第15話 ドラゴンへの殴道

 やや日が傾いてきた頃、勢いの弱まりつつある日光に照らされながら、ヨウカさんの巨体ゴーレムが自由の女神のポーズを取って固まっていた。その突き上げた右手の先には、ぐったりとしたマリーがガッチリと握りこまれている。ちなみにその横ではカンタさんがサイドチェストのポーズを取っていた。


 二体の巨漢ゴーレムでしこたまマリーを追いかけまわした後、ヨウカさんがマリーを捕獲し、そのまま自由の女神のポーズを取らせ、マリー念願の日光浴を再開させてやったのだった。


 最初のうちは口汚い罵声がこれでもかと飛んで来ていたものの、しばらくするとすっかり静かになり、さすがに少し心配になって様子を見に近づいてみると、ぺぺぺッと大量に妖精汁を飛ばしてきたので「なんだ、まだまだ元気そうじゃないか」とそのまま放置し続けることにした。どうやら狸寝入りで隙をうかがっていたらしい。口と涎だけじゃなく思考も汚いらしいな、一貫してるとは流石ですわ。


 気にするだけ損だと悟った俺は、マリーをほったらかしにしたまま京四郎との城造りを再開していた。練成して作った堀に水を注ぎこみ終わり、京四郎に語り掛ける。


「ほら、京四郎。これは宇和島城って言ってな、珍しい海城なんだ。一見、外から見ると四角形だが、良く見ると五角形になってるだろ? これは『空角あきかく経始なわ』って言ってな、築城の名手である藤堂高虎が仕掛けたもので――」


 と、その時、後方のゴーレムがある方から突然、「バァン!」という大きな破裂音が鳴り響いた。ばらばらと土が周囲に飛び散る音と同時に、「ぶびゃああ!」というマリーの情けない悲鳴も耳に届く。


 一体何事かと慌てて振り返ると、ヨウカさんとカンタさんの腰から上の部分が跡形もなく吹き飛んでおり、その更に背後に――両手を突き出してお相撲さんのようなポーズを取ったセツカが見えた。その瞬間、俺はそこで何が起こったのかを全て悟った。だが、何故かセツカの方が目をぱちくりとさせていた。


「あれっ? 強そうな奴らがいるな~って思ったんだけど……こいつら、強者じゃなかったねっ!」

「おいお前またその流れかよ! ふざけんじゃねえぞ! 俺と京四郎の愛の結晶に何さらしてくれとんじゃ!」


 俺の怒号にも顔色ひとつ変えず、セツカは「愛の結晶って?」と不思議そうな顔をしながら、残されたヨウカさんとカンタさんの下半身を迂回してこちらへ近づいてきた。


「ったく……京四郎も土魔法が使えるらしくてな、さっきのゴーレムは俺と京四郎の二人で作り上げ……って、おいセツカ、今日はいっそう泥まみれじゃないか。一体どうしたんだ?」


 今朝見た時も、連日動き回っているせいか薄汚れてはいたものの、目の前のセツカはそれとは比にならないほど土や埃まみれだった。良く見てみると肌には擦り傷のような物もたくさん出来ている。さすがに冗談抜きで心配になって声をかけたのだが、セツカはけろっとした顔で、


「ああ、これね! これはねぇ……ふっふっふ、なんとなんと! ついにとうとうドラゴンを見つけちゃったのですっ!」


 と言って、腰に手を当てて「えっへん!」と胸を張った。


「は? ドラゴン?」

「そうそう、ドラゴン! いやぁ念願叶って嬉しくなっちゃってね、そのまま殴り愛を挑んだんだけど、流石にドラゴンだねぇ、強いのなんのって。旗色が悪いと思ったから一旦逃げてきたってわけさっ。殴道宗十戒、そのさんっ! 駄目そうならひとまず逃げるべし! そのよんっ! 命あっての物種っ!」


