第46話 莱江山戦線異状あり

 性悪オヤジ貴族ヨーゼフの秘密施設破壊ミッションが成功してから早二週間ほど。莱江山の麓の村に戻った俺は、今日もハトちゃんの家の座敷でのんびりとしながら羊羹をつついていた。


「しっかしムツメのやつ、全然姿を見せないなぁ。一体どこにいるんだか……」


 羊羹を頬張り、口をもぐもぐさせながらぼやくように言うと、向かい合って座っているハトちゃんも羊羹を食べながら「そうですねぇ」と曖昧に頷いた。


「そろそろお顔を出されても良い頃ではあるんですが……」

「ライタの素行や評判を改善しても、肝心のムツメがいないんじゃなぁ……」

「まぁでも皆さんがこうしてまだ村に残って下さってるので、ここ最近はライタ様も随分と楽しそうですよ」

「う~ん、確かに今はいいんだけど……元々は『ムツメと仲直りする』って名目でライタを説得したわけだし、ムツメがずっとこう顔を出さないままだと、ライタが『言う通りにしてたのに仲直り出来なかった!』とか言い出して元の木阿弥になっちゃわないかが心配なんだよねえ……」


 潜入捜査も無事終わってのほほんとしてはいるものの「ムツメとライタの仲直り」という最終目的が達成されておらず、いまだにイマイチ気分がすっきり晴れない日々が続いているのだった。


 またブラブラとあちこち諸国漫遊でもしてるのか、それとも案外近くにいるのか……こっちから探しに行こうにも全く見当がつかんし……。あ、サイモンなら居場所に心当たりあるかもしれないな。もう数日様子を見て、それでも現れなかったら聞きに行ってみるか。


 そう決めて、切り分けた羊羹をまたひとつ口へ運んでいると、ふいに「長老おりますかー」という声と共に入口の引き戸が開かれて、村人の一人がひょこっと顔を覗かせた。


「あっ、おられましたか。ちょっと今いいですか?」

「おや、何かありましたか?」

「あ、ひょっとしてようやくムツメが戻って来たとか?」

「いえ、残念ながらムツメ様ではなく……その、別の客人です」


 別の客人? と疑問符を浮かべていると、その村人さんは首を引っ込めて、この村の住人とは違って西洋風の服装を身に着けた男性が土間に入って来た。その男性の顔にはどこか見覚えがあり――。


「あっ! あなたは確か……村に帰ったら家財道具が分配されてて、家が共同物置になってた……ええっと……」

「あ、どうもその節は……オフュルスです」

「そうそう、オフュルスさん! いや~、お久しぶりですね。あれからどうですか? 村の方々とギクシャクしたりしてないですか? あっ、ひょっとしてその事で何か相談でも?」

「ああ、村の方は全く問題無いですよ。皆、この前の事でちょっと負い目があるのか、村の仕事もいくらか免除してもらえて、むしろ最近はのんびりと出来てるくらいなんですよ。今日、こうして来たのは別の要件でして……」


 そこまで話したところで、オフュルスさんは少し気まずそうな表情になって言い淀んでしまった。その様子を見たハトちゃんが「とりあえずお座りになられては?」と勧め、オフュルスさんは「あ、これはどうも」と上がり口に腰を下ろし、ふう、と小さく息を漏らした。


「それで、要件と言いますと?」

「ええと、その……実は、都市の方から我々の村に先触れがありまして……近々、部隊を差し向けるから、その出迎えやらの準備を整えておくように、と……」

「はぁ……都市からの部隊ですか? 一体何のため……」


 と、喋っている途中、ふっと嫌な予感が頭をよぎった。小さく息を呑み、恐る恐る言葉を続ける。


「ま、まさか、その部隊って……」

「ええ……莱江山討伐部隊です……」

「や、やっぱりっ! あれっ、でも確か都市へ出向いた使いは呼び戻してもらったはずですよね?」

「はい、あの後すぐに別の者が呼び戻しに向かったんですが、都市に着いた時にはもう報告が済んだ所だったらしく……急に撤回するのも変な話だし、どうせ特に対応はされないだろうとの事でそのまま戻ってきたんだとか……」

「そ、そんな……」


 その報告が上に通っちゃった、って事か……となると、ひょっとしたら王都から手練れが派遣されてくるって可能性もあるのか……?


「本当に申し訳ないっ! 私を無事に村に返してもらった上、村の仕事の手伝いもしてもらったというのに、こんな事態になってしまって……」

「い、いや、オフュルスさんは悪くないですよ。元はといえばこちら側の蒔いた種なわけですし、急に撤回するのが変って判断も一理あるし……な、ハトちゃん?」

「ええ、こうして事前に知らせて貰えただけでも有難いですよ。これまでは襲撃がある事を前もって知らされるなんてありませんでしたしね」

「そ、そう言って頂けると、助かります……」


 オフュルスさんは肩の力を抜き、ほっと胸を撫で下ろした様子だった。オフュルスさん自身には落ち度は無いわけだし、今は過ぎた事よりも目の前に迫った討伐隊にどう対処するかを考えなきゃな。


「その出向いてくる討伐隊の詳しい情報って分かりますか? 何日後に来るとか、部隊の人数や内訳、編成だとか」

「日数はあと二十日ほどだと思います。先触れによると人数は百人くらいで、部隊の内訳とかまではちょっと私には分かりかねますね……都市にいる知り合いに聞けば、もう少し詳しい情報が手に入るかもしれません」

「その都市にいる知り合いとすぐに連絡取ってもらっても良いですか? 今後の対応にも関わってくると思いますんで」

「分かりました、これから村に戻って急いで手配しましょう」

「よろしくお願いします。あ、それ以外でもまた何か新しく分かった事があればなるべく早く知らせてもらえますか?」

「承知しました。では、また後日……」

「ええ、オフュルスさんも道中お気をつけて」


 家から出ていくオフュルスさんを座敷に座ったまま見送り、引き戸が閉まると同時に脱力しながら大きく息を吐いた。う~む、ヨーゼフの一件が片付いてのんびりしてたけど、こりゃまた慌ただしくなりそうだ……下手すりゃ王都の精鋭相手の可能性もあるし、ムツメもいないし……。


「……ハトちゃん、村の皆にもこの事を知らせてくれるか。あとセツカたちを見かけたらこの家に集まるよう伝えてくれ。今後の方針について緊急会合を開くから」

「ええ、分かりました」

「よし、俺も莱江山の方を見に行ってくるわ。たぶんライタと一緒に何人か山の中で遊んでるだろうからな。さて……これから忙しくなるぞ」


 俺とハトちゃんは一緒に立ち上がると、それぞれの目的を果たすために家から駆け出して行った。





 ハトちゃんの家の座敷に俺、ライタ、ハトちゃん、セツカ、マリー、京四郎、ハタケ、クロの計八人が集まって座り、会合の始まるその時を今か今かと待っていた。雑談する声で場がガヤガヤとする中、俺は「ごほんっ」とひとつ大きな咳払いをしてから口火を切った。


「え~、それではこれより『莱江山と近隣地域社会の今後の平和及び発展を考える会』の会合を始めたいと思います。本日の議題は『迫り来る討伐隊にどう対処するか?』です。意見のある方は挙手してから発言するようお願いいたします」


 俺の言葉を聞いたセツカとマリーは競い合うように「はいはいは~いッ!」と手を高くかざしてアピールし始めた。俺はそれをしっかと見据え、うんうんと力強く頷いてから再び口を開く。


