第43話 続・辺境の用心棒

「アズキバタケの旦那ー! カントレック様が『明日は遠出するからそのつもりでいろ』って言っとりましたー!」


 声がした方を振り返ると、屋敷に詰めているチンピラの一人がこちらに向かって歩いて来ていた。遠出……いよいよ噂の地下施設とやらへご案内か。


「分かった、そのつもりでいるとしよう」

「確かに伝えましたからね? 明日になって『聞いてない』とか言わんで下さいよ? 怒られるのは俺なんですから。ところで、ずっと気になっとったんですが……これは一体何しとるんですか?」


 近くに来たチンピラは不思議そうな顔をして辺りを見渡していた。その視線の先にあるのは、数日前には存在していなかった立派な土塁と水堀だ。ヨーゼフの屋敷をぐるっと取り囲むようにして俺が錬成したのだった。


「ああ、これは暇つぶし……もとい、屋敷の防御力を強化しようと思ってな。この土塁なんか中々良い出来だろ? このまま拡張して星形要塞風にでもしようかと思ってたけど、明日出かけるんならこの辺を仕上げたらお終いかな」

「はぁ……まぁその、程々にしといて下さいね? 俺たちへのカントレック様の八つ当たりがひどくなるんで……」

「ん、前向きに検討しとくよ」


 気の無い声で言うと、チンピラは「ほんとに頼みましたよ?」と不安げな様子で屋敷へ引き上げていった。チンピラの姿が見えなくなると同時に、魔剣モードのハタケが背中から『いやぁ、ついに明日ですね!』と嬉しそうな声を上げる。


「ああ、思ってたよりも早かったな。やっぱ高い日当が効いたのかねぇ」

『いやはや、あの業突く張りオヤジの鬱陶しい顔ともようやくオサラバってわけだ! 明日はあいつの首をスパーンとそりゃもう気持ち良~く両断して見せますからね! 旦那も期待しといて下さいよ!』

「いや首チョンパはしないからね? 魔物の救出と施設の破壊が目的だから」

『そうだぞ、愚か者め。我が君があの不心得者をそんなに楽に死なせると思うか? 魔物達を救出した後に施設ごと生き埋めにし、己の愚行を後悔させながらそれはもう苦しめて殺すに決まっておろうが』

『ああ? 愚かなのはてめえだろ! 旦那はあいつの生首を王都の上空に飛ばして都を恐怖のどん底に叩き落とすつもりに決まってるだろうが!』

「俺の残虐さで競い合うのやめてもらえる!? どっちもやらんからね!?」


 生首飛ばすってどこの平将門!? それ完全に王家への宣戦布告だから!


『しかし我が君、後顧の憂いを断つためにも奴の息の根を止めておいた方が良いのでは? 恐れながら、半端な処置は将来に禍根を残す事になるかと思うのですが』

『おっ、ドス黒野郎にしては良い事を言うじゃねえか! やっぱここはスパッとひと思いに斬っちゃいましょうよ! 首チョンパが駄目なら縦に真っ二つなんてどうです?』

『おい貴様、誰がドス黒だ誰が!』

「はい喧嘩しない! ええと……俺はなるべく強硬手段は取らない方向で行きたいと思ってるんだわ。俺自身が血生臭いのが苦手なのと、ヨーゼフの背後にどんな大物や組織やらが控えてるか分からないしね」


 手の込んだ秘密の施設を小物のヨーゼフが独力で造ったとは考えにくいし、実際、ゴールドウィン家とかいう大物貴族とのコネもあるみたいだしな。施設の破壊だけなら「秘密の違法施設が襲撃された」なんてお上に訴え出るわけにはいかないだろうから何とかなると思うんだけど、それに加えてヨーゼフが変死や失踪したってなると少々面倒な事になりそうだ。