 セツカは実に嬉しそうにべらべらと喋っているが、俺は呆気に取られてただ黙って聞いているしか出来なかった。こいつ、マジでドラゴンに殴りかかったのか……それで擦り傷とかで済んでるあたり、こいつも大概おかしいよな……。


「お前、良くドラゴンから逃げ切れたな……。おい、まさか後をつけられてないだろうな? 俺と京四郎の愛の巣を破壊なんてされたらたまらんぞ!」


 恐る恐るセツカの背後を覗いてみるが、幸いなことにドラゴンの姿は見当たらなかった。こいつの事だから、普通にドラゴンがついてきてるなんて可能性も否定できんからな。


「その辺は大丈夫、ちゃんと抜かりなく撒いてきたからね! あ~、でも流石にちょっと疲れちゃった。服も予備に着替えないとねぇ。おっ、ちょうど良いところに水が。顔洗わせてもらうねー」


 セツカが宇和島城の堀に溜めた水で顔をばしゃばしゃと洗い始める。飛び散る水が宇和島城に思い切りかかり、折角作った城壁が崩壊しだしたので、俺は慌てて「おい、そこで洗うな! 別の場所に水たまり作ってやるからっ!」とセツカを引き起こした。


「全く……まぁ、あんまり無茶はするなよ? さすがに知り合いがドラゴンの餌になったら目覚めが悪いからな」

「おっ? 心配してくれてるの? じゃあ殴り愛する? する?」

「なんで心配から殴り愛につながるんだよ! やっぱお前、一回ドラゴンに食われて体内で消化、いや浄化してもらったほうが良さそうだわ……」


 呆れた声を漏らすと、セツカは「ひどくないっ!?」と憤慨した声を上げた。俺は「こっちの台詞じゃ!」と言い返し、城壁が少し崩れた宇和島城をしげしげと眺めている京四郎をちらりと見てから、セツカに視線を戻して再び口を開いた。


「いいか、お前がもしもドラゴンを引き連れてきた日には、俺は京四郎を連れてさっさと逃げるからな。代わりにマリーは置いていってやる。ドラゴンに食わせれば腹を壊して弱くなるだろうからな、きっと役に立つはずだ」

「なるほどっ! マリーを食わせて弱らせるって手もあるね……! さすが、シンタロー! 妙手だよ!」

「『なるほど』じゃないわよ! 吹き飛ばされたこっちの心配もしろやゴルァ!」


 突然、離れた草むらの方からマリーの怒声が上がった。セツカがゴーレムの上半身を粉々にした時の勢いで結構吹き飛ばされていたらしい。


「なんだマリー、生きてたのか。よしよし、このしぶとさならドラゴンもきっと腹を壊すな。もうこれは勝ったみたいなもんだぞ! やったなセツカ!」

「おいゴルァ! 上等だテメー! べこべこにしてやるよォ!」

「そりゃこっちの台詞だよ! 見せてやるよ、干物の向こう側の"その領域"をよゥ!?」

「はいはい、二人ともそこまでね。いやぁ、やっぱり元気が有り余ってるみたいだねぇ? それは良くない、実に良くないよっ、不健康だよっ! それじゃ、ドラゴンの居場所も分かったことだし、二人も一緒に殴り愛に――」

「行きません」

「行かないわよ」

「だからなんで急に二人とも息が合うのさっ!?」




 翌日、セツカは「殴道宗十戒、そのごっ! 失敗しても後日また『殴り愛』を挑むべし!」と言い残し、性懲りもなく再びドラゴンへ殴り愛を仕掛けに出かけていった。一体、何がそうまでしてあいつを突き動かすんだ……。


 残された俺と京四郎と羽虫マリーは、昨日と同じく草原で土遊びに励んでいた。今日は少し趣向を変え、和の建物ではなく洋の建物を作り上げている。やっぱり京四郎の教育のため、和風な物だけじゃなく洋風な物にも触れさせて目を肥えさせておきたいからな。


「ほーら、京四郎、これがキングス・カレッジ・チャペルだよ~。イギリス後期ゴシック建築の傑作だぞぉ。本当は中の扇形ヴォールトとかを見せたいとこだけど、流石にそんなでかいの作れる気がしないしな……細かい柄も覚えてないし……」


