第22話 エルンスト・エルカリアに進路を取れ

 マリーがミイラのようになるまで妖精汁を搾り取った後、ウネ子たちとの別れを惜しみつつも森から抜け、俺たちは今度こそエルンスト・エルカリアを目指して野を駆けていた。


 そのまましばらく草原を走っていると、ふいに綺麗に均された感じの道が前方に現れた。その道の両脇には腰かけられそうな大きさの石が一つずつ置かれている。どうやら人為的に置いた物のようだ。


 先導するセツカがその石の置かれている辺りで足を止めたので、俺もそこで立ち止まり、セツカに疑問をぶつけた。


「なぁ、急に道が綺麗になったけど、この辺からが人の生活圏って感じなのか?」

「そそっ。ほら、あっちの方にも一定間隔で石が置かれてるのが見えるでしょ? この石が置かれてる辺りが結界の境目になってて、その目印として石が置かれてるんだよっ」


 セツカが指差した方へ目をやると、確かに原っぱの中に点々と石が置かれていた。なるほど、このラインからは迂闊に出るなよってことか。なんか海開きした時に浮かべられるブイみたいだな。


「マリーとキョウシローがいるから一応立ち止まってみたんだけど……どう、入れそう?」


 セツカはそう尋ねながら、石が示している境界線を越え、綺麗に均された道の方へと歩みを進めた。俺は背負っている京四郎を降ろしてやり、「いいか京四郎、少しでも変な感じがしたらすぐに言うんだぞ? 変に我慢しちゃ駄目だからな?」と語りかけつつ、その小さな手を握って一緒にゆっくりと歩みを進めた。


 京四郎に注意深く目をやりながら、一歩ずつ足を動かし――やがて、二人して石のラインを越えた。そのまま均された道の上をトコトコと何歩か歩いてから、俺はふうっと息をついた。


「よし、これで京四郎は神様公認ってことだなっ。まぁ京四郎は乱れた異世界にバランスをもたらす選ばれし魔物なんだから、当然というか、分かり切ってたことではあるけども、こうして目に見える形で分かると嬉しいもんだな! 地の利を得たぞ! 街についたら一緒にお祝いでもしような~京四郎!」


 がしがしと京四郎の頭を撫でてやっていると、何故か胸ポケットからカサカサになったマリーもごそりと顔を出し、口を開いた。


「ゴホッ……てことは、ゼェッ、こ、これであたしも神様公認ってことね……待ってなさい、エルンストの住民たちよ……! こ、この超神聖妖精大王マリー様が、迷えるあなた達を導くために、苦難を乗り越え、今、会いに行きます……ガハッ!」


 マリーはそこまで言うと、カクンと気を失ったかのように脱力した。こいつ、あんな酷い目にあったのにまだ反省してねーのか。流石は小物界の首領ドンだな。


 俺はマリーをこの場に遺棄するか迷ったが、こいつを結界内に解き放つ方がとんでもないことになりそうなので仕方なく諦めた。俺の運命という路上に転がる犬のフンみたいに邪魔な奴だわ……。


「よ~し、もうここまで来たら、後はこの道を真っ直ぐ進んでいけばエルンストに着くよっ。それじゃあ、再度しゅっぱーつ!」


 元気の良い掛け声と共にセツカは再び走り始め、俺も京四郎をまた背負ってそれに続いた。結構綺麗に均されてるからか、草原よりもだいぶ走りやすいな。寄り道してちょっと遅くなったけど、この分なら明るいうちに街へ辿りつけるんじゃないか。


 そんな事を考えながら辺りの風景に目をやっていると、遠くの方に黄金色の麦畑のようなものが見えた。あれがウォルシュだかカルネだかって穀物なのかな、と思っていると、セツカが少し速度を落として俺の横に付き、口を開いた。