「え~、ひとつ言い忘れておりましたが、セツカとマリーには発言権はありません! それではまずハタケさん、意見を……」

「おいゴラッ! どう考えてもおかしいでしょそれ! なんで古参のあたしらに発言権が無くて新参にはあるのよ!?」

「ほんとだよっ! 今は一致団結してこの難局を乗り越えなきゃいけない時でしょ!? 身内をないがしろにしてて外敵から身を守れると思ってるの!?」

「この難局を乗り越えるためにお前らのクッソくだらん戯言を聞いてるような暇は無いと言ってるんだが……」


 セツカとマリーはそれでも諦めず、俺の方へ身を乗り出しながら「独裁反対!」「挙国一致!」「横暴を許すな!」とギャンギャン騒ぎ立てた。こ、こいつらうるせえ……発言を許可しようがしまいが、どっちにしろ邪魔だったか……そもそも会議の場に呼んだのがミスだったか? でも放置したらもっとひどい事になるのは目に見えてるしな、仕方ねえか……。


「分かった分かった! 発言を許可するからちょっと大人しくしろ! はあ、やれやれ……じゃ、マリーから発言をどうぞ。無駄口叩くんじゃねーぞ」

「最初からそうやって素直にあたしの素晴らしい案に耳を傾けなさいよね! いいこと、耳の穴かっぽじって良く聞きなさい! あたしの案はね、超神聖妖精大王マリーの名の下に、討伐隊に対してすぐさま停戦してあたしの傘下に入るよう勅命を下――」

「はいゴミ。んじゃ次はセツカな」

「おいまだ話の途中だろがゴルァッ!」

「いや、流石シンタローだよっ! マリーのゴミカスみたいな案に貴重な時間を取られまいという咄嗟の見事な判断には文句のつけようがないよ……!」

「ちょっと、だれの案がゴミカスですって!? そこまで言うんならあんたの案はさぞや素晴らしいんでしょうね!?」

「当然だよっ! 私の案はね、まず部隊の指揮官だけを拉致してボッコボコに殴りまくって、『二度と討伐には来ません』って誓約書を無理矢理書かせ――」

「はい超ゴミ。んじゃ今度こそハタケな」

「ちょっとッ! 対応が雑すぎじゃない!? それでも議長なの!?」

「や~い、あたしにはゴミカスって言っておきながら自分は超ゴミカスじゃないノゲアアアァ――――――――――――――ッ!?」


 セツカは蚊のようにぶんぶんと鬱陶しく飛び回りながら煽るマリーを一撃で叩き落とすと、そのままぐるんと向き直って俺の方へこぶしの照準を合わせた。ロックオンされた俺は「ひぃっ!」と悲鳴を上げて慌てて後ずさる。


「お、おいこら議会を武力制圧すんなっ! これだから発言を認めたくなかったんだよ! 『今後の平和及び発展を考える会』って言っただろ! 未来に禍根を残すなっつってんだよっ! ま、全く……はい、それじゃあハタケ」

「いやあ、こう言っちゃなんですがセツカ姐さんは詰めが甘いっすね! 『禍根を残さない』ってのは隊長だけを始末するんじゃ足りないってことでしょ? すなわち、進軍中の部隊にあたいが奇襲をかけて全員の魔力を吸い尽くし、残った吸い殻は京四郎坊っちゃんに土の中深くに埋めてもらって、証拠を残さずに部隊丸ごと跡形も無く始末しろってことでしょうよ! どやっ!?」

「うん、『禍根を残さない』の意味を完全にはき違えてるよね? もちろん却下です。それじゃ次はクロさん、発言をどうぞ」

「そ、そんな……めちゃ自信あったのに……」

「ふん、ナマクラの想像力では所詮その程度が限界であろうな。部隊だけを始末してどうする? そもそも討伐の指示はどこから出ているのかを考えぬか。『禍根を残さない』とはつまり『王家を始末せよ』という事に決まっておろうが! ここはライタ殿に陽動として大暴れしてもらい、もっと多くの部隊をここへ引き寄せ、手薄になった王都に我らで奇襲をかけるというのが最善手よ!」

「はい却下です。ハタケと発想が大差無いからね」

「なっ、ナマクラと大差無い……!? そ、そんなまさか……!」


 意見をスパッと両断されたクロは「ガーン」という擬音が聞こえてきそうなほど驚愕の表情を浮かべ、座った格好のままプルプルと震え出してしまった。ハタケもクロも元々が武具と防具っていう戦いに関係した物なせいか、発想レベルが戦闘民族のそれだわ。敵を排除することしか頭に無いよね。


