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「すみません、涼暮ですけれど、今戻りました」
私は病院に着き、自分の入院していた階のナースセンターに顔を出したら、看護師さんが鬼のような形相で飛び出してきた。白衣の天使という様相がどこにもないのが、心底申し訳なかった。
「涼暮さん!? どこに行ってたんですか! まあ、こんなにびしょびしょになって……」
「……すみません」
当然ながら私は、帰ってきて早々こっぴどく怒られた。
そりゃそうだ。勝手に倒れた挙句、びしょ濡れで帰ってきたんだから。途中で傘を買ったとはいっても、それまではずっと雨に打たれていたんだから。
「すぐ替えの服持ってきますから、部屋に戻って下さい!!」
「あの、服の替えは持って……」
「いいですから! その後車椅子も持ってきますから、すぐ検査しますよ!」
「車椅子……? 私別に車椅子なくっても自力で検査に行けます……」
「い・い・で・す・か・ら・!」
私は看護師さんに気取られるままに、大人しく入院していた部屋に戻って待っていると、すぐに看護師さんがやってきた。私が大人しく着替えようとするまえに、看護師さんのほうからきびきびと私の服に手をかけはじめたのが気恥ずかしくって、私は思わず抵抗する。
「あのう……自分で着替えられます」
「駄目ですよ! もう今日は雨なのに出歩いて……」
「はあ……すみません」
自分の抵抗は全てスルーされ、無理矢理着ていた服をひっぺがされて、全身を温かいタオルで拭き清められた後、乾いたタオルでもう一度拭かれた。
その手さばきは鮮やかで、私が恥ずかしがっている暇もないほどだった。そのまま替えの寝間着に着替えさせられるのに、私はお人形のように大人しくしていることしかできなかった。
着替え終わったら、そのまま看護師さんの押してきた車椅子に座らされると、レントゲン、CTスキャンと検査をはしごさせられることとなった。雨に打たれて肺炎をこじらせていないかと検査に回されたのだ。
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結局あれだけぐしょぐしょになって帰ってきたにも関わらず風邪ひとつひいてはおらず、私が突然呼吸困難で倒れたことも、私がパニック障害の過呼吸症状持ちだと説明したら納得してくれた。私の通っている心療内科と調整した上で薬を出してくれ、あちこち検査した後、私はそのまま退院した。
貯金、結構貯まっていたのに、今回の入院でほとんどなくなっちゃったなあ。私は入院代を支払った結果寂しくなってしまった銀行の通帳を見て、溜息をついた。
まあ仕方ないや。私は通帳をしまうと、次にしたのは実家への電話だった。
「お母さん、少し話したいんだけど大丈夫?」
私は持病で倒れてまた入院したことと、忘れてたことを思い出したことを話し、ちゃんと治療し直したいと話した。
お母さんはぎょっとしていたけれど、夢で見た時ほどの動揺はないように見えた。いや、多分我慢してくれているんだろうな。私は本当に馬鹿だな、こんなに心配かけてさ……。
お母さんとお父さんは、私のストーカーのこともパニック障害のこともよく知っていてくれたから、治療には賛成してくれた。
普通に生活していて、いきなり何度も何度も倒れたら日常生活なんて送れないし。何よりも、パニック障害のことを理解してくれている病院ならいいけれど、理解していない病院だったら、私はきっと倒れても何度も何度も訳のわからない検査に回されるのなんて、馬鹿みたいだもの。
治療のために、大学には休学届けを出すことになった。
しばらくは実家で治療するために、アパートから出ることになった。
それからは結構忙しかった気がする。
病院に通いながら、復学用の勉強もしていた。大学で事務員バイトし続けて、そのまま就職を決めると言う私の目論見から大きく外れてしまった以上は、何かひとつくらいスキルがないと厳しいもんなあ。
やがて時間が足早に過ぎて行った。
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