第4話「邂逅前夜」
「はぁ...はぁ....はぁ...」
草木の生い茂る暗闇の森の中を私は裸足で走っていた。視界は薄っすらと夜空で輝く銀色の月光により照らされてはいるが、十分に前を見ることはできない。
行先を閉ざすように横から伸びる枝が肌を掠め、かすり傷が灼けるように熱い。
生足で全力疾走をしているため、尖った石を踏んづけたり足場の悪い地面を走るので、足の裏を激痛が襲い、走るのもやっとの状態だ。
ここは何処だろう。どのくらい走り続けているのだろう。
冷たく乾燥した空気が肺を通り、そのまま外に放出される。夜の森は気温が低くて吐き出す息は白く、視界を曇らせる。荒い呼吸で喘ぐように息を吐きながら我武者羅に私は駆けた。
なぜ走るのか。
理由はわかっている。
脅威が迫ってくるからだ。
その脅威は、後ろから迫ってくる黒い獣。その黒獣は牙を剥き、涎を垂らし、鋭い赤眼で睨まれて捕まったら最後、血肉の塊になって無様に食料にされてしまうだろう。
そんな残酷な未来に抗うためどうにか撒こうと走り続けるが、体力の限界が近い...。
嫌だ。死にたくない。誰か助けて...
そう思った刹那。何かが爆発する音が鳴った。
何が起こったのか。
不意に足元がおぼつかなくなる。ついに走ることもできなくなったかと思った。
だが違った。足場が地割れし、崩れ、崩落したのだ。
「きゃあーー!」
叫びながら私は数メートル下の地面に落ちて行った。
辛うじて地面に叩きつけられるのは避け、軽い打撲で済んだが足を少し挫いてしまった。
崩れた大地は崖になって、崖の上には追って来ていた黒い獣の群れが群がっていた。
ーーその中に一つ、黒いフードを被った人影がフッと現れた。その人影は私が崖下で倒れているのを見ると獣達と一緒に消えていった。
いけない。追ってくる。捕まってしまう。逃げなくては。
私は足を叩き、心と体を奮起させて更に森の深層へ、奥へ、逃げなければ...
そうして彼女は片足を引きずりながら森の奥へと消えていった....。
森の中には魔獣を率いる1人の男がいた。
真っ黒いマントで全身を覆い隠し、身の丈は男にしては少し小さい。体も細く弱々しい印象のつく中年の男だった。灰色の目を爛々と輝かせ、細く荒れた手で長いもみあげを指でクルクル巻いている。
「ふぅむ。どこに行ったのでしょう?」
しゃくれた顎を撫でながら何かを探しているのか、夜の森を探索中のようだ。
「あなたは東、あなたは西を。それ以外は北を探しなさい。それと、村にはまだ近づかないように」
そう言って黒い狼達に指示を出すと、黒狼は喉を鳴らしながら男の言う通りに各々違う方角へ散って行った。
「ふむ。それにしても?彼女はどこに行ったのでしょうね?早く探し出さなければ。朝が来てしまいます。」
男はブツブツ独り言を言いながら、ヒェッヒェッと高い吃逆のような不気味な笑いをあげていた。
「やっと現れたのです。連れ帰ってボスに渡してやるのです。ヒェッヒェッヒェッ。」
そうして男は暗闇の中へ消えて行った。
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