予期せぬ展開 5
羨望、嫉妬、微笑み。あらゆる眼差しを向けられながら僕は引きずられていく。
僕を睨まないでください……。
「先輩、どこに行くんですか?」
今更、行き先を教えられていないことに気付く。
「私の家」
先輩は何でもないように言う。
「えっ、今、なんて言いました?」
「私の家」
「行き先の話をしてるんですよ?」
「だから今から行くのは、私の家」
いやちょっと待って。先輩の家に行くの?僕が?
「そんな恐れ多いことできません!放してください!」
「ダメ」
絡められる腕を振りほどこうとすれば胸に当たってしまいそうなので強く抵抗できない。
八方ふさがりだ……。もう切る札がない……。
僕はなすすべなく、引きずられていった。
~~~
――香川先輩宅、玄関前。
「本当に入るんですか?」
僕は最後の抵抗を試みた。
「ほら、早く上がって?」
走って逃げだすこともできるだろう。でも先輩の家の見てみたいという期待と明日以降学校で顔を合わせた時のことを考えたら、抵抗はできなかった。
諦めのため息をつき、大きく息を吸い込んで玄関の中へ踏み込んだ。
「お邪魔します」
「ただいま」
「おかえりなさい。あら、お客さん?」
上がってすぐ、綺麗な女の人が出てきた。二十代半ばくらいだろう。香川先輩のお姉さんかな。ちょっと年の離れた。
「お邪魔します」
もう一度、お姉さんに向かって言う。
「ゆきちゃん、男の子なんて連れ込んで、どうしたの?」
お姉さんがニヤニヤしながら先輩に尋ねる。
「何でもない、お母さんは黙ってて」
お母さん!?見た目絶対二十代だけど?本当に?
「お母さんなんですか?先輩の?」
そう言うと先輩のお母さんは微笑んで
「正真正銘、ゆきちゃんの実の母ですよ?」
と言った。
絶句した。それはもう十秒近く黙り込んだ。
「どうかしました?そんなに母親らしくないかしら?」
「お母さんは年齢のわりにきゃぴきゃぴしすぎ」
確かにそうだ。仕草が若すぎる。
「ほら、行こう」
先輩が僕の手を引き階段を上る。
「お茶持っていくわね」
「いらないから。来ないでよ」
先輩のお母さんは笑い声を堪えていた。
〜〜〜
階段を上ってすぐにある部屋が先輩の部屋だった。
「入って」
先輩がドアを開け、ちょっと不機嫌そうな声で言う。
「失礼します」
少し緊張して先輩の部屋に足を踏み入れる。
先輩も部屋に入り、後ろ手にカチャと鍵を閉めた。
「なんで閉めたんですか!?」
「邪魔されたくないから」
先輩は少し俯き小さく呟く。
初めて見る先輩の仕草に少しドキッとする。
これじゃあ逃げられないな......。
諦めて僕は肩の力を抜く。
「座って」
そう言われましても、椅子は無いし机の回る椅子も一つしかないし......。僕は床(カーペットが敷かれている)に座る。
先輩も僕の前に正座で座った。
先輩が息を吸い、僕の目を見る。
「今日、家に連れてきたのはちょっと話があって......」
「はい......」
「単刀直入に言う」
「はい」
「わかってると思うけど、私、吸血鬼なの」
先輩は僕から全く目を逸らさずに告げた。
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