第36話 少女はペリメニを頂く。檀家さんのご馳走編。

 今晩がペリメニを作るからそれまではお聖人しょうにんさんと共にお葬式の手伝いを行わなきゃ。


「ねぇ。お聖人しょうにんさん。」


「絵里奈。君のお腹は凄く神聖な身体になってきているな。」


「へへっ。私の身体がこんなに神聖だと言われると少し顔が赤くなっちゃう。」


 私のお腹はお墓となり、お腹の中で死人の肉を消化して骨にする体内葬が行われている。


 今や、火葬より墓守女子の体内葬の方が主流になっている現在、仏教の女人禁制にょにんきんせいは既に過去の因習となり、現在は女性聖人しょうにんも多くいる世の中になっていた。


「絵里奈ちゃん。あんたのお腹を出してそれが新たな葬式方法になっている以上、もう火葬も女人禁制にょにんきんせいも過去の遺産となりつつある。だが、それは君の死や老い、閉経などがなくなる事を意味するからな。」


 そう、墓守女子では自殺する事は非常に禁忌きんきとされている。

 いや、禁忌きんきとされているよりは自殺不可能な状況にたたされている。

 それは自分達の死が失われ、病気や癌細胞を作れる権利すら奪われた状態で身体は魂が抜けたら新しい魂にその身体を提供しなければならない義務を持っているからだ。


 そして、私の身体には無数の魂が存在しており、それが私の身体を守護する霊にもなっている。


 そんな私の身体で凄く大事にされる世の中、墓守女子の肉体は朽ちる事も閉経する権利もない中で私の身体は私の精神異常に悩んでいると感じた。

**********

 それから檀家さんの家に到着し、これから私はお腹を丸出しにして、顔を隠す準備を始めた。


 別にこれくらいは問題ないが、葬式中は背中を出すのを防ぐため、手や足や大きなテーブルで固定され、動けない状況になった。


 墓守女子の職業は決して楽な職業ではない。


 法事の際は背中を向けられると拙いので仰向けになった状態でお腹を丸出しにされ、手足は事実上、縛られる。

 これをやると非人道的だと思われるが、私達のお腹を遺族が優しく撫でる事で魂が成仏され、多くの魂が安心してあの世へと行ける準備だった。


 だが、墓守女子はあの世へ行ける権利を失い、身体はいつまでも女子高生の姿のままで過ごさなければならない。

 私は結構、これが辛いと思いながらもそういう職業だと思うと少し安心し、クスっと笑えた。


 そして法事を終え、これから檀家さんとの食事を行う際、こんな料理が出された。


「お待ちどう様。絵里奈ちゃん。」


「ありがとう。私にはどんな料理が来るの?」


「それはペリメニというロシアの餃子だよ。」


「ペリメニか…。何かお腹の中で働いている直紀さんにそんな料理を毎日提供されたな。」


「そうなんだ。」


 私はこのペリメニが如何に美味しい料理だと思いながら、これからこの餃子をご賞味する事にした。


「凄い…。生クリームが濃厚で餃子を上手く溶け込んでいる…。これ、どうやって作ったの?」


「絵里奈ちゃん。このペリメニはね…。生クリームとサワークリームを混ぜながら、カッテージチーズを作って、溶かしたものなんだよ。」


「へぇ~。そんなペリメニの食べ方があるんだね。」


「ふふっ。そうだね。アンタのお腹の中にいる直紀さんが普段からペリメニを作ろうとする事に大いなる評価をしていただきたいが、それでもアンタは凄く良い仕事をしているね。」


「それはどういう事?」


「アンタの墓守女子になった影響で泣き、母親がアンタのお腹の中で成仏され、魂もアンタの身体で時々、休みながら浄化しているんだよ。」


「私の身体で魂の浄化…。」


 私にはとても理解しがたい内容だったが、私の身体で浄化される事はそれだけ汚れを取り除く能力が私の身体の中にあると薄々、感じた。


 それがどういう事なのか解らないながらも私の身体で凄く魂の汚れを浄化する能力が逆に私の生命力の強さになると同時に、私の身体から凄く強い生命力を出していると感じた。


 私が死ねないからなのか、私の身体は物凄い強い生命力と市に対する恐怖が確かに墓守女子になってから非常に溢れている。


 それを大事にしながら、これか私もこの身体が特別な身体だと思い、これから私は生きたいと感じた。


「ふふっ。絵里奈ちゃん。君が、墓守女子に選ばれて凄く檀家さんにとっては嬉しかったんじゃないか。」


「うん。そうだね。」


千提聖人せんだいしょうにんさんも凄く優しい顔をしながら良い慧眼力を持っていて凄い良いですね。」


「いえいえ。こういうのが私のお仕事ですから大丈夫ですよ。」


 お聖人しょうにんさんも凄く喜んでいると思いつつ、これから私はこの慧眼力けいがんりょくを確かめながら本格的に彼女を良くしたいと思いつつ、これから私の身体を大事にしていかなければならないと痛感した。


 この身体は私の物であって私のものではない。


 私の身体は墓守女子という公共の身体になっている以上、そこから避けられる手段は何処にも存在しないから…。

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