孤独は二人で 1
先輩はそれからしばらく僕に縋り付いていた。
それが可愛くて、学校の先輩からは想像出来なくて、壊れそうだった。
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「先輩、早速質問いいですか?」
先輩が頷く。
「先輩が今までやったのは何人くらいですか?」
最初からちょっと意地悪な質問をしてみる。でもこれで先輩の孤独が少しわかる。
「わからない。多すぎて」
わからなくなるほど多くの傷をつけて、それを消してきた。想像しただけでも悪寒がこみあげてくる。
傷は消えても、傷を与えた事実は消えないのだから。罪悪感は消えないのだから。
先輩はずっと一人で抱え込んできた。
そういえば親には話したのだろうか?
「先輩、そのこと家の人には……」
「言った。けど仕方ないって」
先輩の顔がさらに下がる。
吸血鬼だから血を吸わなきゃ。みたいな感じかな。
「先輩は、吸血鬼は、どうやって生きていくんですか?」
少し声を明るく作って言う。
「どうって?」
「主に食事とかです」
先輩は少し考えて口を開いた。
「先に私の生い立ちを話す」
僕は口を挟まない。
「簡単に言えば私は吸血鬼と人間のハーフ。お母さんが吸血鬼」
「……」
「吸血鬼には増える方法が二つある。眷属を作る方法と子供を授かる方法」
先輩はどっちだ……。
「私はお母さんとお父さんの子供。二つ目の方法で生まれた」
ちゃんと血のつながった親子だったのか。良かった。
「もう一個、吸血鬼の特徴について」
「銀とニンニクが苦手、とかですか?」
「それもそう。あと私たちは寿命が長い」
それで先輩のお母さんはものすごく若かったのか?
「成熟すると老いが人間より緩やかになる」
「成長が遅いわけではないんですね」
先輩が頷く。
「そして日光に弱い」
「でも先輩は――」
「私はちょっと痛いくらい。日焼け止めを塗れば大丈夫」
日焼け止め、こんなところでも使えるのか……。
「それで先輩の食事は?」
先輩が僕から少し目を逸らした。
「血を飲まなくても生きていける」
じゃあ僕が血を吸われたのは……。
「でも血は美味しい。我慢できない」
……人間はたくさんいる。つまり血もたくさんあるってことだ。我慢できるはずがない。
僕だって目の前にご馳走があって食べてもバレないなら食べるだろう。それと同じだ。
確かに仕方の無いことだと思う。本能に抗える人間はそんなにいない。でも先輩は半分は人間だ。同じ人を傷つけることを苦痛に感じているだろう。
先輩の手が震え始める。
「最後に一ついいですか?」
先輩は顔を見せずに頷く。
「眷属は作りましたか?」
先輩の息が一瞬止まった。
先輩は何も言わずに首を振る。
「先輩、大丈夫ですか?」
「…………じゃない」
「え?」
「……大丈夫じゃない!」
先輩が僕に飛び掛かりマウントポジションをとる。
あまりの速さに頭を床にぶつける。
「なんでそうやって私を虐めるの?」
先輩は僕の胸倉を掴み、揺さぶる。
涙とともに床に叩きつけられる。
「味方だと思ったのに!一緒に背負うって嘘だったの!?」
「嘘じゃない。うっ……やめ……せんぱい」
僕は先輩の手を掴み、止めようとする。
「大人しくして!」
先輩が涙目で僕を睨み、『魅了の眼』を使う。僕の動きを止められる。
「せんぱい………」
「貴方なんて……!」
そう言って僕に噛みつく先輩。
「いいですよ、殺されても。先輩になら」
先輩の動きが止まる。
「先輩は僕だけが知っていますから」
「えっ……?」
「だから傷は残してください」
先輩は僕の首から口を離し、僕の目を見る。
「僕を先輩の特別にしてください」
僕は自由になった両手を先輩の体に回し、自分に引き寄せた。
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