第6話
昼休みが終わるまで、後二十分といったところ――二人は、ひとまず教室に戻る。
「ま、アレはどうでもいいとしてもだ。しかしながら、眼鏡はずして赤髪にするくらいの大幅なイメチェンとなると……恋人ができたっつー可能性は、まあ、考えられるかもな」
「ありえない話ではないよね」
河野の存在を〝アレ〟として処理することに決めた二人は、それでも手に入れた情報だけは有効に活用し、思索を進めていた。
「ってことは、あれかな。一週間前の話って言ってたから……その恋人は、少なくとも今より一週間以上前からいた、ってことになるのかな」
「かもしれねーが……」
引田の意見をしばらく頭の中で咀嚼してから、甲本は指を一本立てる。
「『まだ』恋人じゃない、って可能性もあるだろ」
「……『まだ』?」
「誰かに振り向いてほしくて、思い切ってがっつりイメチェンしてみた。今までの冴えない私とは違う、魅力的な私に」
「あー……眼鏡はずしたら美少女とか、髪切ったら見違えたとか、よくあるもんね」
いやまあ、アレは怒るかもしれないけど……と呟いてから、忘れかけていたアレを話題に出したことを悔いるかのように、引田は一度咳ばらいをした。
「とにかく。どっちにしても、委員長には好きな人がいる、ってことになるよね」
「そうなる。……つってもまあ、恋愛がらみのイメチェンってのも、別に確定したわけじゃねーけどな」
自分を変えたいと願う気持ちは、そう珍しいものでもない。
それは好きなあの人に振り向いてもらうためかもしれないが、別に恋愛が絡まなくとも。
『嫌いな自分を捨ててしまいたい』というのは、十分、動機になるだろう。
が、そうなると――今後、どのように調査を進めていくべきだろう? 引田は首をかしげる。
「……どうしよう?」
「ふ、捜査の基本に立ち返れ。確認を取れるとこから取っていく」
甲本はかけてもいない眼鏡を指で押し上げる真似をすると、わざとらしく、頭のよさそうな声色を作った。
「仮に、委員長に恋人がいたとして……。相手がうちのクラスの人間なら、まあ、どっかしらで噂にはなってると思うんだよな。んでもそーいう話は全然聞いたことない。だから、恋人がいるとしても違うクラスだ」
「……うん」
「となると考えられるのは、去年クラスが同じだった連中。委員長は……えーっと、俺が去年C組で、んで体育とかでたまに一緒になったから、たしかD組だったはずだ。つまり、接点があるとしたら元D組の連中。どうよ?」
今のクラスにいないなら、前のクラスにいるはずだ。それが甲本の推理である、が――
「文化祭の実行委員とか、図書委員とか……そのあたりの縁で知り合った相手、って線は? ないの?」
別に甲本をやりこめようとかいう意図はまったくなく、引田は単なる疑問としてこの説を口にしたのだが。
しばしの沈黙ののち、甲本はと二、三度咳ばらいをして、目を泳がせながら答えた。
「あるかもしれないが、まあ、元D組にいる可能性も普通にあるんだし? あるんだし? 確認取れるとこから取ってこうって言っただろ?」
引田は顎に手をやると、しばらく考え込み――やがて、ああ、と手を打った。
「そこまでは考えてなかった、ってことか」
「真顔で解説すんのやめろ。嫌味か」
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