孤独は二人で 2

「島村くん……血が…………」


先輩が口を離したが止血はしていない。でもそんなに大量に流れてるわけではないと思う。


「先輩に殺されるなら本望だって、言いましたよ?」

「でも、止めないと――」

「死んでもいいけど先輩を一人にするのはよくないですね」


だんだん力が抜けてくる。先輩が僕の腕を振りほどいて首を舐める。

先輩はもう一人では生きていけないんですから――――



~~~



「一日に二回も失血したら血が足りなくなるってわかってたんでしょ」

死んだように眠る島村くんの頬を突いてみる。

まったく、女の子の部屋に来て寝ちゃうなんて何されてもいいってこと?


「散々人の心に触っておいて」


変わらないわけないじゃない。私だって年頃の女の子なんだよ?

目に溜まっていた涙を拭いてまた島村くんの顔に触れる。


「かっこいいこと言ってくれるじゃない」


こっちの心臓がもたないくらいだよ。

私の心の中では彼は殺すべき人間ではなくなっている。殺す勇気なんてなかったけど。


「貴方は私の何?」


知り合い?先輩?友達?

多分どれも当てはまらない。心を寄せあった関係なんて夫婦でもなかなかないかもしれない。

でも心を盗まれちゃったら身はついていくしかないんだよ?


「生意気」


そう言って私は彼の唇に――――



~~~



「先輩のせいで今日は眠れませんよ」

「な、何を言ってるの!?」

「異性の首に歯を突き立てるんですよ?彼氏彼女でもこんなことしないですよ?」

「あら、上でどったんばったんやってると思ったらそういうことだったのね?」

「お母さんまで!」


これだけで先輩の顔は真っ赤だ。


先輩の部屋で気絶した後、何故か先輩はすぐには起こしてくれなかった。

結局一時間ほど放置(毛布をかけてくれていたが)された後、自然と目が覚めた。


「僕が寝ている間に何か悪戯でもしたんですか?」

「……何もしてない」

「ゆきちゃん、嘘はよくないわね?」

「寝込みを襲われてしまいましたか…………不覚」

「襲ってないから!」

「ゆきちゃん、悪戯はしたんだ?」

「………」

「先輩!そこは否定してくださいよ!」


先輩は俯いたままお茶を飲んだ。

前髪が目にかかって先輩の表情が見えない。


「そういえば僕が起きた時、先輩そばにいましたよね?」

「そ、それは……」

「しかも僕を枕にしてましたよね?」

「ええと……」

「あら、ゆきちゃんやるわね」


お母さん、感心してないで先輩をどうにかしてください……。

先輩も僕に何か悪戯したんですね……。


ちなみに今は香川家の四人掛けの食卓に座っている。

お母さんがお菓子やお茶を出してくれたのでそれをつまみながら体力回復をしているのだ。起きてすぐの時は少しふらついて歩けなかった。


「何もしてないとは言わせませんよ?」


隣に座る先輩に少し顔を寄せ、笑顔で訊ねる。


「教えない!」


先輩はツンとしてお菓子をお茶を口に入れていく。

へそを曲げてしまわれた。


「じゃあ僕はそろそろ帰りますね」


時間も結構経ってしまったし先輩も不機嫌そうなのでちょうどいい。

いそいそと準備を始める。といっても学校からそのまま来たので鞄くらいしか荷物がない。


「島村くん、夕ご飯食べていかない?」


お母さんが訊ねてくる。でも僕は首を振る。


「ありがとうございます。でも今日は遠慮しておきます」

「そう、今度は食べてね」


先輩は何も言わずに手を振ってさよならを表す。

ちょっとしたイベントもあった香川家を跡にして自宅へ向かった。


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