第8話「至福のモフモフ」
「ふんっ!ふんっ!ふんっ!」
ちょうど日付けの半分が経過した昼。俺は家の庭で剣の鍛錬をしていた。
ルナが現れてから一日が経過した。俺とアリーはルナの体調を気遣いながら過ごしたが、体は本当に良くなったようで今ではアリーの家事の手伝いで料理や洗濯をしている。アリーはやらなくていいと言ったが、ルナ曰く
『いえ。えっと、お世話になっているので、このくらいはさせてください』
という本人の意志で、ルナは現在俺からすこし離れたところで洗濯物を干している。
だか、やっぱり謎な子だ。森の中から突然出てきたし。誰かに追われているって...
「ねぇアイル。どうしたの?そんなに見られちゃ、困っちゃうよ?」
「ふぇ?あ、あぁ、すまん!少し考え事をしていたんだ」
謎の少女ルナ。魔物の住む森から無防備な姿でアイルの前に出てきてそのまま意識を失った。その容姿は凛として華々しいく、肌は透き通るように白い。艶のある長い黄金色の髪を風になびかせ、小さな顔には整った鼻・口・金色の目を輝かせている。その儚くも美しい姿を見た時に、アイルは少しドキッとした。
そして手首に宝石のはめ込まれたリングをつけている。
初めて会った時この子がとても美しく見えていたアイルは、正直彼女を直視するのは難しい事だった。
「それよりアイル。一つ聞きたい事があるんだけど、いいかな?」
「あ、あぁ。うん、なんだ?」
「実はまだ意識を失う前後の記憶が曖昧なんだよね。確か魔物に追われて森を逃げていたはずなんだけど、途中で誰かを見つけて、助けを求めたら意識を失っちゃって。起きたらあなた達の部屋で」
ルナは俯きながら言葉を続けた。
「だから誰が助けてくれたかが分からないの。もしかして、だけど。アイルが私を助けてくれたの?」
俯いていたルナは今度は上目遣いで俺に聞いて来た。
おいおい、こんな目で見られたら答えようにも口が動かなくなっちゃうよ。
顔が赤くなるのが自分でも分かったので、バレないように目線を逸らし言った。
「そうだよ。君、本当にぼろぼろで見てるこっちも辛かったんだ。だから急いで知り合いの所まで連れて行って、傷を治療したんだ」
「そっか。私、助けてくれたのはアイルだったんだ...。よかった〜」
ぱぁーっと耀く笑顔でルナはそう言った。
「あぁ、俺も君が無事でよかったよ」
「も〜。君じゃなくて名前で呼んほしいな」
なんなんだこの子。多分無意識なんだろうけど、可愛い...
「分かった。そうだルナ、良かったら知り合いを紹介しようか?ルナの傷を治してくれた人だから、ルナが無事だった事を知らせたいんだ」
「わぁー!うん、紹介して!是非お礼をしたいな」
という事で俺とルナはアリーに「テトの所に行ってくる」と一言告げてテトの小屋へと向かった。
「おーい、テト〜。いるかー?」
俺達は数分歩いて村のはずれにある煙突付きの小屋に到着した。
煙突から煙が出ているのでおそらく作業中かな。俺の剣の整備してくれたかなー。などと色々考えていると扉が勢いよく開いた。
「はーい、いるよー」
出てきたのは三角の耳を頭にちょこんと乗せたテト。作業の途中だったのか、服は汚れて頰も黒く汚れていたが、シッポはフリフリして元気だった。
小さな獣人さんは三角耳をピクピクさせながら挨拶をしてきた。
「やぁアイル、この間ぶりだね。今日はどうしたんだい?」
「よっす、テト。俺の剣はどうなったかーってね。そろそろ修行行きたいし。それと、この子を紹介に来たんだ」
「む?この子って誰だい?」
「いや、こないだテトが傷を治してくれたおんなの...こ」
