第16話 吠えるな!ドラゴン 殴るな!セツカ

 遠目からでも分かる、ざらりとして分厚く、緑がかっている表皮。翼を携えた大きな胴体からにゅっと飛び出した手足は短いながらも筋肉質で、指先から伸びる太い爪は一見、鋭く尖る岩のようでもあった。その顔は、いかにもファンタジー小説の表紙でも飾っていそうなドラゴンらしい顔だ。しかし、眼前で暴れ狂う生き物のその荒々しい表情は、空想上の物とは程遠い。


 怒り、だ。


 その生々しい怒りは、セツカに向けられている。セツカが俊敏に打撃を叩きこむが、ドラゴンも大きな体躯に似合わない素早い動きで攻撃を防ぐ。そしてその勢いのまま、今度はドラゴンがセツカにその爪を振り下ろす。セツカは身をよじってなんとかそれをかわした。


 息苦しさで、自分が呼吸を止めていたことに気づく。ふはあ、と息を吐くと、自分の胸の辺りから鼓動が強く響いて伝わってくる。嫌な汗が、流れる。目の前で、確かにセツカとドラゴンが闘っている――。


 後頭部の方から強張りが伝わって来た。肩車したままだった京四郎を思い出す。その表情を窺おうと首をよじるが、肩車をしているせいで、京四郎の顔に浮かんでいるはずの表情は良く見えない。だが頭部に伝わってくる体の「揺らぎ」は、肩車してやった時の「ゆらゆら」からは余りに、遠い。


「ちょ、ちょっと、ねぇ……どうする、の?」


 マリーが弱々しい羽音と共に近寄って来た。先ほどまでのふざけ合っていた時の表情は、そこには無い。俺は何も言えないままマリーをちらりと見て、またセツカとドラゴンの方を見る。


 セツカは、押され気味だ。セツカの攻撃はドラゴンにしっかり防がれているのに、セツカの方は完全にはかわしきれていない。目に見えて傷が増えていく。その傷の痛々しさに、体が強張る。


 もう一度マリーを見る。不安げな顔をしているが、俺もおそらく同じ顔をしているのだろう。京四郎を肩から降ろし、ぐっと足元に引き寄せた。「揺らぎ」が足から伝わる。もう見れるはずの京四郎の表情を、俺は直視せずにいた。見るのが、京四郎も不安な顔をしているのを見るのが、恐ろしい。


 一昨日言った、「俺は京四郎を連れてさっさと逃げる」という言葉を思い出した。けれど――逃げるなんて、出来るわけがなかった。目の前で傷ついているセツカを、置いていけるわけがなかった。


 マリーだって、空を飛べるのだから逃げようと思えばさっさと逃げられる。だが、逃げてはいない。散々憎まれ口をぶつけ合ったが、根っこの部分は、深い深い部分はぎりぎり、本当になんとか腐ってはいない、と感じていたからこそ一緒にいられたのかもしれない。ふと、そんな風に思った。


 京四郎の顔をようやく、見る。


 ああ――そんな顔をするな。


 言っただろ?


 俺は、京四郎が何を言いたいか、全部、全て、まるっと読み取れるぞ、ってな。


「……マリー、京四郎を見ててくれるか」


 俺は京四郎の頭をくしゃりと撫でてやってから、マリーへ顔を向けた。


 体の強張りは、もう無かった。


「そ、そりゃあ、いいけど……あれに、割って入る気?」


 マリーがセツカとドラゴンの方を見ながらそう言った。その顔は少しだけ、先ほどの不安とは違った表情になっていた。


「ああ、まぁ、セツカが全体的に悪いんだろうけどな。あいつの尻ぬぐいするのは今に始まった話じゃないし……もう、半ば諦めてるよ」


 なんたってエルカさんから「清く正しい魂の持ち主」だってお墨付きをもらってるんだからな、と声には出さずに呟いた。厄介ごとを抱え込むのにゃ慣れっこなのさ。


 俺の雰囲気が変わったのを感じ取ったのか、にわかにマリーの表情に活気が戻っていった。


「……そうね、京四郎の事はあたしに任せなさい。それに、正直なところ、あんたの魔力量ならドラゴンだってなんとかなりそうだしね。もしそうなったらドラゴンはあんたの手下ってことでしょ? 巣の手下は、すなわちあたしの手下ってことになるからね! あのドラゴンはもうあたしの手下みたいなもんよ! これはもう超神聖マリー聖王国は建国出来たも同然ね! ひゃーっひゃっひゃっ!」