「ほら、あれがカルネの畑だよっ。そのまま煮込んで食べたり、製粉してから色々と加工して食べたりするんだよー」


 セツカの説明を聞き「へぇ~」と感心した声を漏らしていると、畑から離れた草むらの中で、何やらズモッと存在感のある物体がもぞもぞしているのが目に入った。おやっと思い良く見てみると、それはコモドオオトカゲを一回り大きくしたような生物で、頭の所にちょこんと小さな角が生えており、草をもぐもぐと頬張っていた。


「うおっ、あれって魔物じゃないのか? いやでも結界内にいるってことは、魔物とは別の生き物って事になるのか?」

「ん? ああ、あれはラオールだね。畑を耕す時、あいつらにすきを引かせたりするんだよっ。ええっと、確か……元々は野生の魔物だったらしいんだけど、温厚な気性で、かなり昔から人間と一緒に暮らしてる、とかだったかな?」


 そうか、家畜向きな魔物を飼って牛とか馬みたいな利用の仕方をしてるってことか。昔から共存してるから結界内でもセーフってことなのかな?


 俺が背中の京四郎に「ほら、京四郎も見えるか? ラオールさんが草食べてるぞ~」と声をかけていると、マリーが「ふんっ」と不満げに鼻を一つ鳴らした。


「安定した生活と引き換えに、げほっ、魔物としての誇りを捨てるとは……あんな奴ら、魔物の面汚しよっ! ゴホォッ!」

「いや、あいつらもお前にだけは言われたくないと思うぞ……」


 俺は呆れながら言葉を漏らした。ウネ子たちの果実を横取りして森を追い出され、あろうことかそれを逆恨みして、俺やセツカを復讐に利用しようとしてたんだからな……なんていうか、生ける者としての最低限の尊厳ってもんを持って欲しいもんだわ。


「てかセツカ、お前って意外と博識なんだな。お前の事だから『あんな糞雑魚でゴミ屑みたいな木っ端魔物には全く興味ないから知らないんだよぉ~ん』とか言い出すかと思ったんだが」

「ちょっと、今のって私の真似!? シンタローの私への印象ひどくない!?」

「まっ、待て! 走りながら襲い掛かろうとするな! こけたら京四郎が怪我しちゃうだろ! 危ないからやめて! どうどう!」


 そうやってセツカをなだめながら少し距離を取ると、セツカは「もうっ!」と怒気を含んだ声を漏らしつつも言葉を続けた。


「えっと……今みたいに巡礼に出る前、殴道宗の総本山で修行の身だった頃に色々と習ったんだよね。最高の殴り愛を遂行するためには、学問やその他あらゆる事も自分一人で出来なきゃいけない、って言うのが殴道宗の考えだからねっ!」


 セツカが爛々と目を輝かせながら力説するが、俺は「そ、そうですか……」と微妙な反応しか出来なかった。勉強してたり仕立てが出来たりと、結構能力はあるのに、それらが全て殴り愛のためと考えるとな……これがいわゆる才能の無駄遣いって奴か。


「……その目、また失礼な事を考えてる目だね……?」


 横並びで走っているセツカが俺の事をぎろりと睨みつけ、俺は思わずびくっと体を震わせた。や、やべえ、この前は別に大丈夫だったのに、こいつ学習してやがるッ!


「ほ、ほらっ、ちんたらしてると日が暮れるぞッ! もっと飛ばそうぜ! 目指せ、スピードの向こう側の領域ッ! ダウンフォースだ!」

「あっ! ちょっと! すぴーどとかだうんうんちゃかって何!?」


 俺は地面を強く蹴り、セツカから逃げるようにして猛烈に道を駆け抜けていった。




 結構なスピードで飛ばすことしばらく、俺たちはついに目的のエルンスト・エルカリアの城壁外にまで辿り着いたのだった。


 ここまで来ると道を行き交う人の量も結構増えているのだが、人々が例外なく俺の事をじろじろと眺めては通り過ぎていくので、幾分か気恥ずかしさを覚えていた。周りは着丈長めのチュニックみたいなのとかマントっぽいのを羽織ってる人ばかりの中、俺は白シャツとスラックスだもんなぁ……中に入ったら服を買って早速装備していくのも良いかもしれんな。売ってるか分からんけど。


