第11話


  *  *  *


 この学校は三階建てで、三階から上へ行く階段はつまり屋上に続く階段である。

 が、屋上のドアには鍵がかかっていて、外に出ることはできない。

 だから、忘れてかまわない――


「ひとつ、この学校の秘密を教えてあげよう!」

「学校の……秘密?」


 ――という話をした上で、委員長は。

 校舎案内の締めくくりとして、その、屋上のドアの前に。引田を連れて行ったのだ。


  *  *  *


 そのときのことを思い出しながら、引田はドアノブを握った。


「たしかに、ドアには鍵がかかっている。……ように、見える……」


 ドアノブを回すが、硬い感触。鍵がかかっている以上、ノブの回転は途中で止まる。


「が」


 引田が構わず力を込めると、ガコンという音がして――ドアノブがくるりと一回転した。


「このドアノブ、実はどこかの部品がバカになっているので……無理やり回せば一回転するし、なんでかわかんないけどドアも開く……」


 夕日はもう沈みかけていて、紫色の空に浮かぶ星の光が鮮明に見て取れた。

 引田は、深々とため息をつくと――

 扉の向こう、フェンスに肘を乗せてたたずんでいる人影に、話しかける。


「……いや、みんな知ってるんだろうと思ってた。有勝高校の生徒たちに代々伝わる、裏技みたいなやつなんだろうなって……」


 夕方と夜の間、夕日の残光と小さな星の光。

 頼りない光源の下で引田には、その人影の顔がよく見えない。



 けれど、その声だけははっきりと――



「遅いよ」



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