「出来れば、圧倒的な力の差を心底思い知らせて、ヨーゼフが自分から手を引くような形にさせたいかな。面倒かけて悪いけど」

『面倒などと! 我が君の望みを叶えるのがそれがしの役目で御座いますゆえ』

『それが旦那の望みなら、あの性悪オヤジをとことん怖がらせて見せまさ!』

「そう言ってもらえると助かるよ。ただし、いつ不測の事態が起こらないとも限らないからね。油断せず、しっかりと気を引き締めるように。いいね?」

『へいっ! 分っかりやした!』

『ははっ! 心得ましてございます!』


 実に威勢の良い声が返ってくるが、逆に俺の心には不安が募った。この有り余った活力が暴走に繋がるっていう事を身に染みて知ってるからね……主にセツカとかのせいで……。


「……それじゃ、ここを完成させたら明日の打ち合わせでもしようか。色んな事態を想定しておきたいから、君たちも思いついた事があれば自由に意見を出していいからね」


 またしても『へいっ!』『ははっ!』とハタケとクロの元気な声が上がり、俺はくすぶる不安と共に、兜の下で小さな溜め息を漏らした。どうか明日、平穏無事に事が運びますように……。





 翌日、早朝。昇り始めたばかりの朝日の温かみと、朝特有の冷やりとした空気とを肌に感じながら、俺とヨーゼフ御一行様は屋敷を出発した。ヨーゼフたちは手綱や鐙をつけた小さな恐竜みたいな魔物に乗って隊列を組み、俺はそれに徒歩で同行している。


 正直、俺も魔物さんに乗りたかったんだけど、どうやら背負っているハタケが重すぎたらしく、乗っかったと同時に魔物が「ギュエエッ!」と苦し気な悲鳴を上げて倒れ込んでしまったのだった。なので、こうして泣く泣く徒歩というわけだ。後でどさくさに紛れて一匹連れて帰ろうかな……どうせバレないだろうし……。


 そんな事を考えて草原を歩きながら、ちらりと後方を見やる。目を凝らすと、遥か後ろの方にマリーが飛んでいるのが見えた。その更に後ろにはセツカたちもいるはずだ。よしよし、ちゃんと付いてきてるな。その調子で頼むぞ。


 視線を前に戻し、歩幅を調整してヨーゼフの横につける。それから魔物上のヨーゼフの方を見上げて「それにしても」と声をかけた。


「近隣で『悪雷』が幅を利かせているというのに、よく断行しましたな。私は金が貰えるので有難いですが、安全策を取って引き返しても良かったのでは? その間に討伐隊も派遣されるかもしれませんし」

「あん? 討伐隊なぞ当てに出来んわ。毎度毎度、騎士物語や講談で勘違いした輩が役目を買って出ては散々痛い目に合って追い返されとるだけではないか。それに、今回は中々珍しいのが手に入ったのでな」


 ヨーゼフが粘っこい下卑た笑みを浮かべる。「珍しいの」? ライタに襲われる危険を冒してでも出向くほどなのか?


「興味を惹かれますな。伺っても?」

「……まぁ良かろう。ふふふ……聞いて驚くがいい。なんと、今回は魔族を一匹捕らえておるのよ」

「ほほう……? 魔族ですか?」


 そういえば、この世界には魔族もいるんだったな。結界の中には入れないらしいし、今まで出会ったことは無いけど……逆に言えば、確かにそんなのを捕まえられるのは珍しい事なのかもしれない。


「おい貴様、何だその薄い反応は。大して驚いておらんではないか、つまらん」

「いやいや、兜してるから分かりにくいかもしれませんが、それはもうすんごい驚いてますよ。いやぁ、良く魔族なんて捕まえましたねぇ! こいつぁおったまげた!」

「わざとらしい気もするが……まぁいい。魔族どもが生息しとる場所はこの近辺には無いのだが、何故か若い魔族がこの辺を一匹でうろついておってな。貴様が無理矢理に追い出した前任者がそこを捕らえたというわけよ」

「ははぁ……あの逃げ足の達人の先生が、ですか」


 不運にも迷子かなんかになってたのを捕まっちゃったのかな。かわいそうに……待ってろよ、今しばらくの辛抱だ。すぐにこのイケてる謎の武芸の達人が助け出してやるからな……!


 決意を新たに歩き続けていると、やがて俺たちは草原を抜けて山岳地帯へと差し掛かった。辺りには岩なども転がっており、進むにつれて段々と勾配がきつくなってきている。だが、そんな険しい道のりをヨーゼフ一行はお構いなしに突き進んでいく。ふむ、こんなとこに隠してあるんじゃ闇雲に探してちゃとても見つからんだろうな。


 しばらくそのまま山道を進んでいたが、ふいに道が広くかつ平坦になったかと思うと、ちょっとした広場のような場所へと出た。そこで隊列が止まり、皆が魔物から降りて近くの木なんかに魔物をつなぎ止め始める。


