2話 休日も先輩づくし
僕の平穏は…… 1
ゴールデンウィークがやってきた。
五月初めの大型連休。高校生にとって夏休みと同等に扱われるほどのオアシス。
ある人は新しい友人と遊びに出掛け、ある人は短期バイトで懐を温め、ある人は家族と遠出をする。
「連休明けにテストがある」という事実には目をつむり、思い切り楽しむ人が多い。
そんな連休初日、僕は何をしているのかというと……。
僕は食卓にコーヒーを置き、自分の席に座りながら文庫本を手に取った。
青いブックカバーからはみ出す栞の紐を目印に本を開く。
しばらく物語に入り、読みふける。
手を伸ばし、マグカップを掴んで文章から目を離さずにコーヒーを飲む。
自宅で本を読んでいた。
しかも朝から、コーヒーを片手に。
自分でももったいない時間の使い方だとは思う。
でも金銭的問題はないし、遊びに誘ってくれる友達もいない。(達也は桜に連れまわされるから遊べないだろう)
うちの家族は旅行などにはあまり行かない。昔は休みごとに連れて行ってくれたが。
まあやることが他にないので買って読んでいない本を消化しているのだ。
他にやることがないのだから仕方ない。うん。
枯れていると言われればそうかもしれないが、そこはあえて反論したい。
僕は疲れることが苦手なのだ。
さらに老人臭いような気がするが、気にしない気にしない……。
言い訳をしまって、本を読み進めようとしたとき携帯が震えた。
一回、二回、三回……。電話か。
端末を手に取り、画面を見る。
080ではじまる知らない番号が表示されている。
少し迷ったが電話をつなげる。
「もしもし」
「もしもし、島村くんですか?」
「……香川先輩」
少しこもっているが先輩の声だ。間違えようがない。
でもなぜだ。僕は先輩に電話番号までは教えていない。
「驚いた?」
「一体どこで僕の電話番号を仕入れたんですか?」
「ひ、み、つ」
そういうことを耳元で言わないでください……。
「それよりどうしたんですか?電話までかけてきて」
「今から時間ある?」
「へ?」
「だから今から時間をとれるかって聞いてる」
「それって……」
「デートしましょ?」
斯くして僕の休日に予定が発生した。
そして耳元でそんなことを言われた僕は死んだ。
~~~
十一時に集合と言われていたが三十分前に集合場所に来ていた。
決して張り切り過ぎではなく、女性を待たせるなんて無粋な真似をしたくないだけだ。
電話をもらったときに読んでいた本もある。待つのは苦にならない。
さて先輩はいつ頃来るかな?
「お待たせ」
十五分前。早い、律儀だ。
僕は本を閉じ、鞄にしまって先輩に目を向ける。
白のフリルのついたワンピース。髪はポニーテールに結っている。
学校の時は結わずに流しているのもいいが結っている時もいい。
「早かったですね」
「島村くんのほうが早かった」
「女性を待たせるなんてできませんよ」
「……島村くんも気障なことを言うのね」
「たまにはね」
自分で言っていて恥ずかしくなった。左手を首に当てて横を向く。
すると先輩が開いている右手を掴み、こちらに笑いかける。
「行きましょ?」
「は、はい」
先輩、不意打ちで笑顔はずるいです。
「先輩、身長どのくらいですか?」
「155センチ。島村くんと変わらないね」
「身長欲しいです……」
「あんまり大きいと困る」
「何でですか?」
「不意打ちで噛みつけない」
「外ではやめてくださいね!?」
「仕方ないか……」
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