「おっとマリー危ない突然の天候不順で氷柱が――――ッ!」

「ギエエエ――――――――――――――――――――――ッ!!」


 活気を取り戻しすぎたマリーに釣られて、俺は思わず数本の氷柱をマリーの周囲にぶち込んでしまった。鋭利な氷の塊がマリーの体を掠めながら飛んでいき、どすりと遠くの地面に突き刺さる音が耳に届いた。


「おいゴルァ! ドラゴンと闘うって時に何ふざけとんじゃ!」

「そりゃこっちの台詞だよ! 反動で頭がおかしくなってたみたいだが、氷柱で頭が冷えて元に戻って良かったなァ?」


 俺の言葉を聞き、マリーが「キィー!」と怪鳥音を上げる。その様子を見ていた京四郎が、くすりと楽し気に笑った。ああそうだ。俺たちは、これでいい。


 ぱん、と強く顔を叩き気合いを入れる。そして強く息を吸い込み、口を開いた。


「よし――ドラゴンに渾身の詫びを入れに行くぞッ! この度は誠に申し訳ありませんでしたァッ!!」

「ちょっと! まだドラゴン遠いでしょうが!」





 ドラゴンとセツカの戦いの場へ近づくに連れ、空気の重みがより一層増し、ずしりと体にのしかかってくる。俺はその重みに耐えるかのように、足をしっかりと地面に突き立てて眼前の戦いを見据えた。


 とにかく、こちらに気を引かなければ――俺は、腰を落としながら両手をぐっと後ろに引き、息を一度吸い込み、ゆっくりと吐き出した。そしてまた大きく息を吸い、今度は一気に吐き出すと同時に、思い切り両手を突き出した。


「セツカよけろ――――ッ! ハァ――――――――――――――――ッ!」


 突き出した両手から赤い魔力のエネルギー波が飛び出し、ごうっと尾を引きながら瞬く間にドラゴンへと迫る。セツカが大きく横へ跳躍するのが見え、直後、エネルギー波がドラゴンへと突き刺さった。


 ずうん、という低く鈍い音が響き、衝撃が空間をびりびりと伝わる。衝突の余波で砂塵が舞い上がり、視界を遮る。砂塵の中のドラゴンの影は――立ったままだ。やがて、砂煙の中からドラゴンの姿が見え始める。向こうも俺の方を見据えおり、こちらに向かって突き出した短い右腕には焼け焦げたような傷跡がついていた。


 その様子を見て、俺は少なからず動揺した。倒すまではいかずとも、もう少しダメージを与えられている事を期待していたのだが……。だが、とりあえずは気を引く事には成功した。俺は動揺をひた隠しながら、ドラゴンの方へ歩みを進め、口を開いた。


「へっ、どうやら挨拶が丁寧になりすぎちまったみたいだな」


 ドラゴンが俺をぎろりと睨みつける。きゅっ、と身がすくむが、表に出すまいと努めていると――


「シンタロー! ねぇ、今のが前に言ってた魔力をそのまま撃ち出すって技!? いやぁ~、実際に目の当たりにすると中々の強者力を感じたよっ! ねねっ、ちょっともう一回撃ってみてよ! 殴ったらどうなるか試してみたいなっ!」


 横に跳躍していたセツカが近寄りながら無邪気な声を上げ、雰囲気を盛大にぶち壊した。


「お前マジふざけんじゃねえぞコラ! 俺がどんだけびびって小便ちびりながらも必死こいてここまで来てやったと思ってんだッ! 三方ヶ原の戦いで武田信玄に負けてうんこ漏らしながら逃げた徳川家康の気分だったっつーの! 俺の覚悟やら純情やら諸々を今すぐ利子つけて返せや!」


