第9話「ルナ先生の魔法教室」

「これから魔法について基礎から教えます!しっかり聞いてくださいね!」


テトの小屋から出てすぐにある少し開けた平野に俺たちはいた。

声の主のルナはどこから出て来たのか分からない黒ぶちメガネのブリッジを人差し指で偉そうに持ち上げながら、胸を張って俺とテトに言ってきた。


「まずは『魔法』という単語から説明するわね。『魔法』っていうのは生きとし生けるもの全てが自らの体内に宿す《魔力》というエネルギーを放出・具現化して、現実に超常現象を起こす、素晴らしい現象なの。」


そのくらいは知っているさ。と内心で言いつつ、しかし教えてもらう立場なので口には出さずに先生の次の言葉を待った。


「そして魔法にはそれぞれ種類があるの。これが《属性》というものよ。属性は全部で10個あるの」


「へぇ、魔法には属性ってのがあるんだ。因みにどんな属性があるんだ?」


少しカッコいい単語が出て来たので、俺は少し興奮してルナに聞いた。


「そうね。基本は四大元素の【火・水・風・大地】の四属性があるわ。火は熱を操るの。他にも炎を放出することもできるわ。水はその名の通り水を操るわ。テトちゃんお得意の回復魔法ヒールは水属性ね」


「テトの回復魔法ヒールは水属性だったんだな!テトは知ってたのか?」


「当たり前だろ?そんなのも知らないで魔法なんて使えるわけないじゃないか」


「あ、あぁ。そうか、そうだよな。アハハ」


当たり前のことを言われて自分の頭の悪さが少々恨めしいと思ったが、ルナがコホンと咳をしたので、ルナの話を戻る。


「次は風。風は空気を操るの、強風を吹かせたりできるわ。そして大地、これは土や植物を操ったりできるの」


四大元素、火・水・風・大地。と、頭の中でメモを取り、ふと思ったことを手を大きくあげて質問した。


「ルナはどの属性を使えるんですかー?」


「うむ。いいことを聞きました!ふふ、聞いて驚きなさい!私は四大元素の四属性は全て使えるわ!」


「す、すべてだぁ!?」


つまりルナは四属性を使いこなすということになる。かなり予想外の答えで、この子本当に何者なんだろうと改めて思う。

と考えていると、再び質問を。今度はテトに聞いた。


「テトはどうだ?」


「ボクは四大元素の水と、あとは氷が使えるよ〜」


氷?そんな属性があるのか?と首を傾げ、視線でルナに問いかける。それを察したのかルナは続けて教えてくれた。


「そう。四大元素の四属性の他にも、特殊属性と言って【氷・雷・毒・力】という四属性があるの。氷は水属性を使える人のほとんどが使える属性ね。水属性の魔法で操る水を凍らせて氷にする魔法よ」


「へぇ、氷かぁ。なんだか寒そうだなぁ」


「ふふふ、そうね。そして雷は空から雷を降らせたり、敵を麻痺させたり。難しい話になるけど、磁力って言って。物と物をくっ付けたりできるの」


ん?磁力ってなんだ?と、また新しい単語が出て来たので眉を眉間に寄せて頭の上にはてなマークを添える。そんな俺を見てルナは補うように言った。


「ま、まぁ。特殊な魔法だから、使える人はあまりいないんだけどね。そして毒属性。これは、敵に状態異常を起こす属性ね。雷属性みたいに敵を麻痺させたり、毒で人を...なんてできる魔法よ。使うのはだいたい暗殺者アサシンとか、そんな人達よ」


惨酷な属性だなと感じ、少し嫌な気分になる。するとルナが続けた。


「そして力属性。これもまた他より少し特殊な属性ね。敵に対して発動する魔法じゃなくて、主に味方の筋力等を底上げする属性の魔法よ」


「へぇ、そんな事が出来るんだ!便利だな!」


「当たり前でしょ?魔法は人類が生み出した知恵そのものなんだ。便利じゃないはずがないさ」


またしても当たり前のことをテトに言われて、グサッと言葉が腹に刺さった気分だ。


「ていうか、テトはなんでよく知っているんだ?」


「お祖父様から教えてもらったんだよ。ボクのお祖父様はボクたち獣人族の村の長でね。色々知っていたから、小さい頃にたくさん教えてもらったんだ」


「へぇ、そうなんだ。火水風大地、氷雷毒力...あれ?まだ8つしか出てないぞ?」


「よく気付いたわね!そう、今教えたのは四大元素の基本属性と特殊属性の8つ。そして残りの2つはとても珍しくて、あまりメジャーな属性ではないわ」


「どんな属性なんだ?」


「神創属性。そう呼ばれているわ」


「神創...。どんなのだ?それは」


よく分からない単語が再びルナの口から発せられ、首を傾げて質問する。


「基本属性と特殊属性は人間の知恵の結晶。つまり私たち人間が創り出した魔法なの。だけど、神創属性は違う。文字通り、神が創ったと言われる魔法よ。その2つの属性は【光】と【闇】」


「光...」


光と聞いてアイルは11年前の炎の夜、自分とアリーを助けてくれた銀髪の青年の事を思い出す。銀髪の青年は片手に光の剣を構え、敵を斬っていた。そして彼の使っていた剣は今、アイルの家にちゃんと置かれている。が、未だに抜刀できていない。

などと考えていると、ルナは話を続けていた。


「うん、光属性は光を司る属性よ。発光したり、光を屈折させたり。他には幽霊系アンデットの魔物などに有効打を与えることの出来る属性ね」


「へぇ。そんで闇ってのは?」


「闇属性は光の対の属性って言う感じかな。逆に光を奪ったりするわ。でも、この2つの属性は本当に希で使える人はほとんどいないって話よ」


「なるほどなぁ」


ふむふむ。と10個の属性を頭の中で整理したアイルは腕を組んで、またルナに質問。


「それで、その属性ってのはどうやって確認するんだ?」


「自分の魔力に聞いてみるのさ」


静かだったテトが耳をピクピクさせながら言ってきた。魔力に聞くって言っても、どうしたらいいのか分からない。という表情を浮かべていたら、それを察したのかルナがアドバイスをくれた。


「こう、なんていうんですかね。目を閉じて自分の体の内側に1つの器をイメージするんです。その器にアイルの魔力が入っているの」


そう言われて、目を閉じ、言われたように想像してみる。体内にある1つの器、その中にある魔力。


「そしてその魔力に意識を集中するんです。絶対に意識を逸らさないで。大怪我しますよ」



(大怪我!?そういやさっきそんな事言ってたな。いかん、集中せねば)

身体の力を抜き、リラックスした状態で全神経を器に集中させる。


「そして、心の中で問いかけてみてください。自分が何属性なのか」


そして俺は自分がどの属性を使えるのか聞いてみた。


『器、俺の属性を教えてくれ』


問いかけた瞬間、器が白い光を放ち始めた。体が痺れる様に熱い。


その時だった。


『光の子よ。汝のその意志は本物か』


響く様な低い声はそう言った。まるで意識に直接話しかけている様だった。なんの話をしているか分からなくて、アイルは問いに問いで返した。


『意志ってのはどういう意味だ?もしかして、俺の大切な人を守りたいって言う気持ちの事か?』


『そうだ、光の子よ。その器、汝に相応しいかどうか見極めるのだ。さあ答えよ。汝のその意志は本物か』


姿は見えない。しかし、なんだか凄い威圧を感じる。そもそも誰なんだ?と考えてアイルは答える。


『あんたが誰だかは分からないけど、俺のこの気持ちは本気だ。決して揺るぎはしない。あいつに、誓ったんだ。もう、大切な人を奪わせないってな』


キッパリと言ってやった。見極めるだなんだか知らないが、自分の気持ちは本物だと主張した。すると、


『そうか。ではその力、汝には些か膨大すぎるかも知れぬが、それも試練だと思え。そして見せてみるがいい、汝の意志と出した答えの行く末を』


そして器の放つ光で意識が真っ白に染められた時、ゆっくりとまぶたを持ち上げる。語りかけてきた奴は何だったのかは分からなかったが、今はいいかと思った。

いつの間にか横になっていた俺は状態を起こした。

なんだか、バチバチという音が聞こえると思い痺れのある左手を見てみる。

すると


「な、なんだこりゃー!」


自分の左腕の肘から指先にかけて、周りに電気がバチバチと流れている。少し痺れる感覚があるが徐々に慣れていき、平気になったところでテトが話しかけてきた。


「どうやら、雷属性らしいね」


「ですね、おめでとう!アイル!あなたは雷属性を司るのよ!」


「雷かぁ...」


火や水などの四大元素の基本属性を期待していたので少し落ち込む。が、これでようやく魔法が使えるかもしれないわけだと考えると、やっぱり嬉しくなった。


「雷属性だと、放電や帯電などができます。基本の魔法は雷銃サンダーボルトですね。魔法の使い方は明日にでも教えますね。今日はこれでおしまいです」


ええー、と子供の様な反応をしたがルナは今日は駄目と頑なだったので諦める事にした。

が、器に問いかける時に聞こえた声についてルナに聞いてみた。


「ルナ、器に聞いている時、誰かが話しかけてきたんだけど、誰か分かるか?」


テトと2人で小屋に戻ろうとしていたルナを呼び止めて聞くと、ルナは不思議そうに短く言った。


「いえ?器とはアイル自身ですので喋りはしないですし、あの時私とテトちゃん以外だれもアイルに話し掛けてはいないですよ?」


何だったんだろうと思い、話を続ける。


「なんか、意識に直接問いかける様な声で、光の子よ、汝の意志がどうとかって言っていたんだけど」


するとルナは右手の人差し指を顎につけて、ンーと唸りながら考えて答えた。


「なんでしょうね。私でも分かりません」


「そうか」


ルナにも分からないなら仕方がないと考えるのを諦めた。が、何か大きな存在に話しかけられた様な気がして、やっぱり気になる。


「それよりルナ、小屋にクッキーがあるんだけど、一緒に食べるかい?」


テトがそう言うと、ルナは目を輝かせて「是非!」と言ってルナとテトは小屋に戻って行った。



その時微かにルナの手首につける光玉の宝石が光っている様に見えたのは気のせいだろうか。

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