 京四郎は俺の解説を聞いているのかいないのか、俺が作り上げた洋風の土くれを興味深そうにじっと眺めていた。うんうん、こんなに真剣に見入っているとは、やっぱり京四郎は趣味が良いな。こりゃ将来が楽しみだぞ、と思っていると、マリーがぶーんと羽音を響かせながら近寄ってきて「あらまぁ」と感心したような声を出した。そしてミニ・キングス・カレッジ・チャペルの上にちょこんと乗っかり、口を開いた。


「へぇ、今日のは悪くないじゃない。なかなか好みの造形だわ。まだちょっとオルディグナス神殿には及ばないけど……それに、あたしはもっと上の方がツンツンと尖ってて縦に長い方が好みだわね。けど昨日よりは着実な進歩が見て取れるわね、そこは評価してあげるわ。あたしの目は節穴じゃないもの。ちゃんと頑張れば頑張った分だけ評価してあげますからね。あたしはそれが作り手のやる気に繋がるってことをちゃあんと理解してるのよ? その辺の凡夫とは違うんです! 私は客観的に見る事が出来るんです! ほら、分かったならこの調子でもっと頑張って、もっと創意工夫して、超神聖マリー宮殿王城を作り上げなさい! 以上!」

「おっとマリー危ない! 急な天候の変化で雷が――ッ!」

「ギエエエ――――――――――――――――――――――ッ!!」


 俺が叫ぶのと同時に手の先から雷が迸り、ミニ・キングス・カレッジ・チャペルの上でふんぞり返っていたマリーの体を直撃した。マリーの全身が雷に包み込まれ、汚い悲鳴が上がる。フッと雷が消えると、マリーはチャペルの上で黒焦げになってピクピクしていた。周囲に鍋を焦がしてしまった時のような嫌な匂いが漂い始める。


「雷は高いところに落ちるって言うからなァ~。いいか、ちゃんと覚えておくんだぞ、京四郎。でないとあんな目にあっちゃうからな」

「ゴルァ! ふざけんじゃないわよ! こんな目にあわせたのはあんたでしょうが!」


 むくっと起き上がった黒焦げのマリーがチャペルの上から罵声を飛ばした。体からはいまだにプスプスという音がしている。どうやら逃げ足だけじゃなく、しぶとさも一級品みたいだな。


「なんだマリー、生きてたのか。俺はちゃんと『危ない』って警告したろ? よしよし、いいか京四郎、雷が落ちそうな時はマリーを空中に投げるんだ。そうすれば、こいつが雷を受け止めてくれるからな!」

「警告と同時に雷落としたでしょうが! キーッ! 昨日といい今日といい、もう許さな――って、あら? もうセツカが帰ってきてるわよ?」


 マリーが急に叫ぶのをやめ、俺の背後の方を「ほら」と指差した。目をやってみると、確かにセツカがトコトコと歩いて帰ってきていた。昨日帰って来た時間よりも幾分か早い。ドラゴンに出会えなかったのだろうかとも一瞬思ったが、良く見ると、昨日着替えたばかりの服がまた泥だらけになっているし、擦り傷もある。どうやら殴り愛はきっちりとしてきたようだ。


 セツカが近づいて来るのを待ってから、「おう、今日はちょっと早かったな」と声をかけると、セツカは「うん、ただいまー」といつもの調子で返事をした。


「その汚れ具合からすると、今日も殴り愛はしてきたんだろ?」

「そだよー。ドラゴンの大体の居場所は把握したからね。最短距離で殴り愛を仕掛けにいったんだけど、さすがドラゴン、分かってたのか今日は待ち構えててね……そのまましばらく殴り愛してたんだけど、また旗色が悪かったから逃げてきたんだよっ」