 俺が怒涛の勢いで吠え掛かるも、セツカはきょとんとした顔で「ちびったの? ……漏らしたの?」と言って、少し俺から距離を取った。俺は「物の例えじゃ!」とセツカに怒鳴る。やべえ、助けに来たのはやっぱり失敗だったか、と頭を抱えそうになっていると、


『珍しい魔法を使う奴だと思えば……ごちゃごちゃと騒がしいのがまた一匹増えたか……』


 と、ドラゴンが皺の多い顔をより一層しかめ、そう呟いた。


「うおっ! しゃ、喋ったっ!?」

『む? 貴様、我の言葉が分かるのか?』


 ドラゴンの顔に刻まれた皺が、ほんの少し変化した。声からは驚きが感じられる。まさか、エルカさんに授けてもらった翻訳機能がドラゴンにも働いてるのか? セツカの方に向き直って「おい、お前、ドラゴンが何喋ってるか分かるか?」と小声で確認してみると、「ううん? ふがふが言ってるのは聞こえるけど」と答えた。やっぱりそうっぽいな。


 これはハッタリに使えるぞ、と考えた俺は再びドラゴンへと向き直り、口を開いた。


「フッ……偉大で深淵で雄大で広大なる超絶魔法精霊剣士使いである俺は、それはもう! 至極当然! 七転八倒! ドラゴンの言葉をも理解出来るのであるッ!!」

『……今、小声でそこの殴道宗の女と相談していたのがばっちり聞こえていたのだが……そもそも、我が喋ったことに驚いていただろう……』


 ドラゴンが呆れたような声色でそう言い、俺は「えっ、やだ嘘っ、恥ずかしいっ」と言いながら自分の顔がみるみる赤くなるのを感じた。更に、セツカがちょいちょいと俺のシャツを引っ張り、「シンタローシンタロー、雄大と広大で意味がちょっとかぶってるよ」と指摘する。もうやめて! 俺を辱めないで!


 カッと火照った顔を隠すように身を縮こまらせていると、ドラゴンが『ふんっ』と鼻を大きくならし、喋り始めた。


『……だが、先ほどの珍しい魔法や、我の言葉を解するというのは、確かに並大抵ではない。貴様、一体何者だ? そこの殴道宗の女の仲間か?』


 おっ、結果オーライ、俺のハッタリも無駄ではなかったようだ。俺はまだ火照ったままの顔を上げ、セツカをチラ見してからドラゴンをキッと見据え、胸を張り、自信を体中に漲らせて答えた――


「こいつとは、仲間じゃねえ!!!」


 ドン!!


「ちょっとシンタロー!? 何喋ってるか分からないけど突然ひどくないっ!?」

「おい! 満身創痍のくせに俺にこぶしを向けるな! 分かった! 妥協して保護者! 保護者ってことで妥協しようッ!」


 セツカが向けてきたこぶしと殺気から必死に身を守っていると、ドラゴンが『保護者……だと?』と呟いた。食いついてきたか、とドラゴンの方を視線を戻すと――


『じゃあ、この際だから一つ言わせてもらうけどね』


 ドラゴンの雰囲気が、がらりと変わった。あれれっ?


『そこの子ね、ここのところ続けて我に殴りかかってきてね、こっちもすごく迷惑してるの。そりゃあね、殴道宗がそういう輩ばっかりだってことは我だって承知してるけどね、他の魔物の手前ね、面子とか建前っていうものがあるからね、我も殴りかかられたら殴り返さざるを得なくなるわけ。あっ、ここは勘違いしないで欲しいんだけど、普段は力の差が歴然なその辺の人間にむやみやたらと襲い掛かったりはしないからね? 我はドラゴンだから、そんな事をほいほいやってたら洒落にならないし。そこは分かってもらえるよね?』

「あっ、はい」

『我だってね、本当はこんなこと言いたくはないの。言われてる方だけじゃなく、言ってる方だって嫌な気分になるし、それを聞いてる周りの者だって嫌になるでしょ? でも、折角言葉が通じるわけだし、こういう事は言わないと伝わらないから、仕方がなく言わせてもらってるの。そりゃ殴道宗の輩を抑えるのが大変だっていうのは我も分かるよ? 我にもお転婆で無茶する一匹娘がいるから、気持ちは本当に痛いほど良く分かるんだけどね、貴様もね、保護者っていうなら保護者らしく、きちんと面倒見ておいてもらわないと。迷惑が降りかかるのは周りなんだからね?』

「はい……全くもってその通りです……面目次第もございません……」


 滔々と語られるドラゴンの説教に、俺は先ほどまでとは違った意味で縮こまっていた。なんで俺がセツカの事で説教されにゃならんのだ……と思いつつも、なんだか話が通じそうなドラゴンだぞ、と見えてきた僅かな希望の光に、内心はホッとしていた。


『あっ、急に話し方が変わって困惑してるかな? さっきまでのは仕事用というかね、我も常に肩肘張ってるわけじゃなくて――』

「隙ありだよッ! オラァッ!!」


 瞬間、セツカの渾身の一撃がドラゴンの腹に強く深く叩き込まれ、ドラゴンが『ぐべぇ――――――――――――ッ!』と心底痛そうな呻き声を上げた。俺は起こった事に頭が追い付かず、いや理解するのを拒否し、本当に痛そうにお腹を抱え込んでうずくまるドラゴンを凝視して固まっていた。


 そして。


「何してくれてんだお前はアアアアアア――――――――――――――ッ!!」


 絶叫しながら、近くへ戻って来たセツカの肩をガクガクと揺さぶった。セツカが揺さぶられながら「だだだだだって」と何か喋ろうとしていたので、揺するのをぴたりと止めると、セツカは顔をキリッと引き締めて言葉を発した。


「だって――そこに隙があったから!」

「登山家みてえな事言ってんじゃねえッ! もう少しで話が丸く収まりそうだったのに、何してくれちゃってんの!? 謝れ! ドラゴンさんに早く謝って!」

「えーっ、そんなこと言われても、私はドラゴンの言葉なんて分からないし、急にシンタローがペコペコし出したからいじめられてるのかな~って思って、私なりに気を使ったんだよっ!?」

「なんでお前はこんな時に限ってそういう余計な気を回すの!?」


 俺とセツカが激しい言い争いをしていると、腹部を抱え込むようにしてうずくまったままのドラゴンが『も、ももっ、モッ!』とドスの利いた奇声を上げ始めた。良く分からないがこれはまずいと判断した俺は、ご機嫌を取ろうと急いで口を開く。


「桃!? 桃をご希望ですか!? 邪気を祓うって言いますもんね! おいセツカ急いで山梨県から桃を取り寄せろ! 贈答用の最高級のやつだ!」

「モモって何?」

「馬鹿野郎ッ! 桃は桃――」

『もッ、モモッ、もウッ! ぜぜ絶対に許さんぞッ!! 貴様はアアアアアアアッ――――――――――!!』


 俺の言葉を掻き消しながらドラゴンが凄まじい気迫で吠え、俺は思わず「ひいい!」と情けない悲鳴を上げた。ドラゴンというよりも仁王像のような形相になり、あまりに血が上っているためか、緑色だったはずの顔は目に見えて赤みがかってしまっている。こ、これはやばいぞ、エルカさんがキレた時みたいなすげぇ気だ!


「おっ、良く分からないけどやる気だね! 二回戦開始ッ!」

「あッ、おい馬鹿やめろ!」


 俺の制止も聞かず、セツカがドラゴンにまた殴り愛を挑み始める。再び凄まじい攻防が始まるが、ドラゴンが怒りのあまり大振りになっているのか、それともセツカが少し体力を取り戻したせいか、先刻よりは互角に近い戦いを繰り広げていた。


「あれれッ! 動きが鈍くなってるよッ!? どうしたのかなッ!」

『ぐうっ! この鬱陶しい結界さえ無ければ貴様なんぞッ!』


 互角気味とはいえ、やはりセツカの方が少々押されている。それに、いつまた一方的にセツカがやられ始めるとも限らない。なんとか、なんとかもう一度戦いを中断させなければ――と、その時、ある考えが頭に閃く。ドラゴンが大振りの攻撃をし、セツカが大きくかわして二人の間に距離が少し出来た瞬間、俺は急いで息を吸い込んだ。


 そして――


「羊羹食いてぇ――――――――――――――――――――――――――!」


 叫ぶや否や、右手が焼け付くように熱を持ち、黒い稲妻が空間を迸り始める。バチバチという音と共に稲妻が右手へ収束し、刹那、青白い光が放たれる。そして右手に現れたのは――法久須堂の、羊羹。続けて右手を掲げながら決め台詞を言い放つ。


「畏れよ、我が光、法久須堂の名物の光を!」


 フッ、決まったな……。


 ドラゴンが呆気に取られた顔で羊羹を凝視し、更に、目だけで素早く周囲の空間を確認している。よし、狙い通りだ。ムツメが言っていた「大気中の魔力の激減」をしっかりと察知したようだ。


『貴様……一体なんだ、今の魔法と、それは?』


 ドラゴンが俺と羊羹を交互に睨みつける。顔はいくらか赤っぽさが引いたものの、その口調はまだ「仕事用」のままだった。その仮面を引き剝がそうと、俺は口を開く。


「……これは『羊羹』って言う物で、エルカ・リリカっていう神様から授かった魔法で出したんだ」

『何、エルカ・リリカだと?』


 その声色からはっきりと動揺が感じられた。先ほどの魔法の様子から、俺の言葉を否定しきれないのだろう。


「この周囲に大きな穴が何個かあるだろ? その穴は、この羊羹の欠片で作ったものだ。これはな……ほんのひと欠片だけでも大きな爆発を起こすんだ」


 ドラゴンが『何!?』と周囲を見渡す。その体躯なら、俺が作ったクレーターが良く見える事だろう。少し離れた所にいるセツカが、顔だけをこちらに向けて「何いってんの?」って感じのきょとんとした表情で俺を見ているが、俺はセツカを思いっ切り睨みつけて何とか目で制した。


『……それで、そのヨウカンとやらをこれ見よがしに我に示しているのは何故だ』

「俺は……出来れば、これを使いたくない。さっきあんたと話をして、あんたは悪いドラゴンじゃないって分かったし、あとそのなんというか、こっちの非もかなり大きいみたいだし……と、とにかく! ここはお互いに一旦落ち着かないか? な?」


 俺の提案を聞くと、ドラゴンは顔の皺を少し深くし、押し黙ったまま固まった。俺の言葉の真意を測っているのだろう。動きは止まっているが、殺気は収まっていない。セツカも構えを解かずにじっとしていた。


『……ふむ、エルカ・リリカが授けた魔法、か……最初に見せた珍しい魔法といい、我の言葉を解する事といい、嘘では、無いのかもしれない』


 その言葉遣いは、俺の淡い期待に反し、「仕事用」のままだった。


『だが、そっちの殴道宗の娘だけは! もうどうにも我慢ならんッ! 倍返しだッ! 我を止めたくば、そのヨウカンとやら、遠慮なく使え! 使おうとも我は一切貴様を恨まんッ!』


 潔い台詞を言い放つと共に、ぐあっと激しい咆哮が周囲に響き渡った。くそッ、これも駄目か……! セツカが咆哮に応じ、こぶしをぐっと強く構え直すのが見える。もう行くところまで行くしかないのか、と思っていると、突如、「ずどん!」という鈍い地響きと共にドラゴンの体がぐらりと揺れた。


 ドラゴンが『ぬうっ!?』と呻き声を上げながらその巨体が前へと押し出され、『何だッ!?』と叫んで背後へ振り返った。俺もそちらを覗き込む。


 そこにいたのは――俺が作った、大仏さまだった。

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