この道
韮谷 トム
*
10月9日火曜日テレビを見ていると女子高生が登校中、交通事故に巻き込まれ亡くなったというニュースが流れ込んできた。一週間前には飛行機が墜落して乗客68名が亡くなったというニュースがあった。自分の家族、親戚、友達、赤子を殺すのも普通な社会になっている。そんな社会を生きている私もいつ死ぬかは分からない。今、家のリビングに火炎瓶が投げ込まれ火事になって、私も焼け死んでしまう可能性は十分にあるのだ。手元に置いてある黒いノートを広げる。予行練習を始めて78日が経った。自殺予行練習とは私が作ったお遊びであり、趣味であり、大切な日常だ。私は事故に巻き込まれることも隕石が衝突することも人類滅亡も戦争も望まない。病死など以ての外だ。とにかく、自分以外のものに、死を弄ばれることが嫌なのだ。私にぴったりの美しい死に方。それを追求している。
今日もイヤホンをつけ学校へ向かう。イヤホンからは国民的な歌手の甘い歌声が聞こえてくる。いつもと同じ道は赤く染まってきている。つまらなそうな顔のサラリーマン、気取って歩く女子高生、黄色い帽子を振り回しながらかけていく小学生、地元の中学に通う男子中学生たち、私はいつも思う。どうして大人はあんなにつまらなそうな顔をしてるんだろうって。どうして子供はあんなに晴れやかな顔をしてるんだろうって。大人のつまらなそうな顔を見たら私までつまらない気持ちになってしまう。駅はいつものように混み合っていた。鳴り響くベルの音、怒鳴り合うおじさんたち、私と同じようにイヤホンをした学生、会社員。混み合ってるのは駅だけじゃない。電車の車内だって負けじと混み合っている。重箱に詰められるように電車に乗り込む。むっとするようなたばこのにおいが漂っている。中学までは6駅ある。どうしてこんなに遠い中学に行かなければならないのか、楽しくもない中学に必要以上の時間をかけて行かなければならないのか、大人は何も教えてくれなかった。でもそれはもうどうだっていい。今日はどんな予行練習をしようか。この間の溺死のやり方をもう数パターン考えるべきか、それとも飛び降り自殺の予行練習に入るべきなのか。秋の朝、学校まではあと3駅だ。
この道 韮谷 トム @takaiyama
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。この道の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます