第2話 いいわけ
1
放課後、僕はいつものように秋と二人で部室にいた。特に何をするでもなく、部室でだらだらするのは僕らの日課といっても過言ではなかった。
「なぁ、秋」
「なんだ?」
秋は3×3のルービックキューブをいじりながら答える。
「笑わないできいてくれ。宇宙人っていると思うか?」
唐突な質問に秋は一瞬きょとんとした表情をした後、「あっはは」と声を出して笑い始めた。
「笑うなよ」
僕が少し不機嫌そうに言ったため、秋は
「ごめん、ごめん」
と一応謝罪の言葉を口にした。
「でも、真剣にそんなこと言われたら笑ってしまうよ。」
まだ、笑いは収まらない様子だった。
「まぁー、どうだろうね。UFO研究家とオカルト否定派の討論バトルはおもしろいから、よくテレビで見るけど、あれ見てたらとても宇宙人を信じる気にはなれないかな。」
そういって、秋はルービックキューブを再び触り始めた。1時間近く触っているが完成していないところを見るとまだまだかかるのだろう。
秋は宇宙人を信じていない様子だった。当然だろう。
僕は昨日のことを思い出す。
空から、赤と青の球体が空から落ちてきたこと。
カッパに似た宇宙人に襲われたこと。
古風な美少女の宇宙人と出会ったこと。
宇宙忍者とやらに変身したこと。
昔から宇宙人が地球に来ており、宇宙人の姿は妖怪として現代に伝わっていること。
そして、先祖の黒勢神居が宇宙人と交流があったこと。
昨日のことは夢だったのだろうか。
ガラガラっと扉の開く音がした。貴船さんだ。貴船さんは昨日と同じく本を探しに来たようだ。
「聞いてくれよ。貴船。志野がいきなり宇宙人はいるかってきいてきたんだぜ。お前からも何か言ってやれよ。」
秋が貴船さんを巻き込んでからかおうとしてくる。
「私は信じてるわよ。宇宙人」
貴船さんはさらっと返した。意外にも宇宙人を信じている派だったようだ。
「えー、意外だな。お前、真面目だし、信じてないと思った。」
「真面目と宇宙人を信じるのは関係ないんじゃないの?」
貴船さんは冷静に答える。
「科学的じゃないって言う人もいるけど、人が観測できる宇宙には限界があるわ。まだまだ未知の世界だし、どこかにいると私は思っているわよ。」
「それに、宇宙人は人類の歴史が始まる前から地球に来ていたとする説もあるのよ。古代文明の遺跡から出た、土器や壁画に宇宙人をモチーフにしたと解釈するものがあったり、神話は宇宙人との遭遇を元にして作られたとする人もいるわ。」
鋭い人もいたんだなと僕は思い頷く。
「UFOには何種類にも分類があって、アダムスキー型、円盤型、球型…」
貴船さんはUFO、宇宙人オタクだったようだ。
「お前の責任だからな。最後まで聞けよ。」
「えー、話振ったのは秋だろ。」
僕らは小声で責任のなすりつけ合いをした。話はまだまだ終わりそうになかった。
「まぁ、こんなに貴船さんが楽しそうに話すことは珍しいし最後まで聞こうか。」
「まぁ、そうだな。わかった」
秋も同意したことだし、もう少し貴船さんの話を聞こうと思い、彼女の方を向きなおしたところ、白い物体がチラッと目に映る。
目をこすり見直してみると、昨日会った少女、ルリエが窓の外から手を振っていた。
2
部室は一階に位置しており、外にいるルリエの姿はここから良く見えた。ルリエは昨日会った時と同じように屈託のない笑顔でこちらに手を振っている。僕が何の反応もしていないためか、さっきよりも手ぶりが大きくなってきている。
「あぁっ」
驚いて声を出してしまった。二人ともこちらを見る。幸いにも窓と反対の方向を見ることになったため、外のルリエには気づいていない。
「何、急に声出して?」
「こっちも驚いたじゃねーか」
二人か僕の突然の大声に対してクレームが飛び交う。
「ちょっと、教室に…。そう!教室に忘れ物したから取ってくるね。」
「えっ、話はまだ終わってないわよ。」
引き止める声を無視して、僕は部室を出た。
老朽化で床のタイルが少しはげた老化を猛ダッシュした。誰かにあの姿を見られるとまずい。あんな奇抜な格好をした美少女が僕の名前を出せば、明日からクラスで好奇の的にされてしまう。
外に出ると彼女は出入り口に置いてあるベンチにちょこんと座っていた。
助かった。まだ、だれにも見つかっていないようだ。
「志野様!」
そう言って、嬉しそうに駆け寄ってきた。抱きつきそうな勢いだったので、僕はひらりと横にかわす。
「とりあえず言いたいことはたくさんあるけど、まずは服!その服目立ちすぎ!どうにかしてくれ!」
白いピッタリとした奇抜な服を学校で着ている人はいない。たとえ着ている人が美少女で絵になっていても関係ない。誰かに見られたら一貫の終わりだ。
「服ですか?」
「そうそう、ここは学校だから制服というものがあってね…」
「分かりました。それではこれでどうですか?」
そう言って彼女は首元の銀色のボタンを押した。すると、白色の服はみるみると変化していき、暗部高校の制服に変わった。男子の制服に…
「違う、違う!それは学ラン!女子はセーラー服だから、もうひとつの方!」
「あぁ、そちらなのですね。」
もう一度、銀色のボタンを押すと今度こそセーラー服に変わった。
ボタンひとつで服が変化する姿を見て、改めて目の前の少女が地球人でないことを思い知らされる。
「どうですか?似合っていますか?」
スカートの両端をもって、彼女は嬉しそうにほほ笑む。年相応の振る舞いに見えるが、彼女は確か母親が450年前に暗部に来ていたと言っていたので、僕よりもはるかに年上なんだろう。
「それで何しに来たんだよ。」
僕がそう言ってベンチに座ると、彼女も僕の横に座った。
「もちろん決まってるじゃないですか。うちゅ―」
「忍者になれっていうのならお断りだよ。昨日も言ったじゃないか。」
そう、話は昨日僕はカッパを倒して巻物に閉じ込めた後に遡る。
宝がどこか何て言われてもなんのことかわからなかったし、あんな寺に宇宙で一番の宝なんてあるはずがない。
だから、僕はもう関係ないことだと思って、黒い手袋を彼女に返して帰ろうとした。けれど、彼女は僕の服の裾を掴んで引き止めた。
「どうしたの?」
「お願いです。一緒に宝を探してくれませんか?それに…、また、同じように宝を狙ってる者が来るかもしれません。だから…その…守ってほしいんです。」
彼女の目は少し潤んでいるようにみえた。だけど、突然宇宙人と戦ってくださいと言われても、受け入れることはできなかった。今回は倒すことができたが、今後、自分の力でどうにか出来る保障はなかったし、単純に怖かった。
だから、僕は一言だけ、
「断る。」
と言って帰った。
そのため、彼女は宇宙忍者とやらになってもらうため、この学校に来てまで説得しようとしているのだろう。でも、僕の意見は変わらない。
「用件はそれだけ?」
帰ろうとするとまた彼女は服の裾を掴んで引き止めてきた。
「とりあえず、450年前に何があったのか話だけでも聞いてくれませんか?」
「確かにそれは気になるかな。まぁ、話だけなら」
僕は座り直した。
「まず私の母の話をします。私たちの星、マーメイクス星は科学技術に優れた星でした。もちろん、私の母もすぐれた科学者であり、さまざまな研究を行っていました。そんなある日、母はレムリア星の遺物の鑑定を依頼されました。レムリア星は何億年前にも栄えた星でしたが、優れた文明をもっており、今のどの星よりも優れた技術を保有していたと言われています。そして、母は鑑定を依頼された遺物の中の一つがレムリアの技術を集結させて作った遺物、『レムリアの紅玉」であることを突き止めました。レムリアの文献にはこう書いてありました。『紅玉は力欲する者のもとに現る。それを得たものは全てを手にする』と。依頼してきたのは、表向きは調査団体でしたが、裏では武装組織に遺物を横流ししている団体だと調べ上げた母は、紅玉を隠すために旅へと出ました。そして、この星地球に辿り着いたのです。」
途中、彼女は空を見上げる。
「もともと、地球は主要な航路から外れた辺鄙な星でした。補給のため訪れる星人もいくらかいましたが、ここなら誰にも発見されることはないだろうと思ったのでしょう。けれども、そんな星だからこそ無法な星人もおりました。マーメイクス星の者は高価な機材をもっていることが多かったので、追剥というやつですね。何度も狙われたそうです。母が黒勢神居様に会ったのは丁度そのころです。黒勢様は暗部寺に住まれており、無法な星人をあやかしやもののけの類だと思い退治することを生業としていました。助けられた母は、しばらく暗部寺に住むことにし、黒勢様の強さを目の当たりにしました。そして、母は紅玉を暗部寺に封印し、黒勢様に守護してもらうことにしたのです。」
