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「今日お召のスカート、良くお似合ですよ」

「やめてよマスター。あんなにきつく言われていたのに、これ穿いて行ったら母親に呆れられたんだから。どうしてもスカートだけは履いて来なさいって言われてたから、どうにか選んできたってのに」

「とてもお綺麗ですよ」

 クールビューティーってまさにこんな感じ。

「でも、ダメなんだって。一目見た瞬間睨まれたもん」

 ふぅ、と深く息を吐いてグラスを傾ける。

「母親は、多分、女の子らしいのを期待していたんだと思うんだよね。だってお見合いだし」

 カウンターに肘を立てて手を組む。その顔は何処か寂し気だ。

「でもわたしはそうじゃないから。お見合いだからって急に女の子のわたしを作れないし」

 だって、と一度言葉を止める。

「それじゃ、本当のわたしじゃないでしょ?」

「本当の?」

「わたしは、フレアのスカートなんて履かないし、ふりふりのブラスも着ない。スカートでって言われたから“わたし”でいられるスカートを選んだだけ。ぶりぶりの似合わないスカートを穿くより、本当のわたしでいられるスカートを穿きたかった。それにその方が良いと思ったんだよね」

 母親のことは考えないでね、と口角を上げて言う。

「未来の旦那さんになるかもしれない人にずっと嘘を付けないでしょ。本当はぶりぶりな服装は嫌いなんですって」

「確かに」

「そ。だから母親の期待を裏切ってまでこのスカートを選んだ」

 それに、と続けて、ふふふと笑った顔は、今まで見たスミレさんの中で一番に乙女ちっくだった。

「もし本当のわたしを一目見て少しでも好意を持ってもらえたら、ロマンチックだと思わない?」

 本当の答えはこれか、とはにかむ彼女を見て思った。どんな服装をしていても、“王子様”を探す乙女なのだ。

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