 俺は恥ずかしさに耐えながら、城門につながる大きな石橋の手前に立ち、都市をぐるりと囲んでいる城壁を見渡した。城壁に沿うように設けられた堀には、近くの川から水を引いてきているのか緩やかに水が流れている。


「おお~。こうして近くで見てみると、街の広さが良く分かるなあ。どうだ、京四郎も良く見えるか?」


 肩車している京四郎の方へ声をかけてみると、きょろきょろと城壁を眺めている気配が肩から伝わって来た。ふふ、興味津々みたいだな。俺は日本の城郭の方が好みだけど、都市城壁も実際に目の当たりにすると重厚感があって中々悪くないな。


「でも横にはかなり長いけど、高さは思ったより無いもんなんだな……楼門は立派だけど、矢狭間とか石落としも見当たらないし……こんなんじゃ簡単に『甘寧一番乗り!』出来ちゃうんじゃ……あ、魔法がある世界だからそもそも矢とかはあんまり使わないってことなのかな……」


 城壁を観察しながらぶつぶつ呟いていると、だいぶ血色の良くなったマリーが「出た出た! 建築偏愛趣味!」と煽ってきたので堀の中に投げ込んでやろうかと思っていると、セツカが「ああ、それはね」と口を開いた。


「城壁が低いのは、エルンストが比較的最近に作られた都市だからだよっ」

「最近? 新しく作るなら、景気良くでっかいのを作りそうなもんだけど……」

「えっと、王家が父神オルディグナス様の加護を得て以来、王家は各都市に結界を施すと共に人間同士の争いを固く禁じたんだよね。結界のおかげで人間の生活圏が広がったんだけど、逆らうとその結界を張ってもらえなくなっちゃうから、どの都市もそれに従ったってわけ。でも結界が魔物や魔族を締め出してくれて、人間同士の争いも禁止されたとなると、戦は起こらなくなるわけじゃん?」

「あっ、それで城壁の必要性が薄くなったってことか?」

「そそっ! 古い城や都市の城壁は結構立派なのもあるんだけどね、クレメンタイン地方は新しく開墾された土地だから、この辺にある都市の城壁はどれも利便性を優先して横には広大だけど高さは低く、城門も出入りしやすいように大きく造られてあるんだよっ」


 説明を聞き、俺は「なるほどな」と言葉を漏らした。争いが起きないんなら城壁全廃でもいいんじゃないかとも思ったが、流石にそこまでは割り切れなかったってことかな。


「それじゃあ、いよいよ街へ入りたいと思いまーす」


 セツカはそう言って石橋の上を進み始め、俺も京四郎を肩車したまま、そのすぐ後ろに続いた。前の方を見てみると、大きな城門の両脇に衛兵らしき人が一人ずつ立っており、俺はふと疑問がわいてセツカに声をかけた。


「なぁ、そういえば結界を通過出来たからすっかり安心してたけど、都市内に魔物って連れ込んでもいいわけ? まさか、そこの門番さんに捕まったりしないよな?」

「ん、たとえ魔物でも結界内に入れてる時点で害は無いって認識だから、全然大丈夫だよー」

「おお、なら安心だ。あっ、でもやっぱマリーだけ堀に沈めていった方が良いかもな……こいつが街中で暴れまわったら『結界を通過した魔物とはいえ安心出来ない』って事になって、他の温厚な魔物さんたちに迷惑かかっちゃうかもしれんし」

「ゴルァ! 失礼なこと言ってんじゃないわよ! お望み通りそこの門番に妖精汁ぶっかけてあんたも道連れにしたろか!」

「おう、やれるもんならやってみろ! 即座にお前を氷漬けにしてそのままウネ子たちの所へまた送り届けてやるからな!」

「はいはい、周りの人が『何事だ?』って目で見てるからねー。すみません、この人たち結界の外で闇魔法に頭をやられちゃって、教会に治療してもらいに行くところなんでー。ご迷惑おかけしますー」


 セツカが周囲の人にそう説明すると、「ああ、気の毒に……」「今日日、闇魔法にやられるとは……」「お大事にね」と方々から声が上がった。それを聞いたマリーはサッとポケットに身を隠し、俺だけが憐れむ視線に晒される羽目になってしまった。くそ、マリーのやつ、後で覚えてろよ……。


 身を縮ませながら石橋を渡りきり城門へと差しかかると、門番の一人が顔をこちらに向けるのが見え、俺はさりげなくセツカの背後に隠れた。やべえ、なんかこっちに近づいてきてる気がするぞ、とドキドキしていると、門番は「これはセツカさん、もうお帰りですか」とセツカに声をかけた。なんだセツカの知り合いかよ、おどかしやがって……自意識過剰な人みたいになっちゃったじゃん。


「思ったよりも早い帰還ですね。ドラゴンは見つかりましたか?」

「うん、ばっちり見つけて殴り愛もして来たよ! そのあと仲良くなって、皆で宴会もして楽しかったな~!」


 さらっと言ってのけるセツカに、門番は冗談とでも思ったのか「ハッハッハ、それは何よりですな!」と軽く笑って返事をした。残念な事に本当なんです、などとセツカの背後で考えていると、門番は俺と京四郎をチラ見し、「後ろの方々は初めて見る顔ですが、セツカさんのお仲間ですかな?」と尋ねてきた。


「うん、そうそう。私以外はこの街は初めてだから、案内してあげようと思ってね」

「なるほど。エルンストは綺麗で良い街ですし、感謝祭も近くて多くの人で賑わってますから、どうぞじっくりと街を眺めていって下さいね」


 予想していたよりも丁寧な言葉に、俺は「あ、これはどうも御親切に……」とペコッと頭を下げた。争いが無くなって久しいからなのか、かなりフレンドリーな感じだな。


「あ、そうだ、船乗りギルドと運送ギルドの親方が今度の護衛の件でセツカさんと話がしたいから、戻ったら連絡して欲しいって言ってましたよ。あと確か、林業ギルドの親方も結界外の森林を視察するのに護衛を頼みたいとか」

「ほいほい、了解。言伝ありがとうねー」


 セツカは門番にひらひらと手を振りながら歩き始め、俺はまた軽く頭を下げてからセツカに続いた。まさかこいつが世の中のために自分の力を使ってるとは驚きだな。


 俺の視線を感じ取ったのか、セツカがくるっと振り返りながら喋りかけてきた。


「おっ? そんな顔してどしたの? あっ、私が顔広くてびっくりしちゃった? ふふん、こう見えて、結構お偉いさんとの伝手も多いんだよっ!」

「ああ、驚いたぞ。まさか腕力に物を言わせて街中の有力者の弱みを握って……ま、待て待て! ほんの冗談だから! ほら、もうそこから街の中なんだからお前も騒ぎは起こしたくないだろ!」


 俺の的確な説得により、セツカは振り上げたこぶしをすっと降ろした。ふう、こりゃいいな。知り合いがいる分、こいつも人目を気にせざるを得ないだろうしな。


 今後もこの手でいこうかなと思っていると、セツカが「……夜道には気を付けなよ、シンタロー」と呟くのが聞こえ、俺は恐怖で全身が凍りついた。いやこれは都市初心者の俺にアドバイスしてくれただけなんだそうだそうに違いない、と必死に自分に言い聞かせ、俺は何とかぶっ倒れずにその場で踏ん張った。夜は絶対に出歩かないでおこ。


 気を取り直して城門から抜けると、眼前には石畳が綺麗に敷き詰められた大きな通りが広がっており、その通りを挟む形で、左右に四階建てくらいの石造りの建物が整然と立ち並んでいた。門番の言っていた通り、感謝祭が近いせいなのか結構な人通りで辺りは賑やかだ。


 想像していたよりもかなり立派な街並みで、俺は思わず「ほわあ~」と感嘆の声を上げた。京四郎も興奮しているのか、肩の上で一層と体をもぞもぞとさせているのが伝わってくる。