暑さから、僕は汗を拭うが彼女は涼しい顔だ。
「しかし、どこからか噂が流れ始めたのです。地球という星の暗部寺に宇宙一の宝『レムリアの紅玉』が眠っていると。そのため、私は亡き母に代わって『レムリアの紅玉』を別の場所に封印するためこの星に来たのです。」
これまた壮大な話だ。こんな片田舎に宇宙人が来ていたとは。それにしても、黒勢神居は一体どんな人物だったのだろうか。生身であんな化け物を倒していたのか。
「なるほどね。でも、それならもともと宇宙忍者に僕がなる予定はなったんじゃないの?」
「いえ…、別の場所に封印するまでの間。その、何ていうか…黒勢様のご子孫に守ってもらおうと思いこのシノビチェンジグローブを作りました…。もともとは母が作っていたものですが、母が亡くなってからは私が研究を引き継いで完成させたのですが」
どうやら、当初僕は宇宙の旅に同伴する予定だったようだ。
「そんなの勝手だよ。」
僕は一言だけつぶやいた。
彼女は少しうつむく。
「それに僕の祖先に守られたからと言っても、僕が戦う理由にはならないよ。」
「母から伝えられたのです。黒勢神居様がずっと守ると約束してくださったと。だから、宇宙忍者には黒勢神居様の子孫にしか変身できません。」
「だから、関係ないよ。僕は黒勢志野であって、神居ではない。その宝だって寺には残ってないし、約束だってずっと守られるものじゃない。それに、あんな化け物とずっと戦う自信なんかないよ。僕は強くない」
「でも…志野様は黒勢神居様のご子孫ではありませんか。私は信じています。ご子孫である志野様ならどんな者が来ても負けることはないと。だから…」
「もういい!」
僕は自分らしくもなく大声で言葉を遮った。
「黒勢神居は僕の誇りだ。この土地で知らない人はいないし、暗部では英雄的存在だ。生まれた時から、黒勢神居の子孫であることは僕の自慢だった。だけど、そんな立派な先祖をもつのに僕は何もできない!勉強も運動も人並みだし、何一つ誇れるところはない!僕は自信がないんだ!みんな言っている気がするんだ。黒勢神居の子孫なのにお前は何もできないのかって。わかるか?黒勢神居は誇りであると同時に僕のコンプレックスでもあるんだ。子孫だから負けることはないって?あんたに何が分かるんだ!勝手なことを言うな!」
彼女は黙ってこちらを見ていた。その顔から感情を読み取ることは出来ない。悲しんでいるだろうか。はたまた、見当違いの人物で失望しているだろうか。でも、僕にはもうどうでもよかった。今ここを離れたらもう会わないだろうと思っていた。
「おっ、何か声が聞こえると思ったら。あれ黒勢じゃないか。女と一緒にいるぞ」
「ホントだ。可愛い子と一緒じゃないか」
向こうで男子生徒の声が聞こえた。遠くから二人組が歩いてくる。多分、クラスメイトだ。こんな現場を見られたら何言われるか分からない。
これ以上、ここにいる理由はなかった。僕は彼女を置いて走り去った。
3
いつの間にか僕は学校をでて自転車を漕いでいた。夕暮れ時だが、日差しが弱まる様子はない。アスファルトは夏の日差しで熱くなっており、自転車のタイヤは焦げそうだった。
僕はさっきのことを思い出す。
確かに黒勢神居は僕のコンプレックスだったが、どうしてあんなに大きな声を出したのか自分でも分からなかった。少し言いすぎたかもしれない。僕はやや自己嫌悪に陥っていた。
だからといって、引き受けた方がよかったのかと言われたら、それは違うと思う。こんな気持ちでは無理だ。中途半端なことして一番困るのは彼女だ。宇宙は広い。彼女を守ってくれる人は他にいるだろう。警察のような組織だってあるだろうし、僕が戦ってどうにかなるような話ではない。
「きっとそうだ」
僕は自分に言い聞かせるようにつぶやいた。
数十分自転車を漕ぐと昨日の池についた。
昨日は邪魔がはいったし、全く落ち着くことができなかった。もう一度、水面を見ようと思い僕は来た。
