放浪人

第弍雨『放浪人』

「今日も暇ですねぇ……。」

「先生〜ッ!」

「おや? 如何どうしたんです、そんなに慌てて…。」


「自分は別に逃げたりしませんよ?」とのんびりお茶を飲みつつ、『先生』と呼ばれた人物は慌てて駆けてきた小狐を落ち着かせるように頭を撫でつつ、問う。

小狐もそれで少し冷静になったのか、理由を話し始めた。


「た、旅のお方が…倒れられてて……ッ! と、取り敢えず先生に診てもらおう、思うて……ッ…!」

「旅のお人、ですか?」

「あい! この人なんやけど…。」


そう言いつつ、小狐がずるずる引き摺ってきたのは紺地の着物に菅笠を被ったまだ二十歳そこらだろう青年だった。

その青年は「ぅ、うぅ…ん……。」と呻きつつも、まだ息はあるように見える。


「せ、先生……だ、大丈夫、なんやろか…この人……。」

「見た所栄養不足な上に無茶したんだろうねぇ? 顔色が悪いし、身体の所々に細やかな傷を作っている所を見るとね。」

「お、起きはる? わては何をしたらええんや?」

「そうですね、取り敢えずこの人奥座敷に運んでもらえませんか、自分は薬草や薬粥を持ってきますから。」

「わ、わ、分かりますた!」


『先生』はすっと音を立てずに縁側から立ち上がると薬草の仕舞ってある、薬草部屋に消えていった。

小狐はその綺麗で凛とした姿に尻尾をピーンッと立てて暫く感動で動けなかったが、『先生』の言葉を思い出し、旅人をずるずると奥座敷まで運ぶ事にした──。

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