遼の気持ち 5

「ただいま」

「お邪魔します」

「……ただいま」


 そのまま流れで靴を脱いで上がってしまう。

 雄介さんにリビングへつながるドアを開けられ押し込まれる。


「やっぱり島村くんね!晩ご飯食べていってちょうだい!」

「いやそんな、悪いですって」

「今日はカレーだから問題ないわよ?」

「ほら詩織もそう言ってるしさ、上がって」

「お言葉に甘えて……」


 早速雄介さんに食卓に座らされる。

 雄介さんも向かい側に座って話を聞く体勢になる。

 優姫先輩はリビングのソファに座って携帯をいじっている。


「この前からどうなったのか聞いてもいいかい?」

「どうもなっていませんよ?」

「そこで嘘をつかない。放課後にデートなんて恋人以外しないだろう?」

「友達と一緒に遊んできた帰りですよ」

「なら優姫を送ってくる説明がつかない」

「っ………」


 出来れば言いたくなかったけれどここまで見破られてしまうと話すしかないか。


「優姫さんとお付き合いをさせていただいてます」

「素直でよろしい。それで恋人なんだね?」

「そうです」

「優姫に恋人か……父親として喜んでいいのかな」

「僕には何とも言えませんよ……」


 子供のいない僕に聞かれても答えられない。しかも自分の父親とはここしばらく顔を合わせていない。


「僕個人としては喜ばしいね。優姫が親離れだ」

「そういうことではないと思いますが……」

「まあそれは置いといて」


 置いとくのか。置いといていいのか……?


「優姫の依存癖はどんな感じだい」

「程度の話ですか?」

「そう」

「多分かなり依存されていると思います」

「そうか、寂しくなるな……」

「そういうわけでもないと思いますよ」

「……どういうことだい?」


 雄介さんは身を乗り出して聞いてくる。


「別に親への依存がなくなるわけじゃないと思うんです」

「そうかな?」

「少なくとも今の段階では親に頼らざるを得ないと思います」

「なんでだい?」


 雄介さんは怪訝そうな顔を向けてくる。

 僕はそれに苦笑しながら答える。


「僕が先輩に依存しているからです」

「…………なるほどね」


 これだけでわかってくれたようだ。

 先輩は――僕もだが――恋愛初心者だ。誰かに聞かないとわからない部分もたくさんあるだろう。そこで頼られるのが親や友達、というわけだ。


「なかなかいい関係じゃないか」

「そうですかね」

「まあ関係だとも思うけれどね」


 確かにそうだ。互いを思い合っている。決して切れることのない鎖で繋がれているみたいなものだろう。それか互いの手首を手錠で繋ぐようなものだ。


「まあ二人が合っているならいいよ」

「ありがとうございます」


 とにかく感謝だ。最初から言われていたとはいえ彼女の父親に認められたようなものだから嬉しい。


「それでさっきの気まずい空気は何だったんだい?」


 まさかそこまで聞かれるとは思っていなかったので表情が固まってしまう。


「喧嘩したわけじゃないんだよね?」

「そ、そうです」

「これだけは全く想像がつかなくてね。教えて?」


 あまり話したくはないがさっき嘘をついたばかりなので本当のことを言うしかない。


「ちょっとした暴走事故に巻き込まれただけですよ」

「暴走?優姫が?」

「そうです……」

「どういうことだ……?詳しく話して」

「簡単に言えば優姫さんがんです……」

「誘って……ああ、そういうこと……」


 雄介さんも察してくれたようだ。


「それで僕が断ったから」

「なるほどね。気にしないほうがいいよ」

「そうします」


「……でも優姫もそういうお年頃だよね」


 と呟いていた雄介さんは気にしないことにした。


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