 俺は「そ、そうか……」とだけ短く相槌を打った。ドラゴンも毎日こんな奴に殴りかかられて大変だな……どうせ明日も殴りに行くんだろうし、流石に同情するわ。軍神クルスナス様とやらに殴られ続けてた父神オルディグナス様とやらもこんな感じだったんだろうな。そう考えると、確かにこいつは殴道宗修行僧の鑑だわ。


 呆れるやら感心するやらといった目でセツカを眺めていると、セツカが再び口を開いた。


「殴り愛自体にかかった時間は昨日と同じくらいだったんだけどねぇ、今日は昨日よりもしつこく追いかけてきて、追跡を撒くのにちょっと手間取っちゃってさ」

「えっ、ちゃんと逃げ切れたんだろうな? 怒ったドラゴンが追いかけて来てないよな?」

「大丈夫大丈夫、ちゃんと今日も撒いてきたよ! 逃げ足も殴道宗では重要視されてるからさ! 何としてでも生き延びないと殴り愛出来なくなっちゃうからね! 殴道宗十戒、そのよんっ! 命あっての物種っ!」


 セツカが自信満々に「ふんっ」と鼻をひとつ鳴らす。俺はまた「そ、そうか……」と呟くことしか出来なかった。やっぱ殴道宗ってやばいわ、絶対に狙われたくねぇな。


「あっ、そうだ、明日はマリーも連れていけよ。怪我したら妖精汁でもかけてもらって、んで逃げる時はドラゴンに投げつければいい。怒りで我を忘れたドラゴンはきっとマリーを間違って飲み込んで、凄まじい腹痛に襲われて身動きが取れなくなるだろうからな。そこで、すかさず転身してドラゴンを倒すんだ。どうだ完璧だろ?」

「なるほどっ! 一石二鳥ってやつだね……! さすが、シンタロー! 妙案だよ!」

「だから『なるほど』じゃねぇっての! あたしを餌にする案から離れろや!」

「おおそうだ、最後の晩餐として羊羹多めに分けてやるよ。そうすれば妖精臭さも誤魔化せるし、ドラゴンが喜んで食うだろうからなあ?」

「キィーッ! ふざけんなゴルァ! でもヨウカンはもらうわね!」

「はいはい、二人とも――」

「行きません」

「行かないわよ」

「まだ何も言ってないよ!? も~っ! 二人とも馬鹿にしてッ!」


 昨日と同じ流れでからかったら流石に怒ったのか、セツカがこぶしを振り上げて俺たちの方へ殴りかかってきた。俺とマリーは慌ててそれを避け、草原を逃げ惑いながら必死で謝罪する。


「お、おいやめろ! ドラゴンとの殴り愛で疲れてるんだろ!? それにほら京四郎が見てるから! 教育に良く無いから! お前も暴力お姉ちゃんって呼ばれたくないだろっ!」

「ちょっとした冗談じゃない! あんたのこぶしは洒落になんないのよ! やめなさいよ! ほら、傷に妖精汁かけてあげるからっ!」


 京四郎は状況を良く分かっていないのか、叫びながら走り回る俺達をチャペルのそばからきょとんとした顔をして眺めていた。




 その翌日もまた、やはりセツカはせっせとドラゴンとの殴り愛へと出かけて行った。ちゃんと服も予備の物に着替えていたが、どうせ汚れることが分かってるのならもう着替えなくても良いような気がするが……。


 しかし、居残り組の俺たちの方も相変わらず草原で土遊びに臨んでいるあたり、セツカの事をとやかく言える立場では無いかもしれない。


 でも、他にすることも特に無いしなぁ。思いつく事と言えば、巨大クレーターに水を溜めて超巨大プールを作るとか、気合い入れて錬成してログハウスの周囲を土塁と掘りで囲ってみるとか? そろそろセツカにドラゴンへの殴り愛を中止してもらって、最寄りの街へ案内してもらうのも良いかもな。果たしてあいつが殴り愛をやめるのか、という難題が控えてはいるが。


