が感じられる。こりゃ幸先の良いスタートが切れそうだ。


「村の代表で参りました、シンノスケと申します。こっちは同じく村から来たタスケとバトウです。今日はわざわざこのような場を設けて下さり、感謝の極みです」

「私はこの部隊を預かっているアレン・スコットと申します。オフュルス殿によると、莱江山の村は恭順する意思があるとか……間違いありませんか?」

「はい、間違いありません。これをどうぞ。用意してきた親書です」


 懐からハトちゃんに用意してもらった親書を取り出し、スコットさんへ手渡しする。スコットさんは受け取った親書を開いて視線を落とし、文面に目を通し始めた。


「……確かに拝領しました。念のため、口頭でも確認しておきたいのですが……ムツメノカミは莱江山から他所へと移り、今のところ莱江山には目覚めた悪雷、ライタが一人で立てこもっている……という事で間違いないですね?」

「ええ、その通りです」

「分かりました……では、二日後に部隊を率いて莱江山に向かおうと思います。その際、山の麓までの案内を頼めますか? それと、おおまかで良いので莱江山の地形についても教えて頂きたい」


 分かりました、と頷こうとしたところで、スコットさんの傍らに立っている男性が「た、隊長、ちょっとよろしいですか」と慌てたような声を漏らした。スコットさんが「どうした?」とその男性の方へ向き直ると、男性はスコットさんに耳打ちをするような格好でぼそぼそと喋り始めた。


「その……ムツメノカミもおらず、悪雷も山に籠ってしまっているというのなら、直近の脅威にはならないのでは? 村の恭順も取り付けたわけですし、今回は様子見だけで済ませてしまっても良いかと思うのですが……」

「馬鹿者! 何を言っているッ!」


 突如、スコットさんが怒気をはらんだ大声を上げ、耳元に顔を寄せていた男性はのけ反るようにして一歩後ずさった。


「彼らは既に我らの同胞であろうが! その同胞が困っているというのに様子見も何もあるか! 我らは国王の名の下にこうして遥々来ているのだぞ! 我らの振る舞いはそれ即ち王の振る舞いと同義だ! 貴様は我らの王が同胞を見捨てるような真似をすると思うのか!?」

「は、ははっ! 軽率な事を申しました! 申し訳ありません!」


 スコットさんに激しく叱責された男性はすっかり恐縮してしまい、周囲の人々も気まずそうな表情を浮かべて居心地悪そうにしていた。おお、なんという熱血な……これが若さか……。


「全く、今から弱腰になっていてどうするんだ……使者殿、見苦しい所をお見せしてしまった。今回の問題は我らが最後まできっちりと責任を持って対処するので、どうか安心して頂きたい」

「い、いえ、その辺は全く心配してませんので大丈夫ですよ」


 真正面から謝罪されて、逆にこっちが戸惑った声になってしまった。わざわざ俺たちにも謝るだなんて随分と律義な人なようだ。しかし……横目で他の人の様子を窺ってみるに、どうやらやる気満々なのはスコットさんだけらしい。この様子なら、何度かゲリラ戦を仕掛ければ士気が下がって和睦もスムーズにいくかもしれないな。


「もちろん、これまでの討伐隊が散々苦労してきた事は私も知っています。しかし、今回は特別に強力な助っ人にも来てもらっていますから、決してこれまでの二の舞にはなりませんよ!」

「えっ、きょ、強力な助っ人……ですか?」


 思わぬ言葉に少し動揺してしまったが、スコットさんは特に気にした様子も無く「ええ」と自信たっぷりに頷いた。ううむ、まさか特別に助っ人を用意しているとは……これは想定外だぞ。武道大会の時もジェシカにかなり苦しめられたし、「助っ人」には良い思い出が無いんだよなぁ……。


「彼女にも軍議に参加してもらうよう、先ほど部下に呼びに行かせましたから、そろそろ来るはずですよ……と、やはり来たようだ」


 スコットさんが喋っている途中に背後の扉が開く音がし、釣られてそちらを振り向くと、甲冑姿の男性が誰かを引き連れながら家の中に入ってくるところだった。その誰かは艶やかな銀色の髪を腰あたりまでさらりと伸ばし、深みのある翡翠色の瞳をしており、何やら見覚えのある顔で――。