だが、どうやら今日は先客がいるようだった。池のほとりに座っている人影がある。同じ暗部高校の制服だ。よく見てみると、見憶える顔のようだ。それは隣の席の近衛君だった。何か独り言をつぶやいている。
「昨日、水泥池に隕石が落ちるの確かに見たんだけどなー」
どうやら、昨日の宇宙船の不時着を目撃したようだ。しかし、信じてもらえず、痕跡を探しに来たってところか。
僕が出ていったところで何も言うことはあるまい。そう思い池から立ち去ろうとした時、ボコボコと水面から大きめの音がした。
見てみると、緑の人型のものが池からあらわれていた。その姿は昨日のカッパとほぼ同じだった。違うところは全身に黒いトライバル模様の刺青があるところと、昨日よりも筋骨隆々で体が30センチほど大きく見えるところだ。
「うわぁぁ」
近衛君は腰が抜けたようで、座ったまま立ち上がれないようだ。
「*******」
この星では使われていない言語でカッパは近衛君に話しかける。
近衛君は震えていた。怯えた目でカッパを見ている。
助けなくちゃいけない。
そう思ったが足は動かない。昨日ほど混乱しておらず、カッパの強さを知ったためか恐怖心が頭の中を駆け巡る。
「情けない。本当に情けない」
心の声が漏れる。
そうか、僕は戦うことが怖かったんだ。だから、ルリエの願いを断っていたんだ。本当は助けてほしいと言ってもらって嬉しかった。自分に自信がないなんてただのいいわけだ。ただ怖かっただけだ。
じいちゃんが忍術を教えてくれなくなってからも、僕はずっと忍術の練習を一人でしてきた。黒勢神居のようになりたかったから。誰かのために戦うことができる人間になりたかったから。コンプレックスとしでなく、心の底から誇りとして祖先を受け入れたかったから。でも、いいわけしていたら前には進めない。
僕は深呼吸をする。そして、心を落ち着かせるために手を結ぶ。
臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前
もともと、九字は精神統一し、心を落ち着かせるもの。恐怖心が少し和らいだ気がする。
怖いからクラスメイトを見捨てるわけにはいけない。それこそ、ただのいいわけだ。何もできない自分だけど、見て見ぬふりは出来ない。
「やめろ!」
僕は大声を出して注意をひきつけ注意をこちらに向ける。そして、近衛君の方に駆け寄る。どうやら彼は気を失っているようだった。カッパはこちらに向かってくる。そして僕のベルトを取り豪快に投げた。まるで、上手投げだ。地面にたたきつけられ、体中が痛む。続けてカッパは足で踏みつけようとしてきたため、地面を転がりよけた。何度も踏みつけようとしてくるため、僕も何度も転がる。隙をみて立ち上がり、間合いを取ったがこれからどうしようか。そう思っている時だった。
「お困りですか!」
女の声が聞こえる。振り向くとルリエが立っていた。
4
「何しに来たんだよ」
僕は突っぱねるように言った。でも、彼女も引く気はなさそうだった。
「私は!」
彼女が大声を出す。カッパが間合いを詰めてきた。僕はカッパの攻撃をよけながら、彼女の声に耳を傾ける。
「私はずっと不安でした!ここは知らない星だし、母を助けた人の子孫といってもどんな人かわからなかったし、そもそも子孫がいるのかも分かりませんでした!でも、私は地球について初めて接触した人が神居様の子孫であるあなたでした!初めて会った、あなたのその優しい目にどれだけ安心したか!それに、あなたはアグロリアンとの戦いで殺しはしないと言った!強い力を身につけても驕ることのないあなたの心はなによりも私を惹きつけました!今もあなたは友達のために自分を顧みず助けようとしている。そんな、あなただから私は信じているのです!だから…だから、私の力になって欲しいんです!」
彼女は力強いまなざしで僕を見ていた。その凛とした姿は美しく、神々しささえ感じた。
「そんなこと言うためにわざわざこんなところまで来たの?」
「はい!」
そう言って今度はいたずらっ子のような微笑みで答える。僕の心を読んでいるかのようだ。
「しょうがないな。なってやるよ!そこまで言われたら断れないだろ!」
そういって、僕が手を伸ばすと彼女は手袋を投げた。それを受け取り、僕は手袋をつける。
「シノビチェンジ!」
臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前
そして、結びの印を組む。
両手から黒いバンテージのような物が伸び僕を包み変身する。
「変化完了!」
僕はファイティングポーズを決める。
「なんだお前バカか」
カッパの話してることがわかる。おそらく、ルリエがなにか翻訳する機械をもっているのだろう。
「バカじゃねよ。俺は宇宙忍者だ。いつだって本気だ!」
身体強化のため、臨・闘と印を結ぶ。
「うりゃあ!」
互いに腰のあたりを掴み合う。
「ちなみにアグロリアンはスグロルという格闘技を使いますのでご注意を。」
「ようは相撲だろ。今度は負けねえよ。」
上手を取れれていたため、僕は下手で投げ返す。
「ぐわっ」
カッパが声をあげる。
「来いよ、アグロ星人!」
「ひとまとめにするな!」
カッパは右手のチョップと左足のローキックを同時に繰り出す。
僕はバランスを崩し、膝をつく。
「星によってはさまざまな種族がおり、~星人とひとまとめで言われることを嫌う者もいます。今回は同じアグロ星出身でも、アグロリアンと種族が違います。」
「ご忠告どうも!ところで他に術はないの?」
カッパがかかと落としをしてきたのでギリギリでかわして質問する。
「臨・皆と印を結ぶことで硬化の術です。」
「オッケー」
僕は臨・皆と印を結び、最後に刀鞘印を組む。
「よっしゃ、こい!」
カッパが連続で張り手を繰り出してくるが、硬化の術を使っているため痛くはない。
「ぐうぅ」
カッパに焦りの色が見える。今だ!
「おりゃぁ!」
素早く臨・闘と印を結び、僕はアッパーをカッパにくらわせる。
カッパは大きくふっとんだ。
「今です!」
ルリエの合図で僕は臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前と印を結ぶ。
「九字だけで最大パワーが出せます。一度、試してみてください。」
「分かった。」
ふらつきながら立ち上がるカッパに僕は前転をしながら、回転してキックをあびせる。
「忍び浴びせ蹴り!!」
カッパのヘルメットが割れ、カッパは膝をつき前のめりに倒れる。
僕は腰の電子巻物を手にとり、カッパに向けてボタンを押す。電子巻物はカッパに巻きつき、巻物の中に閉じ込められた。
ルリエが駆け寄ってくる。
「戦ってる時は俺っていうんですね。」
「最初の一言がそれかい。」
「すいません。それと、ありがとうございました。」
「いいよ。それに決めたんだもう言い訳しないって。」
言葉を聞いて、彼女は微笑む。
「うう」
近衛君が目を覚ましたようだ。
「隠れといて」
ルリエを隠して、僕は変身したまま声をかける。
「大丈夫か?カッパはたおしたよ。」
「うわっ、忍者だ。もしかして…神居様?」
どうやら、黒勢神居と勘違いしているようだった。
僕は否定も肯定もせず
「もう大丈夫だから。」
と安心させるために声をかけた。
すると、いきなり後ろからルリエがハンカチで近衛君の口をふさいだ。
「うぅぅ」と言って、近衛君は気を失った。
「今の何?」
「今のは記憶を失わせる薬品を含ませたハンカチです。1時間くらいは記憶がなくなるので、さっきのことは忘れますよ。」
「何よりも怖いよ!知らない人がみたら犯罪現場だよ!まぁ、次使う時は別の方法を考えようか。」
「そうですか」
彼女は少し残念そうに答える。
「それともう一つ決めたことがある。」
「なんですか?」
「変身してる時は神居を名乗ることにするわ。宇宙忍者カムイ!語呂もいいし。」
「コンプレックスだったのではないですか?」
「もういいんだ。近衛君も黒勢神居と勘違いしていたし、暗部で戦うには何かと都合がいい。もし、誰かに宇宙人と戦っている姿を見られても、神居だと言えば相手を妖怪の類だと思うし、暗部の人ならなにかと協力してくれるよ。」
彼女はにっこりとほほ笑む。夕日を浴びて、水面がキラキラと輝いている。
「じゃあ、まず寺を案内するよ。」
「はい!」
彼女は元気に返事した。
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