 そんな事を考えながら、俺は目の前に高さ二メートルほどのエッフェル塔と東京タワーを隣り合わせで錬成していた。これまでとはタイプの違う建造物に京四郎が興味津々な顔で食いついている。


 昨日のマリーの「上の方がツンツンと尖ってて縦に長い方が好み」という発言を受けての製作だ。マリーの言う通りにするのは癪だが、平べったい建物が多かったのは確かだしな。こういう塔はこちらの世界じゃ珍しいだろうし。


「ほらマリー、お望み通りの建物を作ってやったぞ。ほれどうした、今日はくっ付かなくていいのか?」

「確かに縦長の方が良いとは言ったけどね、こんな尖がってるだけの建物が良いとは言ってないわよ! あたしが欲しいのは城よ! 土台がしっかりとして、先端の方が尖がってるのが良いの! それにあんた、あたしがくっ付いたらどうせまた雷でも落とす気でしょうが!」

「ほう、経験が生きたな。そうだな、お前の要望を満たす建造物は……よし、ティンときた! 錬成!」


 気合いを入れて両手をつくと、瞬く間に地面がボコボコと大きく隆起し――高さ四メートルほどの大仏の坐像が出来上がった。


「ふう、どうだ? ちょいとばかし気合い入れて作ってやったぞ。土台がしっかりしてて先端の方が尖ってる感じではあるだろ?」

「ちょっと! どう見ても城じゃないでしょうがこれ! なんか人みたいな形してるんですけど!?」

「おいおい、確かに城ではないけどな、これは『大仏』っていう俺の国だとれっきとした建造物だぞ。人々を見守る有難い存在なんだよ。おっ、京四郎はこの魅力が分かるみたいだな~。やはりそこの羽虫とは見る目が違うな。ほら、丈夫に作ってあるからちょっと乗っかってみるか?」


 大仏に近寄って来た京四郎の腰を掴んで大仏の膝の上に乗せてやると、京四郎はにこりと楽し気な表情へと変わった。うんうん、気に入ったみたいだな。なんかこう安定感があるというか、しっくりとくるな。京四郎の神々しさと、仏様の有難さの親和性が高いのかな?


「あら、でも確かにこれまでの中で一番大きいだけあって案外悪くないわねぇ。てっぺんからの見晴らしも中々のものね! 気に入ったわ!」


 いつの間にやら、マリーが大仏の頭の上にちょんと乗っかって満足気な声を漏らしていた。こいつ、ごちゃごちゃと文句言っておきながら、ちゃっかり満喫してるじゃねぇか。


 また何か悪戯してやろうかとも思ったが、土魔法で作った物とはいえ大仏さまに悪さするわけにもいかず、俺はマリーに何も手出しせずにそのまま見守った。へっ、大仏さまのおかげで命拾いしたな。


 すると、大仏の頭の上で楽しそうにしているマリーを羨んだのか、京四郎も大仏の上の方へ登ろうと手を伸ばしていた。


「おっ、京四郎も上に乗りたいのか? でもちょっと危ないからな、代わりに俺が肩車してやろうな~」


 京四郎の胴体を掴みそのまま肩の上に乗せてあげると、テンションが上がっているのか、肩の上で京四郎の体がゆらゆらと揺らいでいるのを感じ取れた。ふふふ、可愛い奴め。


「あら、あたしと張り合おうっていうのかしら? 良い度胸ね! さぁ、かかってきなさい! この超神聖マリーダイブツ宮殿王城が相手に――」


 マリーはまた調子に乗りながらベラベラと喋っていたが、突如、その言葉が途切れた。怪訝に思い、京四郎の足を両手でしっかり支えたまま仰ぎ見てみると、マリーは土偶のような表情をして遠くを見つめたまま静止していた。


 ははぁ、このパターンは昨日と同じだな。どうせ今日もセツカが泥まみれの傷だらけで帰ってきたんだろう、と俺はマリーが向いている方向へ視線を向ける。


 すると確かに、セツカはそこにいた。


 ただし――荒れ狂うドラゴン、というおまけ付きで。

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