そう言って後ろを振り向くとルナはいなかった。あれ?と少し嫌な予感がして、テトの向きに振り返る。
「おっかしいなぁ〜。さっきまで一緒に居て、話してたんだけど...っ!」
振り返るってテトを見ようとしたその時、テトの後ろに目を光らせ、襲い掛かる熊のように手を大きく広げた金髪の少女がいた。
そう理解した刹那。
「ふにゅっ!な、なんだ!なんなのだ、ひゃんっ!」
「わぁー!何ですかこのモフモフは!凄く気持ちよくて、可愛い!」
テトに襲い掛かったルナはテトの三角耳を指でモフモフしているではないか。
とても興奮しているご様子で、その姿は第一印象とは似つかぬ腕白な子供のようだった。
対するテトは、耳を摘まれて凄く驚いている様子だった。
「あぁ、可愛い。気持ちいい。ずっとモフモフしていたい。あぁ、幸せ〜」
「誰だお前!や、やめろぉー!ひゃっ!アイルも、見てないで止めてくれよぉ。きゃっ!」
テトは可愛らしい声を度々あげながらアイルを睨んできた。
いやぁ、女の子達の戯れってのは萌えるなぁ。などと考えていたアイルは、はいはいと言ってルナを引き剥がした。
「こら、ルナ。そろそろ止めろ。嫌がってるだろ」
こつんとルナの額を叩き、痛い!と言いながらルナは蹲った。
「ごめんな、テト。びっくりさせて。この子はルナ。この間連れてきた子だ」
そう言って再びテトの方へ振り返ると、テトまで耳を抑えながら蹲っている。
アイルを挟んで2人蹲る様子に苦笑しながら、2人の頭をトントンと叩いた。
「大丈夫かー?」
「「だだだ!大丈夫!」」
素晴らしいシンクロだ。きっとこの2人は仲良くなるだろう。
ううぅ、と唸りながら2人はやっと立ち上がった。
「は、はじめまして。ルナと言います。あの、あなたが私の傷を治してくれたんですよね?本当に有難う御座います。あと、さっきはいきなり驚かせてごめんなさい」
先程の暴れっぷりとは全然違う雰囲気になったルナは、丁寧に挨拶と謝礼をした。
「あ、うん。ボクはテトラスです。みんなにはテトって呼ばれてます」
警戒した様子だったテトは彼女の態度を見てからか、少し気を許したように話した。
「しかし、ビックリしたよ〜。いきなり耳を触られるんだもん。別に触らせてもいいんだけど、触りたいときはボクに言ってよね?」
「うん。わかった!」
2人は目を見合わせ、ニッコリと笑顔を浮かべ握手を交わした。
「ルナ、傷はどうだい?ボクの魔法で応急処置はしたけど」
「傷ね。完璧に治ったよ!」
場所はテトの小屋の中。作業場とは違う部屋の居間の机に椅子にそれぞれ腰をかけて話している。
テトは3人分の水を木製のコップに注いで、その内の自分の分を一気に飲み干して聞いてきた。
「そうかい、それは良かった。
自慢気にテトはそう言った。
「へぇ!テトちゃんも魔法が使えるんだね!」
「も?って事は、ルナ、君も使えるのか?」
水を飲んでいたアイルは驚いて吹きそうになるのを堪え、聞いた。
「え、うん。使えるよ〜」
「じゃあさ!魔法!教えてくれよ!」
目をキラキラ輝かせながらアイルは頼んだ。
幼い頃からテトの魔法を見てきて、自分も使いたいとずっと思っていたのだが。
「うーん。難しいよ?」
「構わない!」
「大怪我しても?」
「大丈夫!テトが治してくれるから!」
「おいおいアイル。ボクを便利に使おうってかい?まあ、君の頼みならボクは構わないよ」
はぁ〜と息を吐いて数秒考えたルナは、アイルに向き直った。
「分かった!じゃあ私がアイルに魔法をレクチャーしてあげる!」
そうしてルナによる魔法教室が開催されるのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます