第10話


「しっかしまあ、B組総出で捜して見つからんってのも意味わからんな。靴無いにしてもいつ帰った? 昼の時点で? 何しに来た」

「うーん……靴も隠してどっかに隠れてるとか」

「といっても総出で探したわけで。トイレの個室に隠れてましたとか、そんな話じゃあやり過ごせんだろ」


 下駄箱から自分の靴を引き出しつつ、ああでもないこうでもないと議論を戦わせる二人。

 引田がふと思いつきを口にした。


「そうだ、屋上って捜したの?」

「あのな、おまえ転校してきてもう三か月だろうが。まだ知らんのか」

「……何が?」


「この学校、生徒は屋上出れねーようになってんだよ。ずっと鍵かかってるし、委員長でも屋上の鍵借りるのなんか無理」


「……え?」

「あ?」


 当たり前のルールを口にしたつもりの甲本は――

 しかし、どういうわけだか急に凍り付いてしまった引田を見て、怪訝な表情を浮かべた。


「……んだよ?」

「え、……いや……」

「まあ、なんでもいいけどよ。どうせ明日になれば先生がなんとかするわけだし……」

「……えーっと、甲本」

「なんだよ」

「荷物、教室に忘れてきたから。先に、帰っといてくれ」

「ん、わかっ……いや、早っ。どうしたおま……え、マジでどうした? おーい?」


『忘れてきたから』のあたりで既に走り出していた引田の背を、甲本は呆然と見送るのみ。

 そして駆け出した引田のほうはといえば――

 ポケットからスマートフォンを取り出して、検索エンジンを開いていた。


「……そういえば。そういえばだけど……」


 片手での器用なフリック入力、検索ワードは――『ラクーン・エクスターミネート・プラン』。三か月前、委員長との世間話で持ち出したガールズバンド。

 それなりの知名度を誇るバンド、検索すればすぐにメンバー三人の自画像が表示される。

 単なる世間話のネタとして持ち出しただけで、引田自身はこのバンドが特別好きというわけでもない。けれど、さすがにメンバーの見た目くらいはうっすらと覚えている――

 ショートボブを金髪に染めたドラム。パーマのかかった黒い髪のベース。そして、

 そして、『かっこかわいい』と言った、ボーカルは――


 腰まで届くような長い髪を、鮮やかな真紅に染め上げていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る