閑話 冷凍倉庫
暦の上では既に夏。それでもここで仕事している人間はジャンパーを欠かすことはない。外の気温とは大違いなこの場所では、ジャンパーは必要不可欠だ。
今日もカーを押しながら、置いてある商品の賞味期限のチェックをして回る。
吐く息は白く、箱のひとつひとつを見て回るのは肌が痛いし骨の折れる作業だが、それでもしないといけないわけがある。
「これ、もう賞味期限切れています」
「すごいな、これ。フォションのアイスだ。今日のおやつは豪勢だぞ」
「それそんなに高いんですか?」
「ばっか。こいつなんてハーゲンダッツよりも高いんだから」
「うわ……でもそんなもの届かなかったんなら、届かなかった人ショックでしょうね?」
「転居届とかしっかりしてくれてたら、不在で倉庫行きになんてならなかったのに」
「そうですよねえ。……ここの棚、もう賞味期限切れないです」
「じゃあ次―」
賞味期限の切れたものはポイポイとカーに積み上げられていく。
賞味期限を切れたものを置いておくほど、ここの倉庫は広くもないし、保管しないといけないものは、毎日押し寄せてくるのだから、スペースはあるに越したことはないのだ。
毎日賞味期限の切れたものは処分するなり倉庫管理者たちに配られるなりして、倉庫のスペースは確保されている。
「すっごい、これ神戸牛ですよ! 賞味期限……ああ、惜しい。明日までです」
「明後日まで、残っているといいな。まあ無理だろうけど。明日皆で豪勢な昼飯にしてるよ。神戸牛の焼肉定食なんて、これまた豪華な」
「羨ましいなあ、先輩……そういえば」
「どうした?」
「最近あの子来ませんね」
「あの子って?」
「あの陰気な子ですよ。よく働いてくれたんですけど」
「あー……いたな、そんな奴。最近の若いのは何かあったら何も言わずに辞めるから」
ひとりだけに構っていられるほど、残念ながら職場は親切にはできていない。仕事の合間合間に連絡をいれるのがせいぜいだ。
「電話したんですけど繋がらないんですよ。メールは一応しているんですけど、こっちも全然返事がないんですよね。もう一度電話した方がいいですかね?」
「そりゃそうだろ。制服返してもらわないと、使い回せない」
「そこですか。先輩冷たい」
「こっちは体冷たくなるまで倉庫を見て回っているんだから。辞めるのならそれなりの手続きしてくれないと、次の雇えないだろうが。それまで人数減った分でシフト回さないといけないんだから」
「先輩本当に冷たい」
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