第3話 囲まれて

 授業が終わった後、案の定、アスの周りには人だかりが出来ていた。


「ここの編入試験って難しいのによく合格できたね」

「私、有名人に会うのって初めてなの!」

「海外あちこち飛び回っているって聞いたけど、本当なの?」

「名探偵の叔父さんが居るってホント?」


 アスに群がる生徒達から浴びせられる質問は尽きることは無い。

 僕もさっき聞いたばかりだが、どうやらアスとたーちゃんは結構有名な探偵らしい。

 世間ではJK探偵&高校生探偵と言う名で囃し立てられているらしい。

 まぁ、そんなことは僕にとっては何の関係もないことだ。


「いやぁ。先生達には虫を見るような目で見られていたからこの学校の皆に嫌われているんだと思ったけど、案外そうでもないみたいだから、俺は嬉しいなー。そういえば、そろそろ昼食だろ? おーい。ショウ!」


 いきなりアスは立ち上がって斜め後ろに居る僕の名前を叫ぶ。

 群がっていたクラスメイト達は一斉に僕の顔を見た。


「……何?」


 一斉に視線が集まったので、僕はドキッとしてしまった。


「お昼ご飯一緒に食べようぜ! たーちゃんも誘うからさ」

「た、たーちゃんも来るなら……いいけど」

「よし、決まりだな。っと、その前にもう1限頑張らなきゃな」


 アスはそう言って再び座ると、丁度2限目が始まることを知らせるチャイムが鳴り響いた。



 2限が終了し、クラスメイトは購買や食堂へと向かう。

 一方の僕はというと、


「どうして、こんなに宿題が出るんだよぉ……」


 2限の数学の教師が出した鬼のような宿題の範囲を蛍光ペンでマークしていた。


「おーい。ショウ約束通りご飯食べに行こうぜ」


 そんな僕のところにアスがやって来た。


「何しているんだ?」

「さっき出された宿題の範囲をマークしてるんだよ。明日が土日だからって先生宿題を出しすぎなんだよぉ……」


 僕の答えにアスはふーんと素っ気ない返事を返す。


「アスもちゃんとしておいたほうがいいぞ。宿題未提出もペナルティだからさ」

「なんでもかんでもペナルティを科すとか絶対王政もいいところだな。この学校は。俺は分からない所はたーちゃんに聞くからいいんだよ。あいつ、アメリカで大学院まで飛び級しているから」

「へー、そうなんだ……えぇ!?」


 アスの言葉を聞き流そうとして、トンでもない事実を聞かされて思わず二度見してしまった。


「たーちゃんの家庭の方針でな。まぁ、たーちゃん自身元から頭がいいから、すんなりと飛び級してたよ。一昨年全課程修了したって言っていたなぁ」


 彼女のトンでもない話を聞いてしまって、更に僕はときめいてしまった。

 あんな可憐な顔をして才女とはしゅごい。


「詳しいことはたーちゃん本人に聞きな。先に食堂にたーちゃんは向かっているだろうから、行こうぜ」


 アスは僕の手首をとって、食堂に向かう。



「頭を使うことしか能がないだけですよ。私はあーくんみたいに体力もないですから」


 彼女は苦笑を浮かべながらカフェラテを飲んだ。


「俺は体力馬鹿だけど、たーちゃんは頭脳担当って感じだな」

「でも、頭がいいのは凄いと思いますよ! 僕も要領よくなりたいですから」

「フフ。ありがとうございます」


 彼女の眩しい笑顔が僕に向けられる。

 ま、眩しくて直視できない。


「本当にショウって、たーちゃんに好意を寄せているよな。俺と話すときとは大違いだ」


 アスは僕にジト目でそう言った。


「あっくんが意地悪をするからだよ。そうですよね? ショウさん」


 たーちゃんの問いに僕は全力で首を縦に振って肯定のサインを示す。


「本当か? まぁいい。今朝発見された女子生徒の遺体のことだが」


 いきなりアスは昼食時に似合わないヘビーな話をし始めた。


「学校側は事故死ということで片づけたらしいぞ。でも、俺は学校サイドが騒ぎをこれ以上広がらないようにするための偽装工作だと思っている」


 アスはそういうとお冷をぐいっと一気飲みした。




「コレは間違いなく殺人だよ」

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