タイトスカートの願い
カゲトモ
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かろん。
「こんばんは」
軽やかな声が聞こえた。短い髪がドアの扉と共に揺れる。
「いらっしゃいませ」
モデルのように背の高い女性がカツンカツンと床を鳴らしてスツールに腰かける。
「珍しいですね」
「え?」
「スミレさんがスカートをお召しなのは」
「あー」
と気のない声を出しては涼やかな目元が歪む。
「まぁ、ちょっとね」
まるでそう言われることを分かっていたかのように、スミレさんはサラッと答えた。
「どうしても今日だけはそうしなさいってきつく言われていたもんでね。柄にもなくこんなお上品な服を着ているってわけ」
「おや、今日は何か特別なことでもあったのですか?」
スミレさんの“いつもの”を作りながら訊ねてみた。“いつもの”はブラッディ・メアリー。トマトジュースがとても好きらしい。
「あ~、マスター訊いてくれる~?」
モチのロンだとも。
「ぷはぁ」
一気にグラスの半分を空けたかと思うと、おっさんみたいに息を吐いた。もちろん通常運転だ。まだ二十代のうら若き乙女だというのに。
「今日さぁ」
「はい」
「実はお見合いだったんだよね」
「えっ」
「だからこんな恰好をしている訳なんだけど」
そう言って白いブラウスの襟を指ではじいた。今日は白いブラウスに黒いレースのタイトスカートをお召しだ。横にリットの入った少し長めのスカートはスミレさんに良く似合う。
「こんなの着たの、学生振りじゃない? 高校卒業してからスカートなんて初めて穿いた気がする」
「制服のスカートが最後なんですか?」
「だって仕事でスカート穿かないし。クローゼットに入ってないと思う。買った記憶もない」
確かに。スミレさんはいつもパンツ姿な気がする。クールでロックなファッションに身を包むスミレさんには、スキニ―が良く似合う。
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