「おや、もしかしてお昼休憩ですか? 確かに見晴らしが良いですからなぁ」

「馬鹿者、何をのんきな事を言っとる。ここが目的地だ」

「え、ここがですか?」


 ということは、ここに秘密施設があるのか。でも右手側には山々の景色が広がっているだけだし、左手側は切り立った岩壁があるだけ……おや? なんか、あそこの大岩の辺りから妙な感じがするような……。


「ひょっとして、アレですか?」

「……ほう、さんざ大口を叩いとるだけあって流石に分かるか。あの辺りには認識を阻害する術を施しておるのだが……まぁ大金を支払うのだから、あのくらいは看破してもらわんと逆に困るというものだがな」


 なるほど、あの辺からモヤモヤっとした感じを受けるのはその術のせいか。あそこら辺に秘密の施設に入るための何かしらの仕掛けがあるって事だな。


「ほれ、阿保みたいに突っ立っとらんでさっさとあの岩を横に退かさんか」

「えっ、私がやるんですか? 一人で?」

「いつもなら数人がかりで退かすんだが、貴様ならそのくらいは簡単に出来るんだろう? なんせあれだけの大見得を切ったんだからな」

「そりゃ出来ますけどね……達人使いが荒いなぁ」


 ぶつぶつと文句を漏らしながら岩に近づいていく。この岩の裏に入口隠してんのかな。意外と単純だけど……こんな人気のない山の中腹で、カモフラージュしてある上に見つけにくくする術までかけてあるんじゃ余程のことがないと見つからんか。


「さてと、それじゃご要望通り退かしますよ……っと」


 少し腰を落とし、両腕にぐっと力を込めて岩を押し出すようにすると、ズズズズ、と引きずるような音を立てて岩が動いていく。すると、岩で隠れていた場所から洞窟の入口が姿を現した。洞窟内の壁や天井には人の手によって広げられたような痕跡が見て取れる。地下施設というより、山をくり抜いて作ったゲリラの拠点みたいな感じだな。


「おお、洞窟探検ですか。いやあ、これはわくわくしてきましたなぁ!」

「何を言っとる。貴様にはここに残ってもらうぞ」

「えっ! そんな殺生な……私だけ留守番ですか?」

「何のためにわざわざ貴様を雇ったと思っとるんだ? 襲撃者に備えるためだろうが! 周囲をしばらく見回った後、この入口を守っておれ。連絡役としてもう一人残していくから、何か異常を見つけたらそいつに言付けろ」

「ええ~っ、私も中の様子を拝見したいんですけど……」

「全く、文句の多い奴だ……では、しばらくして異常が無ければ交代の者を寄越すから、それまでは我慢して警備しておれ。それでいいな?」

「ふむ……そういう事でしたらここは我慢するとしましょう」


 俺の返事を聞いたヨーゼフはうんざりしたような顔をしてから「おい、お前も残っていろ」と近くのチンピラの一人に指示を出した。そして残りのメンバー全員を引き連れて洞窟の奥へと向かう。


 ヨーゼフたちの姿が洞窟の中に消えていくのをその場から眺めていると、背中のハタケが小声で『旦那、いよいよですね』と言った。やや離れた場所にいるチンピラをちらりと見てから、俺も「ああ」と返事をする。


「どうだクロ、中に魔物がいる感じはするか?」

『はっ、どうやら十匹ほど捕まっておるようです』

「その内のどれが魔族かは分かる?」

『いえ、そこまでは……申し訳ありませぬ……』

「いや、どうせ救出するんだし問題無いよ。試しに聞いてみただけだから。それじゃハタケ、想定その三、『つぶあん、つぶ抜きで』作戦を開始するぞ」

『へいっ』


 魔剣モードのハタケをそっと壁に立てかけ、それから「う~ん、それにしても良い景色だなぁ」と伸びをしつつ広場の見晴らしが良い側へと足を進める。そのまま視線を遠くへ投げ出していると、背後から「あれ?」とチンピラの声が上がった。


「アズキバタケの旦那、背中のバカでかい剣はどうしたんですかい?」

「ああ、ずっと背負ってると肩がこるからな、ちょっと外した。それよりもお前、知ってるか? こういう天気の良い日にはな……アレが出るんだよ」

「アレが出る? 何の話です?」

「馬鹿、出るって言ったらお化けしかないだろ? その名も『マリーさん』だ」

「お、おばけ? マリーさん?」


 俺はきょとんとした様子のチンピラの方へ近づいてズイッと身を乗り出し、ひそひそ話をするような体勢になって「ああそうだ、お化けだよ」と会話を続けた。


「これは、俺の知り合いの知り合いから聞いた話なんだがな……ある所に、マリーさんという性根が腐った妖精が一匹いたんだそうな。なんせ性根が腐ってるからな、皆に嫌われてしまい、誰からも相手をされなくなっていたんだよ。ところがマリーさんは皆にどうしても構ってほしくて、ある日、周りの人間に対して唾を吐きかけたんだ」

「はぁ……ツバを……」

「すると当然、周りの人間はびっくりして逃げまどうだろ? それまで無視され続けていたマリーさんは反応してもらえるのが楽しくて、毎日毎日、そこら中に唾を吐きかけるようになったんだ。ところが、ある日……マリーさんは唾の吐きすぎで脱水症状を起こしてしまい、そのまま帰らぬ妖精となってしまったんだ……」

「そ、そりゃひでぇ話ですね……」

「しかし、話はそこで終わらないんだよ。マリーさんはあろうことか『自分がこんな事になったのは周りの奴らが悪い』と責任転嫁し、大人しく成仏出来ずに怨霊になってしまったんだ。なんせ性根が腐りきってるからな。そして、こんな風に天気の良い日は、どこからともなく声が聞こえてくるんだ……誰か、誰か~……喉が、喉が渇くぅ~……」


 芝居がかった声と仕草で、さらにぐっと身を近づける。チンピラも息を呑み、俺の話に聞き入るように前傾姿勢になった。


「そして、背後からその声が聞こえたかと思うと、白くて冷たい手がすうっと伸びてくるのさ……誰か……誰か――」

「あたいに構ってくれえってなッ!!!」

「んぐえっ!?」


 瞬間、チンピラの首と口元にぐるりと手が絡みついた。人間モードのハタケが後ろから襲い掛かったのだ。チンピラの目が恐怖と動揺でカッと見開き、手を振りほどこうと「もがもががっ!!」と激しく抵抗する。だがハタケの手はぴったりとくっ付いたまま微動だにしない。


 すると程なくしてチンピラの目が虚ろになり始め、抵抗が弱くなっていったかと思うと、そのまま地面にふにゃふにゃとへたり込んでしまった。ようやくハタケが手を離し、それと同時にチンピラはどさりと倒れ込む。白目を剥き、すっかり気を失っているようだ。


「けっ、もう底を突きやがった。しょっぺえ魔力だ、腹の足しにもなりゃしねぇ」

「上手くいったけど……これ、ちゃんと息はあるんだよね?」

「ええ、言われた通りちゃんと加減しましたよ! あとほんの少しでも吸ったら死にますけど、どうします?」

「ギ、ギリギリなんだね……しばらく動けないだろうし、この人はこのまま放置でいいよ。それじゃ邪魔者も排除出来たところで、そろそろマリーたちを呼ぶか」


 さっと辺りに視線を巡らせて人気が無いのを確認してから、右手を真上に突き出し、「ほっ」と小さな魔力エネルギー弾を上空にひとつ放出した。信号弾の代わりで、これが「準備OK」の合図だ。


 少しすると、俺たちが登って来た山道からマリーが姿を見せ、更にその後ろからセツカ、ライタ、ゴーレムに乗った京四郎、ハトちゃんの四人が続々と現れた。それを見たハタケが「おおーい、こっちですよーっ!」と皆に向かって手招きをする。マリーの連絡に加えて、ちょっと前に莱江山へ一度帰省もしたので、ハタケとクロが喋ったり人型になったりする事は全員すでに承知だ。


「どもども皆さんお揃いで! 数日ぶりですね!」

「おっ、相変わらずハタケちゃんは元気があって大変よろしいねっ! そだ、中々景色も良いし、今からここで軽く手合わせでもしよっか?」

「ちょ、今からですか? セツカ姐さんマジぱねぇっす!」

「おい、そんなのは後にしろや後に! 今は先にやる事があんだろ!」


 ったく、何をノンキなこと言ってんだこいつは……顔を合わせるなりこれだよ。どうもセツカとハタケはウマが合うらしく、初顔合わせした時も今みたいに二人で適当なことを喋って盛り上がっていたのだった。


 やれやれ、と肩を落としていると、マリーが妙にキョロキョロしながらブ~ンとこちらへ近づいてきた。なんだ、いつもにも増して挙動不審だな。


「ちょっとあんた、前金として貰ったはずの三十万マルセルはどこにあんのよ。見当たらないんだけど?」

「前金? ああ、あれなら小屋に置いてきたけど」

「はあ? あんた馬鹿なの? なんであたしの大金を置いてくるわけ?」

「いや、お前の金じゃないけどな……量が多いからかさばって邪魔だし、わざわざこんなとこにまで持ってくるのは明らかに不自然だろ」

「はぁ~……ちょっと目を離すとすぐこれなんだから。知恵を絞ってそこをなんとかするのがあんたの仕事でしょ? 一体いつになったら学習するわけ? その頭は飾りなの? この失態はきっちり記録しておきますからね! 魔物の救出が終わったらすぐに前金の回収に行くように! いいわね!」

「おいハタケ、マリーの魔力吸い取っていいぞ。なんなら限界突破しても構わん」

「マジですか!? いやあ、マリー姐さんの魔力って味はちょいと悪そうだけど量は結構多いから嬉しいなぁ!」

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! あんた仲間のあたしに牙を剥く気!? この前あたしのことを尊敬してるって言ってたのは嘘だったわけ!?」

「いや、尊敬してるのは本当なんですけど、あたいには旦那の命令が最優先なんで……それじゃゴチになりまぁ~すっ!」

「ひイイイイ――――――――――――――――――――――ッ!!!」


 途端、マリーは悲鳴と共に猛烈に逃げ始め、ハタケがその後ろをダッシュで追いかける壮絶な追いかけっこが広場で開始される。やれやれ、これでお邪魔虫はいなくなったな。今のうちに最終確認しとくか。


「よし、皆聞いてくれ。洞窟内の構造は良く分からないんだが、クロによると中には十匹ほどの魔物がいるらしい。それにどうやら魔族も捕まってるみたいなんだわ。まぁ、結局まとめて救出するから内訳は別にどうでもいいんだが……予定通り、ライタはこの辺で待機。俺がヨーゼフたちと出てきたら出番だからな」

「おうっ、ここでドーンと待ってるぞ!」

「うん、頼んだぞ。それと、チンピラたちとの会話から仕入れた情報によると、決闘のための下準備はチンピラたちが全部やって、ヨーゼフは闘技場みたいなとこで準備が整うのを待ってるらしいんだわ。だからまずこっそりとチンピラを処理しつつ魔物を全部逃がして、その後で俺がヨーゼフを洞窟の外へとおびき出すからな。動き理解した? 特にセツカ」

「ちょっとなんで私だけ名指しなの!? それ差別だよ!!」

「いやだってお前、魔族とか見つけたらその場で戦いを挑みかねんしな……」

「失礼な、私にも選ぶ権利っていうものがあるんだからね! 雑魚だったら別に戦いは挑まないよっ!」

「雑魚じゃなかったら挑むつもりなのか!? 絶対にやるなよ! 絶対だぞ!」


 語気を強めて釘を刺すと、セツカは「分かったってばっ」と不満げに頬を膨らませた。俺たちは魔物救出に来たんであって、強襲に来たんじゃないっつーの。


「全く……んで、ハトちゃんと京四郎には魔物たちとの意思疎通及び洞窟外への誘導を頼むわ。動けなさそうな魔物がいたら京四郎にゴーレム作ってもらって、それで外まで運んでもらうからな……おーいっ! お前らも追いかけっこはその辺にしてそろそろ戻ってこーい!」

「へーいっ!」


 声をかけると、マリーを手にしっかと握り込んだハタケが駆け足でこちらに戻って来た。マリーはハタケの手の中で白目を剥き、舌をでろんと垂らすという凄まじいマヌケ面をしてぐったりとしている。必死の逃亡もむなしく、だいぶ魔力を吸い取られちゃったみたいだな。静かになってちょうどいいわ。


「あ、マリーはそこで寝転がってるチンピラの上にでも乗っけといてくれ。ほっときゃそのうち回復すんだろ……さて、そろそろ洞窟に入るとするか。クロ、魔物たちの気配がする場所への誘導は頼んだぞ」

『はっ、お任せ下さい』

「よし、それじゃ出発進行だ!」


 宣言すると同時に、俺は先頭を切って洞窟の中へと大きく踏み込んでいった。

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