「げえっ!? サラゲェッホォッ! ゴッホゴホォッ! ぐへオエッ!!」


 咄嗟にサラの名前を呼んでしまいそうになり、俺は慌てて激しく咳込むフリをして必死に誤魔化した。す、助っ人ってサラの事なのかよ……心臓飛び出すかと思ったわ……。


「し、使者殿どうなされた! 大丈夫ですか!?」

「だっ、大丈夫です、振り向いた拍子にちょっとむせただけですので……げほっ……」


 心配して俺の顔を覗き込んでいるスコットさんを手で制しつつ、サラの方にちらりと視線を向けてみる。ひどく動揺した俺とは対照的に、サラはニッコリと営業スマイルを浮かべながら平然とした様子でこちらを見つめている。ポーカーフェイスなのか、それとも俺が使者に混ざってる事を知っていたんだろうか。


「ふぅ……お、お騒がせしました。ええと、それでこちらの方は……」

「あ、ああ、そうだった……こちらが今回、特別にお呼びしたサラ・エルカリア殿です。少し前にエルンストという都市でエルカ・リリカ様の神降りがあったのですが、何を隠そう、このサラ殿が神降りの張本人でしてね。エルンストはちょうどここへの途上に位置していたので助勢を願い出てみたところ、サラ殿が引き受けて下さったというわけです」

「はあ、なるほど……それは確かに『強力な助っ人』ですね……」


 まぁ俺もその現場にいたわけだし、張本人のひとりとも言えそうだけども……。


「サラ殿、こちらが莱江山の麓の村から参られたシンノスケ殿、タスケ殿、バトウ殿だ。これから彼らの話も伺いながら軍議を開こうと思っているのだが、サラ殿も何か気になる事があれば是非発言して欲しい」

「お心遣いありがとうございます。ではお言葉に甘えて、遠慮せずそうさせていただきますね」


 サラは上品な笑顔を浮かべつつ丁寧に答え、その様子を見たスコットさんは満足気に何度か大きく頷いていた。


「ほら、皆もサラ殿を見習わないか! 我らの急な頼みにもかかわらず、こうして積極的に部隊に貢献してくれているのだぞ! よし、それでは軍議を始める! そことそこの資料を取って机に広げてくれ」


 スコットさんの指示で皆がばたばたと慌ただしく動き始める。俺もまだ少しドキドキしている心臓を落ち着かせながら長椅子に座り直していると、いつの間にやらサラが俺のすぐ右隣に腰を下ろしている事に気が付き、驚いて再びビクッと肩を震わせた。


 に、忍者じゃないんだから、気配殺して近づくのはやめてくんないかな……と横目でサラの方をチラ見していると、不意にサラが俺の耳元に顔を寄せ、ぼそりと囁いた。


「後で詳しい状況を教えて下さいね、『シンノスケ』さん?」

「は、はい……」


 別にやましいことは何にも無いはずなんだけど、猫かぶりモードで喋られるとなんかこう、つい敬語になっちゃいますよね……エルカさんのオーラが漏れ出てるっていうか、トラウマが刺激されるっていうか……。


「よし、ではまず地形の把握から始めるとしようか。これが大昔の莱江山討伐の際に作られたらしい地形図なのだが――」


 そうして、内心ビクビクしている俺の事などお構いなしに軍議は始められたのだった。






 滞りなく軍議が進んでいき、そろそろお開きかなという雰囲気が場に漂い始めていた時のことだった。突如として扉が勢い良く開かれたかと思うと、甲冑姿の男性がガチャガチャと金属音を響かせながら、慌ただしく家の中へと駆けこんで来た。


「申し上げます! 賊を捕らえました!」

「何っ、賊!?」


 その場の一同が騒然とする。よりによって討伐隊との初顔合わせの日に賊が出るなんて、縁起の悪い……。


「はっ、輜重隊の荷物を漁っている所を警備の者が発見し、捕縛致しました!」

「賊の人数は? 逃がした者はいるか? 周囲に仲間がいる様子は?」

「捕らえた賊は一匹だけで、他にはいないようなのですが……その……『自分は莱江山の村から来た者だ』などと供述しており……」

「何? 莱江山の村から来ただと?」

「それで、念のために面通しをしてもらおうと連れて来ているのですが……」


 報告に来た男性がちらりと俺たちの方に目をやり、スコットさん達もこちちに目を向ける。賊が「莱江山の村から来た者」? い、嫌な予感がする……。


「分かった、一応確認してもらおう。部屋の中へ通してくれ」

「はっ、了解しました」


 男性がそう言って家の扉を開くと、すぐ外にはまた別の男性が立っており、右手を握り締めた格好で家の中へと入って来た。果たして、その手に握られていた物とは――!


