第7話「はじめまして」

目覚めの感覚は突然にやってくる。

どこか彼方を彷徨っていた意識がグイッと現実に引き戻され、体の感覚が徐々に、ハッキリと戻る。

私は、何をしていたんだっけ?まだ完全に覚醒してない意識の中必死に記憶を辿る。

確か、追われてて。それで、、それで。


「いやぁぁぁぁあ!!」


「ぐはぁっ!」


魔物からずっと逃げていた事を思い出した私はベットから飛び起きると、額で鈍い音をならして何かにぶつかった。何かにぶつかったのだろうか。

どうやら私はどこかの部屋のベッドに寝かされていたようだ。

完全に目覚めた私は部屋を見渡した。部屋全体は大して広くはないが、タンスにベットに机と鏡しかなく、スペースがかなり空いている。私が寝かされていたベットは部屋の端にあり、すぐ横には窓が貼られてある。そこから差す太陽光は清々しく、今までの記憶がまるで夢のような気分にさせてくれる。


「そうだ私は、あれからずっと逃げ続けて。そしたら人をつけて、助けを求めて...それで」


はっ!と思いついた私はベットから出て部屋の扉を勢いよく開く。すると今度は先程私が眠らされていた部屋の何倍かある部屋が広がっていた。おそらくリビングかな。


「あれ?あなた起きたんだね」


可愛らしい女の子の声が耳に入ったので、声の方向に視線を寄せた。するとそこには華奢な体つきをして小さな顔にクリッと大きな澄んだ青の目を付けた、内まき赤髪の可愛らしい女の子がいた。髪にリボンとアホ毛付けて、ゆる可愛い服の上からエプロンを着ている少女は、キョトンとしている私のそばまで寄ってくると「どうしたの?」と聞いていた。


「あ、はい。体調はだいぶ良くなりました。私を助けてくださり、ありがとうございます」


「そっかー、良くなって良かったよ!ここに運ばれた時なんて凄く苦しそうだったからね〜」


「本当に、本当にありがとうございます」


「あぁ、いいのいいの。御礼なら私じゃなくてあのバカおにぃにしてあげてちょうだい」


そう言って少女は先程まで私の寝ていた部屋のベッドを指差した。今度は彼女の指の方向を視線を寄せると、横に倒れている一人の男性がいた。


「いっててて...。」


「おにぃー?大丈夫ー?」


少女がそういうと男性は手を上げて「大丈夫」というように返事をした。


「あっ!何かにぶつかったと思ってましたが、もしかして私が飛び起きた時にぶつかったのでしょうか?」


「あぁ、まぁそうだね。ハハハ」


へらへらと返事をした男性は額をさすりながらリビングへ入ってきた。

まず目に入ったのは少女と同じ紅の髪。そしてサファイアの瞳。一見ヒョロい感じに見えるが、よく見ると鍛えられた体躯、そして自信に満ち溢れている目つきだ。この人とあの子は兄弟なのかな?色々似てるし。髪の色とか、目の色とか、アホ毛とか。


「何してたのよおにぃ」


「いや何をしていたと言われてましても、そりゃ見ていたですよ、妹よ」


あ、やっぱり兄妹なんだ。


「見てたってなによ!いくらこの人が可愛いからって、男の匂いプンプンさせるんじゃないわよ!」


「なっ!そんな匂いなんてしないし、そもそもそのような事を考えてなどいない!断じて考えてはいないぞ!安心してくれ」


ちらっと私を一瞬見た青年と目線が交わり、男は慌てて目をそらした。


「ふぅ〜ん。まぁいいわ」


「あのぉ」


「「なに?」」


2人同時にこちらを向き、そして同じ返しで返事してきたので私はびっくりして、数秒止まってしまった。この兄妹は本当に仲が良いんだなあ。


「あの、お二人は兄妹なんですかね?」


「ええ、そうよ!そういえば、自己紹介がまだだったわね!私の名前はアリー・アルガンド!15歳で、このタノン村で商売をしているわ!」


アリーという少女は向日葵のような笑顔を顔に咲かせてそう言った。元気な女の子だ、仲良くしたいな。


「それでこっちがバカおにぃのアイルよ」


「おまえなぁ、お兄ちゃんをバカって言うのやめろよなぁ」


一つため息をついた青年アイルは私の目を真っ直ぐ見て


「俺はアイル・アルガンド。アイルって呼んでくれよな!特技は、そうだなぁ。闘う事と寝る事かなぁ」


「寝るって何よ、そんな挨拶普通しないわよ」


「でも他になんて言えばいいのか分かんないだよ」


先程終わったも思った口喧嘩がまたしても始まった。二人の会話を見ていた私は、警戒を解いた。逆に何故か安堵をし、笑い出してしまった。


「ごめんなさい。ちょっとあなた達が面白くって。笑って、しまって...あははは」


笑った。大笑いした。こんなに笑ったのはいつ以来だっただろうか。この二人を見ていると、なんでか懐かしさを感じて心が温かくなっていくのを私は感じずにはいられなかった。

私が笑っているのを見た二人は顔を見合わせて吹き出した。




「ごめんなさいね。笑ってしまって」


「ううん、いいんだよ。それよりあなたの名前を教えてくれないかしら?」


アリーにそう言われて改めて私がまだ名乗っていないのに気づいた。


「私の、名前...。」


「ん?」


「私の名前は、ルナ。ルナよ」


ルナ。その名前はあの子から貰った名前だ。大切なあの子がつけてくれた、大事な大事な名前。両手を胸に添え、目を閉じて私は自己紹介をした。


「ルナか。いい名前だな!」


「あ、ありがとうございます」


初めて他人に名前を呼ばれた本当に私は嬉しかった。

目を開けて私の前に出たアイルが手を伸ばして握手を求めてきた。アイルの顔を見ると、ニコッと優しい笑顔を見せた。私もそんな彼の手を笑顔で取り、握手をした。


「はじめまして。よろしくな」


「こちらこそ、はじめまして。どうぞよろしくお願いします」


私とアイルは目を見てお互いに「よろしく」と言い合った。


「ずるーい!私だってルナさんと握手したいもん!」


そう言ってアリーは私の左手を掴んだ。そして私たちはまた3人で笑いあった。

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