永町さん、考える。
◇
なんとか生徒会長に出店希望届を提出することはできた。
生徒会室にあの後行ったら生徒会長と直接お会いすることが出来て、その時に「今日逃したら何言われても出店はなしだったぞ。危なかったな」と言われた。
提出し、少し生徒会から離れたところで氷上くんは「もう少し猶予くれてもいいじゃねーか」としょぼくれていたけど、生徒会長のおっしゃる通りだと思う。
そのための締め切りだ。
ただでさえクラス数が多いのに、あとからぼろぼろと参加希望者が出てきたら取り纏める物も纏まらない。
それから数日後のことだ。
休み時間に、わざわざ空いているドアをノックして訪ねてくる人がいた。
私は提出した際にその顔を見たことがあったので、訪ねてきたその人のもとに進んで歩み寄った。
彼も私の顔を覚えていたらしく、私に気付くなり「お」と目と口を少し丸くしてから、小さく会釈をした。
年上でしかも生徒会長にそんな対応されてしまっては私も丁寧にその場に立ち止まって頭を下げるしかない。
机が並ぶ道中で会釈を返してから小走りでどうやらお呼びらしいその人のところへ向かう。
「この前提出に来てくれたな。永町、だったか?」
「……えっ」
なんで名前を?
やや戸惑う私に、生徒会長は威圧感のない精悍な笑みをたたえながら自分の胸元を指さす。
ぜどうやら前回会った時に見た名札のことを覚えていたらしい。
今もつけているので『だったか?』という表現ではなく断言できるはずなのだが、そこはこの人の距離の測り方なのだろうか。
もしくはその読み方であっているか、という確認なのかもしれない。
「永町雫です。この前はありがとうございました」
「こちらこそ参加表明をどうもありがとう。その件なんだが、今時間は大丈夫か?」
「あ、はい」
その件というのが出店希望届なら、私ではなく文化祭実行委員が直接聞くべきだったのかもしれない。その時の私はそこまで頭が回っていなかった。
突然の生徒会長の来訪だ。少しは緊張してしまったということで不出来なところは目を瞑ってほしい。
年上で生徒会長とはいえ、同じ生徒であることには変わらない。
けれどされど生徒会長なのだから敬うべきなのだろう。
それもあるが慣れているわけではいない男性となると、いささか緊張してしまう。加えて礼儀正しいので無礼がないようにと身構えるせいで尚萎縮する。
怖い、といったものはないので本当にただただ私側の問題なのだけれど。
生徒会長本人は非常に話しやすい人だ。
はきはきと話すし、声も通る。それでいて大きいわけではなく適切な声量を保っている。
表情も快明で分かりやすい。
どこを支持されて当選したのかは分からないが、人柄で選ばれたとしても人材を見られたとしても納得できてしまうのは対面して人柄をある程度把握できたが故の先入観なのだろうか。
それとも。
現在生徒会長は2年生で立候補時は1年生であったはず。もちろん上級生の立候補者はいただろう。
それを差し置いて当選した何かがあると思っているから、『この人は向いている』と感じてしまうのだろうか。
「前もって知らせていた通り、今年も飲食店にどうも偏っていてだな。クラスで店舗の詳細を決めて、期日にプレゼンをしてほしい」
そう言いながら、会長は1枚の紙を差し出して来た。
委員会にて話していた内容だろうか。
私は初耳だ。
そうなんですか? とつい言いかけたところを堪え「分かりました」とその紙を受け取る。
見ると、提出した希望届のコピーだった。
それに赤ペンで『どのような?』とか、『もっと具体的に』といった一言が書き加えられている。
「初めてで急にプレゼンしろと言われても困るだろうから、私たちなりに掘り下げられそうなところに指摘を入れさせてもらった。もちろんシカトしてくれても構わない。実は隠しているだけでPRする箇所が既に決まっているというのなら、胸を張ってそれで勝負しに来てほしい」
「分かりました」
「おっと、発表日は記入してあるか? した記憶がない」
「あります。下部に17日、と」
「櫻井か、流石だな。――そういうことなのだが、何か聞いておきたいことはあるか?」
「……いえ、今のところは」
「了解した。何かあったらまた生徒会室にでも気軽に来てくれ。もちろん俺がいる2年5組でもいい。男を呼びつけるのが怖かったら7組の『櫻井』という女でも捕まえてくれ」
「分かりました。ご足労ありがとうございます」
再度頭を下げると、はは、と会長が笑う。
素で笑うと意外にもふにゃりと表情を和らげる笑い方をする人らしい。
「真面目だな」
「……」
硬すぎただろうか。
初対面の人や少し親しくなった友人に「他人行儀なところがあるよね」と言われてしまうのが私の悪癖だ。
「気が向いたら、来年、生徒会に立候補してくれ。君みたいな人を我々は待っている」
失礼しました。
最後にそう言って生徒会長もまた会釈をして去っていった。
会長の数歩先に一人の女性が仁王立ちしていた。
上履きの色から察するに2年生。
髪は運動部のように短く、髪型だけとるなら男性とも見て取れる。
シャープな印象を抱けるのは、それに加えて手足が長いからだろう。
「また勧誘してただろ」
「見ていたのか、櫻井。真面目で話しやすい子だったからな」
「その言い方、ナンパと同じじゃね?」
「なにっ。……もしかして気味悪がられただろうか。それは申し訳ないことをした」
「申し訳なく思うことねぇよ。お前は気味悪いんだから」
「……君は俺に対して申し訳なく思ってくれないか?」
「手間だから断る」
「……」
とりあえず、あの人が櫻井さんらしい。
◇
そんな経緯があってからの放課後。
「その子、ショートカットで目がちょっときつい感じの子?」
「そう……かもしれないです。すみません、少し遠かったので」
「まぁそうよねぇ。でも生天目くんと一緒にいるってことは、そうね。その子が『櫻井さん』で間違いないと思うわ」
ね、幸村。
緋咲さんがそう問いかけると、正面の先輩は言葉なく頷いた。
「あのお二人、仲がいいんですか? どうもクラスは違うみたいですけど」
「仲ねぇ……。いいと思う? 幸村」
そこで先輩の意見を挟むらしい。
緋咲さんの目だけでは判断できないということだろうか。この人、そういう見極めは鋭いと思うのだけれど。
「さぁ? 生天目、誰にでもあの距離だから」
「それはあるわよね。だって幸村も会うたびに絡まれてるものね」
「そう。だるい」
「うわー、今度会った時チクっちゃお」
そう言いながら緋咲さんは少し悪い顔で笑った。
「つか、なんでそんなクラス違うのに仲いいんすか? 去年センパイとカイチョーと同じクラスだったんすか?」
「違う」
そう答える幸村センパイと同じタイミングで緋咲さんも「違うのよね」と答える。
「私たちの代、頭おかしかったのよ」
「お前も当事者だろうが」
「え、え、なんすかなんすか?」
「あのね、私たちが1年の頃の1学期中間と期末、あと夏季課題試験って3回連続で1位が同じ人って教科があったのよ」
「うわぁ……クレイジーだぁ」
氷上くんが溶け切った口調で相槌を打つ。でも、あながち同意見かもしれない。
3回連続って、そんな確率がありえるのだろうか。
いや、緋咲さんさんが嘘言ってるわけはないだろうしその言い分だと幸村先輩も当事者らしいのでありえてしまったことなのだろうけど。
「物理があたしで、幸村が日本史。英語が生天目くん。数学が櫻井ちゃん。現国が畦倉くん、だったっけ?」
「んー……、まぁ、そんなもん」
「何よ煮え切らないわね」
「1年の頃日本史ねぇからな」
「……えっ、あたし幻覚見てた?」
「俺、生物」
「……あぁ!!」
緋咲さんが声を大にして驚くのはちょっと珍しいけど、それはともかく、やっぱり。
ウチの高校は日本史選択は2年からと決まっている。
厳密には文系理系でクラス分けが行われるのが2年生からだ。
それに伴って日本史、世界史、化学、物理、生物あたりはクラスによって必修が違うらしい。他クラスとの交流がないのでよく分からないが、偶に時間割にない教科の教科書を仮に別のクラスの子が駆け込んでくるのを見たことがある。
「そうよ! そうだわ! そのせいで1年の間幸村のことを理系って勘違いした人が何人いたことか!」
「勝手にしただけじゃねぇか」
「多分生天目くんがあんたにご執心なのはそこよ! 理系選択してこっち来るんだろうなと思ったらいないんですもの! 楽しみにしてたのに!」
「はぁ。生天目の話なのかお前の主観なのか分からねぇけど、理系は無理だから無理」
「……」
緋咲さんが露骨に冷めた表情に切り替えて、わざとらしく頬杖を突く。
先輩の何かがお気に召さなかったらしい。
理系は無理――要は苦手である、という断言が成績と裏腹なのが納得いかないのだろう。その気持ちは分からないこともない。
偶にいるのよね。どうして両立できるの? って不思議なぐらい満遍なく点数が取れる人。羨ましいわ。私は目に見えて理系教科の方が劣っているから。
可能なら理系に進みたいのだけれど、無理そうだからと今のところ文系に定めている。そのせいで将来の像が定まらない。
「……委員長も同種デスヨネ」
「へ」
見ると、緋咲さんとお揃いのしらーっとした顔で氷上君が私を見ていた。
「何がよ」
「いや、アナタもセンパイと同じ人種ですよって話ぃ!!」
……こちらも何かがお気に召さなかったらしい。
……まぁ、氷上くんはこの手の話題は何であれ発狂したくなるだろうけど。好きじゃないらしいから。
私も別に好きではないけれど。
「ねー。やんなっちゃうわよねー、勇士くん。なんで両立できるのか意味わかんないわよねー?」
「っすよねー。何食ったらそうなるのか意味わかんないっすよ。きっと俺らと違うもん食ってるんすよ」
「氷上、その女しれっと政経10位内に入ってくるぞ」
「裏切者ぉ!!!」
断罪された緋咲さんは両の頬に手を当てて、ただでさえ大きい目を心なしかもっと大きくしてやや小首をかしげながら顎を引く。
きゃるるん、とでも表現するべきなんだろうか。そういうすっとぼけ方が許される可愛らしい顔をした先輩なのだ。この人は。
「あ、ところで。ねぇねぇ、雫」
緋咲さんが机の上に腕を折って重ね、そこに顔をつける。そして私の方を見る。
上体がやや倒れているため、図らずか図ってなのか上目遣いだ。
そういう仕草を見るたびに、この人は本当に『自分』という素材の活かし方をよく分かっているとつい見つめ返してしまう。
自分らしい振る舞いというのが板につきすぎている。
きっと自然体が既にそれで完成されているのだろう。だから満点の緋咲さんを見ることは珍しくないのだが、いつも以上にあどけなく見えるのはテンションが上がっているからだろう。
「1年生の間で、生天目くんってどんな感じ?」
そんな緋咲さんの突然の問いが私の入り口でひっかかる。
生天目くん――生徒会長ってどんな感じ。
どんな感じ、とは?
ちゃんと先輩らしく生徒会長らしくある? っていう話だろうか。
でもそれだと頭の『1年生の間』という聞き方と何かが一致しない。
間、ということは少なくとも複数いる状況でなければ成り立たない。
生徒会長の振る舞いは会長からの一方通行のもので、『間』で成立するものではない。それを成立させるためには私たち1年生側が後輩らしくならなければ『間』が生じない。
「困らせてんじゃねぇ」
いたぁい、と緋咲さんが痛くなさそうに嘆く。
表面上に変化はなかったので、おそらく、机の下で幸村先輩に蹴られたのだと思う。
いえ別に困ってるわけじゃ、と弁明する間もなく「だってぇ」と緋咲さんが肩頬を膨らませる。
「雫とそういう話してみたかったんだもん」
「相手を選べ」
「だぁって幸村してくれないじゃないそういう話」
「するわけねぇしされたくもねぇだろ」
「……うん」
「ほらみろ」
……幸村先輩、なんだか日に日に緋咲さんのあしらい方がうまくなっているような。
そんな先輩に公言した通り、どうやら緋咲さんは私と話がしたいらしく、また私の方に顔を向けてくる。
「生天目くん、かっこいいって話出てない?」
かっこいい、というのはやっぱり顔の話なんだろうか。
真っ先にそう思うぐらいには少しだけ話題になっていた。
生徒会長直々に私たちの教室を訪ねてくれたそのすぐあとのことだ。
それが緋咲さんがお求めの話なのだろうと仮定して私はその旨を伝える。
私はあの堂々とした立ち振る舞いの方がかっこいいと思ったけれど。
自分が絶対と思っているような独りよがりではなく、でも自分が間違っていないという確信のもとに振る舞われる佇まいが素敵だと思う。
というのはあくまでも私の感想なので伏せておく。
緋咲さんが聞きたいのはそういうことではなさそうだし。
「やっぱかっこいいんだなぁ、生天目くん」
「2年生の間でもそうなんですか?」
「そうねぇ。といってもあれよ、『目の保養』ってやつ」
あぁ、噂の。
なるほど。あの顔立ちが世間一般で言う『カッコいい』なのね。
一つ勉強になった。……なったのかしら、これ。
「あ、でもガチ恋勢もいるのかな。いるかぁ、生天目くんだもんなぁ」
緋咲さん、というか2年生女子の間での生徒会長の評価が良く分からない。
『目の保養』ということは見掛け倒しということじゃないんだろうか。
黙っていればなんとやらの類義語じゃないんだろうか。……分からない。
「……生徒会長、女性人気あるんですか?」
「そうよ。3年生に告られたって話もあって」
「え」
どうして学年が違うのにそこに至るまでの魅力を感じられたのか。
偶に聞く話だけど理解に苦しむ。
「でも断ったらしいのよね、彼。それから実は櫻井ちゃんと付き合ってるんじゃないのかって噂になったり」
正面の幸村先輩が無言で怪訝そうな顔をする。
どうしてそうなった? と言いたげに見えるのは私がそう思ったからかもしれない。
女の子ってそういう想像力豊かよね。私も同じところに分類される身ではあるのだけれど。
「あ、でも2年で一番人気なのは生天目くんじゃなくて櫻井ちゃんだから」
これには堪えられなかったのか、幸村先輩が忍び笑う。
櫻井さんというのは生徒会長の傍にいたあの女性のことだ。
女性人気ナンバーワンは、どうやら女性らしい。
「そうなのよ、去年、ってか二人はまだ知らないかしら。文化祭ってミスコンがあるんだけど、その司会をね櫻井ちゃんがやったのよ」
生徒会役員としての仕事の一環だろうか。
文化祭のイベントごとの進行は文化祭実行委員の管轄なような気がするけれど。
「それでね、あ、そもそもミスコンって男装と女装が認められてるんだけど」
「「え」」
氷上くんと声があった。
どれぐらいの参加者がいるのか分からないけれど、それはなんともカオスな……。
やはりお祭り騒ぎになることだろうし、一定数そういった参加者がいるのだろうか。
というか、『ミスコン』の正式名称はその場合どちらになるのだろう。
ミスター? ミス? どちらも踏まえた上での略称且つ正式名称だったりするのか。
「せっかくだからって演劇部が張り切って参加側じゃないのに櫻井ちゃんを男の子に仕立て上げちゃって。で、あの子性格も男の子だからそれっきりあたしたちはあの子が推しなのよ」
見かけた時は距離があったから正確には測れなかったけれど、身長が高い人でもあるのだろうか。
「一青ちゃんがあんなに似合ってたんだからウチの麗も似合うと思って男装カフェにでもしちゃおうかなって思ってたんだけど……」
うーん、と緋咲さんが難しい表情で唸る。
彼女の前には1枚の用紙。ちなみに、私の前にも同じ用紙がある。
噂の生天目生徒会長がクラスに持ってきてくれた用紙だ。
プレゼンの材料にしてほしいと会長の一言が添えられている例のもの。
どういった傾向で固めればいいのか分からず、先人の知恵に泣きつきに部室に足を運んだ次第だ。
虫が良すぎると思ったけれど、クラスで決めたことなのでなんとか尽力したい。
そう思ったのだけれど、やっぱり必要なのは明確な具体性になりそうだ。
とはいえその具体性を1点に縛るまでの過程が難しい。
「男装カフェって、緋咲さん、男やるんすか?」
「うーん……。でもあたし、お世辞にも男に見える顔してないからなぁ……」
見える? と緋咲さんが問いかけると、幸村先輩は彼女の顔を見るまでもなく「見えない」と即答。
……見えないですよ。貴方は。
「ようは手っ取り早くコスプレ喫茶っていう名目にしちゃえば万事解決なんだろうけど、被るのよね」
「やっぱりそうなんですね……」
見た目の変化が手っ取り早く自然と人の目を引き付けるため『お祭りごと』の雰囲気を作るには手っ取り早いのだけれど、緋咲さんのように非日常を装えるひと時だからこそ普段しない格好をしたいと考える人は結構な数いるだろうから結果が偏ってしまう。
他に個性を出せるとしたらメニューなのだろうけれど、調理することを想定していない教室で作れるものは限られているのでやはりそこも重なってしまう。
選択肢が少ない中、みんなの要望を織り交ぜて、且つ独特でなければならない。
……駄目だ。私はマニュアル人間なところがあるのでこういった独創性を求められると弱い。
単純な雑務だったら力になれるのだけれど。
「幸村のところは? 被ってないの?」
「被ると、何、生天目がくんの?」
「みたいよ。他と候補が似てるから第2希望に変更するか、プレゼンの準備をしてほしいって言われるみたい」
「多分来てねぇから通ったんだろ」
「え、すご……。誰の案?」
「蜂須賀」
「あー……。あーちゃん、個性の塊だからなぁ。爆発してるもんね、個性」
「個性が服着て歩いてるからな」
「それは言えてる」
その評価は芸術性が高いという意味であってるんだろうか。
……変な人、という意味では本当にないんだろうか。
二人の口ぶりが讃えているように聞こえなかったのは私が歪んでいるから、ではないと思いたい。感心はしているようではあったけれど。
「難しいなぁ、メニューは決まってるからそこ一点突破でいいかしら。あとクラスTのデザインも考えないとだし」
緋咲さんが可愛らしいシャーペンの頭でむにむにと自分の頬をさす。
……決まってるんだ。いいなぁ。
私のところはまず食べ物にするか飲み物にするのかも決まってない。
やっぱり話し合いの時間を設けないとだめかしら。でも、みんな忙しいから放課後に時間をとってって言うのは難しい。
「緋咲さんのクラスはいつ話し合って決めたんですか?」
「放課後よ。集まってって、クラスメイト全員捕まえたの。幸村のとこもそんなんじゃない?」
「俺のとこは何も参考になんねぇぞ」
「いいからいいから」
「いいからって、あの蜂須賀だぜ? 休み時間に教卓の上で胡坐かいて演説始めたかと思えば指名して意見求めてくるような奴が何の参考になるんだよ」
「流石あーちゃん、派手に動くわね」
ここまでくるといっそのこと蜂須賀さんという方にお会いしたい。
でもここまで積極的だとすると、文化祭実行委員だったりするのでは。氷上くんは顔知っているのかもしれない。
まぁ、そんな彼女のすることは私にとっては参考にならないけれど。
私はそこまで恥を捨てられそうにない。尤も、蜂須賀さんを恥ずかしい人といいたいわけではないけれど。
目立つことが得意な人っているわよね。私にはできないことだから誰であれそれが出来る人は尊敬する。
蜂須賀さんの戦法はともかく、王道なのは放課後に集めることだろう。
「……」
そういうのを覚悟のうえで総務委員を引き受けてはいるけれど、得意というわけではない。その提案を邪険に思う人はいるでしょうから。
でも仕方ない。割り切るしかない。誰にでも好かれようなんて無理なことは初めから諦めておくのよ、雫。
「氷上くん、明日みんなに聞いてみましょうか」
明日集まれるか、という問いの前に。
いつかの放課後集まっても問題ないか、と明日訪ねる。
「あぁ、うん、まぁそうだな」
……気のせいかしら。ものすごく適当な返事に聞こえたのだけれど。
「話、聞いてた? 氷上くん」
「き、聞いてた。聞いてた聞いてた。もちろん聞いてましたもの。なぁにをおっしゃいますですの」
「……」
とりあえず明日水楢さんに提案してみよう。
そこからじゃないと始まらない。
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