遼の気持ち 4
「優姫先輩」
僕は部屋から出てすぐ、先輩と距離を取って声をかけた。
先輩の肩が跳ねてうつむいた顔をこちらに向ける。
「なに?」
「隣、座っていいですか?」
先輩が頷く。
僕も先輩も動きがぎこちない。
少し間を開けて腰掛ける。
「さっきのね……」
「はい……」
「忘れてくれるとうれしいかな……」
先輩が苦しく笑ってこっちを向く。
忘れられるわけない。あの姿は絶対夢に出てくる。
「わかりました、ちゃんと秘密にしておきますから」
「そうして……」
「…………」
「…………」
「ごめんなさい」
「え?」
「僕が情けないばっかりに優姫先輩の……」
「忘れて!本っ当に忘れて!」
先輩が僕にとびかかり、口を塞いで叫ぶ。
先輩の言う通りこの話題については黙っておくことにしよう。
「先輩やめっ、うわっ」
「きゃっ」
二人一緒に倒れこむ。
先輩が僕の上に落ちて動きを止める。
先輩の体は驚くほど柔らかかった。(全体的な意味で)
少し力を入れただけで折れてしまいそうなほど線が細い。
重要なことに抱き合うより密着して初めて気付く。
「ご、ごめん」
「こっちこそ……」
先輩が僕の上から離れ、僕も起き上がって座り直す。
「何か飲みますか、何がいいですか?」
「……冷たいの」
僕は立ち上がってキッチンへ。冷蔵庫を開けて麦茶を出す。
グラスに注いで戻って先輩に一つ渡す。
先輩はそれを一気に飲み干してすぐにグラスを返す。
受け取って僕も麦茶を一気に飲む。
頭まで一気に冷える。
ふと思い出して時計を見る。
6時40分。もうかなり遅い。
「優姫先輩、送っていきます」
「わかった」
いそいそと用意を始める。といっても制服を少し直してカバンを持っただけだが。
僕もカバンから財布と携帯と家の鍵を出してポケットに入れる。
「それじゃ行きましょ」
「うん」
~~~
あと一つ角を曲がれば先輩の家、というところまで来た。来てしまった。
家を出てからここまでの道中、全く言葉を交わさなかった。
気まずい。家で忘れると言ったもののどうしても頭をよぎって話しかけづらい。
角を曲がって先輩の家が見える。
そのまま並んでてくてく歩いていく。
先輩を見てみるがすぐに顔を逸らしてしまう。
その時背中に大きな衝撃を喰らう。
「どうした?カップル二人?」
後ろに立っていたのは雄介さん――先輩のお父さん――だった。
「雄介さん、驚かさないでくださいよ……」
「お父さん?」
「いや、二人があまりに暗い雰囲気だったからさ」
「そんなことないと思いますけど」
「正確には話せない雰囲気だった」
「なんでお父さんはそう察しがいいかな……」
「いいじゃないか。二人とも相手をうかがったまま黙っていたからね、すぐわかるよ」
やっぱり雄介さんには敵わない。
「せっかくここで再会できたんだから上がっていきなよ」
「そんな悪いですよ」
雄介さんは僕の肩を掴んで家まで押していこうとする。
「話したいこともあるんだ、お願いだよ」
そう囁かれてしまっては断るすべがない。
大人しく押されて香川家にお邪魔するのだった。
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