「おう、元気出しなよドス黒。あたいはそんなに悪かない案だと思ったぜ?」

「き、貴様が悪くないと思うという事は、発想が大差無いという事の何よりの証左であろうが……うう……」


 ハタケはしょんぼりと肩を落とすクロにやさしく声をかけ、元気付けるようにして背中をぽんぽんと叩いていた。ここ最近は皆一緒に山とかで遊んでばっかりだったからか、前よりもだいぶ打ち解けてきた様子だ。うんうん、やっぱり融和ってのは大事だよ。兜と剣の仲が悪いとか身に着けるどころじゃないしな。


「……あれ、そういやライタはさっきから全然挙手してないみたいだけど、どうかしたか? いつもならセツカとかにも負けない勢いで手を挙げてるとこだろ」

「ん? ああ、おれは昔のやり方しかわからないからな~。おれが眠ってる間、襲撃に対応してたのはムツメだし……ちょっとみんなの意見を参考にしてみよーと思ってなっ! でも強いていえばクロのやり方が面白そーだと思うぞ!」

「そ、そっか……うん、そのままちょっと皆の意見を吟味しててくれな」

「おう、ばっちりギンミするぞっ!」


 ライタは任せてくれと言わんばかりに右手でどんっと胸を叩く。まぁ、触らぬエルカさんに逆ギレ無しとも言うしな……こうして大人しく聞いてくれてるのが一番だわ。


「そうだハトちゃん、ムツメはこういう時にどういう対応してたんだ?」

「そうですね……確か、ムツメ様は討伐隊派遣の情報をつかんだら自ら討伐隊の方へ出向いて行き、適当に毎日奇襲したり待ち伏せしたりだのしてからかって遊んでいたらそのうち諦めて帰る、と仰ってましたね」

「なるほど、向こうさんが諦めて帰るまでからかうと……」


 出向いて行ってゲリラ戦するようなもんか。う~ん、被害を抑えるには良い手だけど、単身で動けて加減もちゃんと知ってるムツメだから出来た事だよなぁ。この世紀末脳筋軍団じゃちょっと厳しいかな……「狂気の沙汰ほど面白い……!」って素で思ってそうだし。


「なんかまどろっこしいねー。もっとこう『ボカッ!』とする方法はないの?」

「その擬音が既におかしいからな? それ明らかに殴ってるよね?」

「相手は遠出してくるわけですし、兵糧を奪って撤退させるというのは?」

「ああ、それも少し考えたんだけど……オフュルスさんの村に宿営の準備させてる辺り、現地調達も視野に入れてんじゃないかと思ってな。たとえ一時的に兵糧を奪っても、近隣の村々から徴収したり、最寄りの都市から送ってもらったり、下手したらこの村を襲う可能性も出てくるかなと」

「むっ、そんな事はおれがさせないぞ! 来たら返り討ちだっ!」

「ほ、ほら、そうなると正面衝突になっちゃうだろ? 確か、ライタが長いこと眠りにつくことになった原因も王家との戦いだったよな? また同じ過ちを繰り返す事になっちゃうぞ?」

「むむむっ、それは困るぞ……ムツメとも仲直り出来てないし……」


 興奮気味に身を乗り出したライタに諭すように言うと、ライタは顔をしかめながらもドカッと元の位置に座り直した。昔の軍隊は兵糧の現地調達も良くやってたみたいだし、日本の戦国時代の場合だとまず城下町を焼き払ったり、青田刈りで周辺の稲を刈り取ったりもしてたしなぁ。毛利元就みたいに敵が来る前に収穫を済ませて農民丸ごと城に籠城、なんてやれればいいんだが、城ねぇしな……。


 うう~ん、と腕組みしながら頭を悩ませていると、先ほどセツカに叩き落とされて床の上で伸びていたマリーがむくりと起き上がって「全く、しちめんどくさいわねぇ」と声を上げた。


「セツカの意見に賛同するのはすっごいシャクだけど、どっちみち被害が出るんなら指揮官だけシバいて誓約書なり書かすのが一番効率いいんじゃないの?」

「待て待て、安易な武力介入は良い結果を生まないってのは歴史が証明してんだからな。まぁ中途半端な対応が事態を悪化させた場合もあるけど……」

「はあ? 何よそれ、結局どっちなのよ?」

「よ、要するに状況に応じてって事だよ! もっとこう何ていうか建設的で未来志向というか、ババンバーンと恒久的な平和を築く方法を考えるのが肝要なんだ!」

「ちょっと何言ってるか分かんないわね」


 力強くそれっぽい事を言ってはみたものの、マリーは肩をすくめてお手上げのポーズを取っていた。だってしょうがねぇじゃん……下手に動いたら事態がこじれて王家と戦争突入の危険性がある、でも何もしなくても敵は迫って来る、なんて状況なわけだし……。


 やっぱりムツメみたいに適当にはぐらかして現状維持が一番なのかなぁ。この面子でゲリラ戦をやるとなると……莱江山か? 木々が生い茂って起伏に富んでるから身を隠しやすいし、この野生児たちにはうってつけだろう。ちょっと土魔法で手を加えれば山城っぽく要塞化出来そうな気もするしな。となると、相手をここまで引き付けないといけないから……。


「……よし、ティンときたぞ」

「あら、またなんか底意地の悪い奸計でも浮かんだの?」

「シンタローの考えって曲がりくねってるからね~。なんでもっとこう正面からドカーンと気持ち良くぶつかっていけないのかな?」

「おい好き勝手言ってんじゃねえぞ! いいか、答えは常に歴史にあり……昔、俺のいた世界に諸葛亮という内政の天才がいたんだよ。ある時、その諸葛亮のいた国の南方にある南蛮と呼ばれる地域が反乱を起こしたんだ。諸葛亮は南蛮を率いる孟獲を見事捕らえたものの、服従する意思を見せなかったから逃がしてやったんだよ。そしてまた捕らえたが、やはりまた逃がして……というのを計七回繰り返したんだ。何故だか分かるか?」

「一回で殺したらつまんないからでしょ?」

「ひでえ話だぜ、七度もいたぶって楽しむたあ……!」

「我が君のいた世界には恐ろしい御仁がおられたのですな……」

「どこのサイコパスじゃ! 諸葛亮大先生をお前らみたいな野蛮人と一緒にすんじゃねえ! 諸葛亮先生は頭目だけを始末してもいずれまた反旗を翻されると予期し、孟獲に力の差を思い知らせて自分に心服させることで南蛮の統治の安定をはかろうとしたんだよ!」


 俺の説明を聞いたセツカたちは「なーんだ、そっちか」とちょっとがっかりしたような顔をしていた。もうやだ、この脳筋軍団……。


「で、そのショカツリョウ先生とやらの話が一体どう関係してくるわけ?」

「ん、ああ……どうせだから、これまでみたいに対立関係をはぐらかし続けるんじゃなく、これを機にもう一歩踏み込んでいこうかと思ってな。ムツメと同じく奇襲作戦で相手をうんざりさせた後、講和を持ちかけてみようかと考えたんだ」

「ああ、それで先ほどの話をしたわけですか。具体的にはどのように?」

「まず、適当に理由をでっち上げてこっちから恭順を申し出る。ちょうどムツメもいないし、仲違いして莱江山を出て他所へ行ったとか嘘ついてな。ここで相手が納得して引き上げてくれそうならそれで解決だ」

「しかし我が君、王家は長年に渡ってライタ殿たちに辛酸を舐めさせられてきたわけですから、一戦交えなければ相手も引かないのでは?」

「長年苦しめられてきたからこそ『難敵を恭順させた』ってのは相手にとっても手柄になるだろ? この辺は向こうの指揮官の性格にもよるだろうからオフュルスさんの情報待ちだな。もし強硬な考えの超イケイケな指揮官で『テロリストとは一切交渉しない』って感じだったら、この村の住人ごと莱江山に避難して奇襲戦法を取るしかないな。そうじゃなかったら出来るだけ交渉しようと思う」


 そこで一旦言葉を区切ると、セツカが「う~ん」と怪訝そうな顔で首を傾げながら口を開いた。


「ムツメがいないのは確かだけど、ライタはこうしてここにいるじゃん? 目撃情報とかも掴まれてるかもよ? そうなったら誤魔化しようがなくない?」

「その場合は久々に目覚めたライタが山に籠って村人も困ってる、みたいな嘘でもついて山に誘い込んで奇襲だな。んで適当に相手を消耗させてから『お前らも中々やるやんけ!』『お前もな!』みたいな感じで友情を芽生えさせて和睦すれば問題無しだ」

「え~、そんな上手くいくかなぁ? そもそも、この村の人たちが嘘と分かってても『ムツメと仲違いした』とか『ライタに迷惑してる』なんて言えるの?」

「そ、そこがこの作戦の一番の難点ではあるかな……ライタとハトちゃん、一緒に村人を説得しに回ってくれる?」

「お? 良くわかんないけどおれはいいぞっ!」

「私も構いませんよ。確かに、嘘とは分かっていても『ムツメ様方と仲違いした』と言うのは心苦しいですが、マキノさんほど見事な神の尻を持つ方とライタ様が一緒になって説得すればきっと村の者たちも納得すると思いますよ」

「そーだ、村のみんな集めてシンタローが尻踊りでも披露してやったらどーだ? みんな見事な尻さばきにカンドーして何でも言うこと聞くと思うぞっ!」

「それだけは絶対に勘弁して下さい」


 即座にお断りすると、ライタは「ええっ! いい考えだと思うんだけどなー?」と不思議そうに小首を傾げていた。一方の俺はサイモンとトラブった時の悪夢を思い出し、ガタガタと震えが尻から全身へ広がり始めた。い、いくら人々を戦禍から救うためとはいえ、もうブリブリだけは二度と御免だぞ……!


「だ、旦那どうしたんですかい? すっげぇ震えてますけど……」

「まさか我が君、体調が悪いのでは? すぐに横になる準備を……!」

「あそっか、新参者のあんたらは知らないのね。ブフッ、あんたらも聞いたら爆笑間違いなしよ! 実はこいつが震えてるのはね――」

「おっとマリー危ないッ! 急な天候不良で自然発火現象が――――ッ!!」

「ギョワアア―――――――――――――――――――ッッ!!!!」


 余計な口を滑らせようとしたマリーに向かって指パッチンすると、マリーは即座に炎に包まれ、燃え盛りながら床に落下した。火事になったらいけないので続けてすぐに「アイスメイクッ!」と唱えると、マリーの体があっという間にカチコチの氷漬けとなる。


「室内の天候は変わりやすいって言うからなぁ。君たちも急な天候不良に襲われたくなかったら余計な口はきかないように。言う事を守れない子は処分しなきゃいけなくなっちゃうからね、いいね?」


 ハタケとクロの方へ向き直りつつ言うと、二人ともとても神妙な顔つきでコクコクと必死に頷いていた。うんうん、大変素直でよろしい。やっぱマリーみたいに心が汚れてないからな。二人には綺麗な心のままでいてもらわないと……。


「よし、それじゃ村の皆の説得に向かうとするか。ライタとハトちゃんも今からでも大丈夫?」

「え、ええ、大丈夫ですけど……その、すごく震えてらっしゃるみたいですが……本当に今からで大丈夫なんですか?」

「大丈夫大丈夫! これは武者震いってやつだから!」

「おーっ! その『ムシャブるい』って面白いな! おれもやるぞ!」

「おっ、ライタも中々上手だな! よし、このまま村へ繰り出すぞ!」


 俺の真似をしてプルプルと震えるライタを先頭にして、俺とライタとハトちゃんの三人は村人の説得へと繰り出して行った。

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