僕の平穏は…… 2

「それで今日はどこへ?」

「明日も明後日もあるから今日は買い物」


 今なんとおっしゃいましたか?「明日も明後日も」とか言ってませんでしたか?

 さすがに勘弁してください。間に一日くらい休ませてください。


「先輩、ちなみに明日と明後日の予定は……?」

「明日は水族館、明後日は映画かな」

「……キャンセルは」

「できません」


 仕方ないか。お嬢様に付き合ってこっちも楽しませてもらいますか。

 幸い今年は四連休だから最終日は休めるだろう。


「ほら、早く」

「わかりましたよ」


 行き先は駅前のショッピングモールだろう。



 ~~~



「こっちはどう?」

「そっちのパーカーのほうがいいと思います」

「こっちじゃダメ?」

「目のやり場に困ります」

「……どっちも買う」


 なんでそういう結論になった。


 先輩は早速服選びにかかった。どういうわけか僕に感想を聞きながら。

 恋愛初心者というかスタートラインにも立っていない僕にはとてもハードなミッションだ。

 どうにかを出さないようにしないと……。


「次のお店行くよ」

「はーい」


 これじゃあデートというより買い物に付き合わされている弟みたいじゃないか……。


 先輩は早速服を選び始める。今度はパンツ(ボトムスのほう)のようだ。

 手持ち無沙汰なので周りを見回してみる。

 男性用のものも売っているな。しかも春物売り切りセールだし。行ってみるか。


「先輩、僕もちょっと見てきます」

「わかった」


 パンツはある。でもジーパンばかりだったような……。

 チノパンツは買おう。色は……ベージュかな。

 上は今回はいいか。結構あるし。

 買って先輩のところへ戻ろう。


 店内を見回してみる。ささっと買い物は済ませたが移動しているだろうと思ったからだ。

 案の定先輩は移動していた。今度はスカートのようだ。


「先輩」

「買い物は済んだの?」

「はい。先輩はどうですか?」

「ミニスカかキュロット、どっちがいい?」

「なんでまたそんな露出が多いんですか……」

「私、細いから。見せないと」

「何ですかその使命みたいな言い方は」

「実際似合うからいいじゃない」


 そこまで言われると反論できない。

 確かにワンピースから覗く足は細く白い。

 見せても恥ずかしくない魅せられる脚、ってことか。


「それでどっち?」

「キュロットですかね」

「どうして?」

「ミニスカだとあざといからです」

「そう」


 先輩は笑ってミニスカを戻し、会計に向かった。

 僕もついていくことにする。


「お預かりします」

「はい」

「彼氏さんですか?」

「違いま――」

「そう見えますか?」


 なんでそこで嬉しそうに言う。そして割り込むな。肯定するな。


「はい。お二人はお似合いです」

「ありがとうございます」

「…………」

「こちらお品物です」


 先輩がとる前に先に受け取る。

 先輩が不思議そうな目を向けてくる。


「荷物持ちくらいさせてください」

「やっぱり島村くんは気が利くね」

「……褒めても何も出ませんから」


 店員さんは口を押さえて笑っていた。

 僕らは顔を見合わせる。


「本当にお似合いですね。ありがとうございます」


 そう言って店員さんはまた笑った。



 ~~~



「先輩、あそこでなんで否定しなかったたんですか」

「私、肯定もしてないよ?」

「そうですけど……」

「まあ、付き合ってないけど――」

「まだとか言わないでください」

「島村くん、私と付き合いたくないの?」

「先輩ほど面倒くさい女の人はいないと思いますよ?」

「照れないでよ」

「照れてません」


 僕は取ってきたジュースに手を付け、会話を絶った。

 さっきの店を出たところでちょうどいい時間になったのでファミレスに入ったのだ。

 そして今、ドリンクバーでジュースを取ってきて注文したものを待っている。


「私がなんで島村くんに構うかわかる?」

「秘密を漏らされないようにするため」

「それもある。でもそれ以上に私は貴方に興味を持っている」

「…………」

「ほとんど毎日私は島村くんの血をもらってるけど島村くんにはメリットがないでしょ?」

「そうですね。ちょっぴり痛いです。僕に被虐性癖はありませんし」


 先輩は薄く笑った。

 僕は顔に出さないように語りを進める。


「そこまでは言ってないけど――」

「逆に聞きます。どうしてこんな人間に構うんですか?」

「……え?」

「わかってると思いますけど、僕は貴女の心理を視て、読むことができる。でも心理を理解できても感情はわからない。僕に向けられるそれは感情だから僕には読めない」

「…………」

「最初、先輩は僕のことをわかっていなかった」

「そうね。無差別だった」

「なのにどうして無理やり心を開くようなことをする奴に興味を向けるんですか?」


 努めて冷たく言い放つ。自分でも鋭すぎると思った。

 でも先輩は笑って平然と投げ返してきた。


「貴方のせいだよ?家にまで来てやらかすほうが悪い」

「……僕の読み違いですか。僕もまだまだですね」


 僕は苦笑を浮かべて上を向く。

 足掛け五年になるけど修行が足りないか……。


「もらうね」


 先輩が僕のグラスを攫って口を付けた。


「欲しいなら自分で取ってきてくださいよ」

「あっち混んでるしそんなにいらないし。はい」


 はいって、渡されても困るんですけど。

 しかも先輩、あの笑顔だし……。なんですか挑発ですか?


「僕は地雷踏みが趣味らしいんで」


 そう言い訳してジュースを飲んだ。

 先輩は少し頬を赤めて笑った。


「間接キス、しちゃったね?」


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