「ふ~ん、これがエルンストねぇ……まっ、ぼちぼちって感じかしら? あたしの仮の住処としては及第点って所かしらね。でも心配はいらないわよ! この超妖精大王神マリー様が、責任を持ってこの街をこの世の楽園へと育て上げてみせるからね!」


 すっかりミイラ状態から回復してしまったマリーが、胸ポケットからいつもの調子でベラベラと雑音を垂れ流した。都市の中を訪れるのは初めてのくせに「ぼちぼち」なんて良く言えたもんだな、と呆れていると、機嫌を直したらしいセツカも口を開いた。


「ふっふっふ、どうどう? 神の眷属から見ても、中々の街並みでしょ? エルンストはクレメンタイン地方の中でも一二を争う規模の都市なんだよっ」

「ああ、俺の想像だと城壁に囲まれた都市ってもっとこう道も狭くて、ゴミとかもいっぱい落ちてて汚いもんなんだろうって思ってたんだが、ここは本当に立派だな……」

「クレメンタイン地方は豊穣の神であるエルカ・リリカ様の人気が高いだけあって、大地の女神シルヴィナス様を信奉してるシェーン地方に次いで土魔法の使い手が多いんだよねぇ。これだけ石畳が綺麗に整備されてるのはクレメンタイン地方の都市ならではなんだよっ。それに後から作られた都市だから、建物も計画的に配置されてて景観も中々良いでしょ? それと、ゴミに関しては……マリー、ちょっと道端に妖精汁飛ばしてみてくれる?」


 セツカの言葉を聞いたマリーは「お? やっていいんならやるわよ? エルンスト踏破記念の妖精汁いくわよーっ! はああ! ペッ!」と、俺の胸ポケットから気合いのこもった妖精汁を道端へ放った。


「おいおい、折角綺麗な町なのに……あ、ゴミ捨てたら罰金科されるとか?」

「罰金じゃないんだなー。シンタローなら、観察してたら見えるはずだよ」


 俺なら見えるはず? と疑問に思いながら、マリーの吐き出した妖精汁をじっと見つめていると――突如、何もない空間から小人のようなものが出現し、妖精汁を拭き取り始めた。


「うおっ! な、なんか小さいのが現われたんだけど!」

「それね、カーリー・ガリー魔法博士が発明した人工の妖精なんだ。街の小さなゴミをそうやってさり気なく回収していってくれるんだよね」

「へええ、そりゃ便利だなあ。俺、妖精なんて生まれて初めて見たよ! 京四郎も見えたか? すごいなあ、感動だなあ!」

「おい当てつけかゴルァ! ここに妖精界の至宝こと、革命児マリー様がいるでしょうが! けっ、何が人工妖精よ! 全部回収できるもんなら回収してみなさいよ! ペペッペッペペッ! ペペッペッペペッ!」


 ムキになったマリーがあちこちに妖精汁を飛ばし始めるが、複数の人工妖精が同時に出現し、妖精汁を全て綺麗に拭き取っていった。ほう、マリーよりよっぽど勤勉で優秀じゃないか。


「ああ~あ、そんなに一度に吐き出したら……まぁ、いいか。マリーだし」


 せっせと妖精汁を飛ばしているマリーを見たセツカが、何やら意味深な言葉を漏らした。「どういう事?」と尋ねてみたが、セツカは「まぁ、そのうち分かるよ」とだけ答えた。一体何だというんだろうか。


「よし、それじゃあ教会へ行こっか。私がいつも借りてる巡礼者用の宿舎があるから、そこにシンタロー達も泊めてもらえるように神父様に頼んでみるよ」

「おっ、悪いな、よろしく頼むよ。ほれ、マリーも勝ち目のない戦いはその辺でやめろ。人工妖精さんの無駄遣いだから」


 ゼェゼェと息を切らしながら「超神聖妖精大王に……逃走は無いのよ……ぐへッ」とぼやくマリーを胸ポケットに押し込み、俺たちは雑踏の中をかき分けていった。

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