「だからあたしは賊じゃないって言ってるでしょ! 正真正銘、村の住人に間違いないわ! しかもなんと村の重鎮よ!? あっ、ほらそこにあたしの事を知ってる奴が座ってるわ! さっさとあたしが無実である事を確認し、速やかに解放しなさい! さもないとここにいる全員がそれはもう酷い目に合うからね! これは最終警告よ!」


 案の定、マリーがばっちりと捕まっていた。こ、こいつ、確かに莱江山の村に置いてきたはずなのに……! さては勝手についてきやがったな……!


「……とのことですが、この妖精に見覚えはありますか?」

「いえ、こんな醜い虫の魔物は全く見覚えがありませんし一体何を言っているのかさっぱり見当も付きません。サラさん、直ちにあの頭のおかしい不届き者を浄化して頂けますか?」

「ええ、お任せください。塵ひとつ残さず見事に消し去ってみせましょう」

「おいゴルァッ! あんたらあたしを見捨てる気か!? そっちがその気ならこっちにも考えがあるわよ! マァ~~キィ~~ノォ~~シィ~~ンン~~……」

「おおっとよく見たらうちの村のマリーじゃないか! いやあ妖精はみんな似たような見た目をしてるからぱっと見じゃ分からなかったなぁ! いやはやこれは見落としても仕方がない仕方がない!」


 マリーが俺の本名を漏らそうとしたため、俺は大急ぎで口を開いた。脅迫してくるとか、こいつやってる事が完全に裏切り者のソレだぞ……。


「ということは、この妖精は本当に莱江山の村の住民なのですか? 間違いありませんか?」

「え、ええ、間違いありません……すみません、お騒がせしてしまって……」

「はっはっは、妖精と言えば元来いらずら好きの種族ですし、こうして結界内に入ってこれているのだから悪意は無かったのでしょう。今日は我々が初めて顔を合わせた記念すべき日ですし、ここは笑って水に流す事にしましょう。皆もそれで構わないな?」


 スコットさんが振り向きながら問いかけると、周囲の人々も「そうですね」「問題ありません」と頷いて同調してくれていた。おお、なんと心の広い……個人的には極刑に処してくれても全然構わなかったんだけどね……。


「全く、賊なんかじゃないって何度も言ったでしょうに! 最初からあたしの言う事を信用していればこんなややこしい事態には陥らなかったのよ! あんたも指揮官ならもっとちゃんと部隊の人間を教育しぐえええっ! つっ、潰れぐええっ!」

「おっと長旅の疲れのせいかまだちょっと頭の調子が悪いみたいだな! ス、スコットさん、申し訳ないんですが、身内と少し話をしても?」

「ちょうど軍議も終わりにしようかと思っていたところですし、構いませんよ」

「あ、ありがとうございます。それじゃちょっと失礼しますね。タスケさん達はここで待っててもらえますか?」

「ええ、分かりました」


 タスケさん達が頷くのを確認した俺は、ベラベラ喋って調子に乗ろうとするマリーをがっちり握り込んで黙らせたまま立ち上がり、急いで家の外へと向かった。それから人気のない建物の陰へと移動し、壁に背を預けながら脱力して小さく息を吐いた。


「あ~、マジあせった……おいマリー、お前なんで勝手について来てんだよ。しかも盗みを働くとか……お前の性根が腐ってることは重々承知してたけどな、いざこうして実際に犯罪を働かれると余りに情けなさすぎて涙が出るかと思ったわ」

「ぶはっ! ちょっと何を好き勝手言ってくれてるわけ!? あたしはノロマなあんただけじゃ失敗する可能性が高いと思ったからこうしてわざわざ出向いてきてやったのよ! そして討伐隊の内情を調べてたら兵糧や武具といった物資が妙に豊富な事に気づき、このままではまずいと咄嗟に手を打とうとしたってだけの話よ! むしろその機転を褒めちぎりなさいよ! 妖精王を称えよ!」

「世間一般ではそれを『窃盗』と呼ぶからな? やっぱ今からでも捕まえてもらって、しばらく暗い檻の中で真面目にオツトメしてた方が頭の調子も少しはマシになるんじゃねえのか?」


 俺の素晴らしい提案を聞いたマリーは「ふざけんじゃないわよ!」と激高した様子で声を荒げた。ふざけんなって言いたいのはこっちだっての、と肩を落としていると、不意に横からサラが「お、ここにいたか」と姿を見せた。


「よう羽虫、久しぶりだな。相変わらずのおかしな言動で安心したっつーか、がっかりしたっつーか……いや、がっかりの方がでけーかな……」

「出たわねこの裏切り者! いくら共に戦った仲とは言え、聖職者なんて胡散臭い連中は全く信用出来ないと思っていたら案の定これよ! あたしの善良な心を踏みにじるなんて恥を知りちょちょちょまっ! 待って待って! 全て嘘です! サラさんは裏表の無い素敵な聖職者です! いよっ、このエルンストの至宝!」


 サラにゆっくりと浄化の構えを取られたマリーは大慌てで手のひらを返し、必死の形相でヨイショしまくっていた。いつぞやも見たぞ、この光景……まるで成長していない……。


「ったく、減らず口も相変わらずだな……で、お前らは何でここにいるんだ? 偽名使った上に変装までしてるなんて、大した手の込みようじゃねえか」

「あ、ああ、それなんだけど、まぁ色々とあってな……」


 ライタと出会った日から現在までのいきさつをザッと説明すると、サラは俺と同じように建物の壁に背を預けながら「あー、やっぱりな」と納得と呆れが入り混じったような表情を浮かべた。


「討伐隊からオレに打診があった時、ひょっとしたらお前らも関わってんじゃねえかと思ってな。それもあって今回の討伐に参加したんだよ」

「あ、ひょっとして俺らの事を心配してくれてたのか?」

「ん、いやまぁ心配というか……ムツメとかも知らない仲じゃねぇし……」

「ちょっとちょっと何なのその態度は! もっとハキハキ喋りなさいよ! 照れ隠しでモジモジしてるのが美徳だとでも思ってるのかしら!? 己の意見をはっきりと主張出来てこそ国際社会で通用するんですからね! そんなんじゃこれからの激動の時代についていけないわよ! はい、もう一回やり直し!」

「おい牧野、そいつを思いっ切り高くぶん投げてくれ。オレの新技の『超妖精爆発』は範囲が広いからな、ここじゃこっちも巻き添えくっちまう」

「おお、俺もちょうど『ジャイロ妖精玉』って新技があるから任せとけ! 一瞬で遥か上空に放り投げられるからな! 気にせずぶっ放してくれよ!」

「ちょっ! 合格合格百億点満点! その明確な指示と見事な意思疎通、少しの文句の付け所も無いわ! だから爆発は勘弁して下さい!」


 マリーは俺に握り込まれた姿勢のままヘーコラヘーコラと頭を下げまくる。こいつは常に喋ってないと死んじゃう魔物なのか? 止まると死んじゃう回遊魚的な。


「全く、これだからマリーは連れて来たくなかったのに……おいマリー、今からでも村に帰って大人しくセツカに妖精汁でも絞られてろよ。そろそろ搾られる苦痛が快感に変わってきてるんじゃないのか? 笑わないから正直に言ってみ? ん?」

「どこの変態じゃゴラ! それに、ウネ子たちみたいな裏切り者がいる村になんかいられるわけないでしょ! ウネ子が寝てる隙にウネ子の頭に生えてる花の蜜をちょ~っと吸っただけであたしを簀巻きにしようとしたのよ!? 心が狭いったらありゃしないわ!」

「いや、それ完全にお前が悪いからな」


 さてはこいつ、村でひと悶着やらかして逃げ出してきやがったな。まぁ予想してた事ではあるが……村に報告しに帰るタスケさんとバトウさんに一緒に連れて帰ってもらおうかな……? いやでもちょうど羽虫キラーのサラもいる事だし、目の届く範囲にいさせた方がマシか。


「いいかマリー、仕方がないからお前の滞在を許す。でもおかしな真似を働いたらサラに即時浄化してもらって異界送りにするからな。胸に刻んでおけよ」

「最初から素直にそう言っときなさいよ! そう遠くない未来、あたしがすぐ近くに居た事を感謝する時がやってくるに違いないわ! 震えながらその時を待ちなさい! 以上、解散!」


 握った手を緩めると同時にマリーは素早く脱出し、ぴゅーっとどこかへ飛び去っていった。ああ、確かにそう遠くない未来、マリーが黒焦げの消し炭になる時がやってくるに違いないな……その時を心待ちにしてるわ。


「あ、相変わらずピーチクパーチクとうるせぇ羽虫だな……おい牧野、オレもあいつには目を光らせとくから安心しろよ」

「おお、よろしく頼むわ。んじゃ、俺はタスケさん達に村へ伝えてもらう内容の最終確認しに行くわ。あ、良かったらサラも打ち合わせに混ざるか?」

「ん、それじゃそうさせてもらおっかな」


 サラの返事を聞いた俺は壁から背を離し、「よし、じゃあ一緒についてきてくれ」とタスケさん達の待っている家の中へと戻って行った。

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